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No1098-3『親密さ(long version)』~届かない言葉の行方を追って~

『親密さ(long version)』の後半、演劇の冒頭の方で朗読される
「花火」という詩については、前回(No1098-2)で少し紹介したが、
悲しみだけで終わるものではなかった。

あなたに届かず、地面にたまった私の言葉は、
最後に、あなたの線香花火に引火して
小さなはじまりのような爆発を起こす。
その爆発はいまも私の身体に響いていて、
いつのまにか、しけっているようだった私の魂に
火が灯っている・・

そんなふうにして終わる。
(実際に朗読された言葉とは異なりますが、こんなイメージ)

届かない思いも言葉も、消えるわけではない。
いつか、時間の経過を経て、なんらかの形で、
自分自身の中に何かが起こる・・可能性を教えてくれる。

劇中では、
恋多き乙女の女子大生のゆきえが、
義兄の衛のルームメイトのしんちゃんに恋をする。
でも、しんちゃんは、佳代子のことが好きで、
佳代ちゃんもしんちゃんのことが好き。
両思いになりそうな気配を薄々本人とも気付いている。

でも、当のゆきえは、しんちゃんに夢中で、
兄にも佳代ちゃんにも、自分の恋心を告白し、
しんちゃんへのラブレターを書き、
電話で、佳代ちゃんに聞いてもらう。
このラブレターは、率直な思いをつづった、とてもすてきな文面で、
佳代ちゃんはいい手紙だねと言う。

でも、結局、そのラブレターはしんちゃんに届くことはなく、
妹に、しんのすけに近づくのはやめとけ、と制していた兄の手で破り捨てられる。
届かない言葉、届かない愛を、私たちは目にする。

演劇の最後は、「ラブレター」という詩の朗読で締めくくられる。
届かない愛の言葉は、たったひとりの相手に向けて書かれたものだけれど、
誰の胸にも届く、という意味の言葉で終わりを告げる。

届かなかった言葉は、昇華して、
誰の心にも届く言葉となるという。
この結末はすてきだ。

世界に届かない手紙はあふれている。
でも・・

ふと、ユーミンの「瞳を閉じて」という歌を思い出した。
これは、かつてNHKの「みんなのうた」で聴いて
(「みんなのうた」で歌っていたのはユーミンとは別の人)
大好きになり、歌詞カードをつくった歌。

「風がやんだら 沖まで船を出そう
手紙を入れたガラスびんを持って
遠いところへ行った友達に
潮騒の音がもう一度届くように
今 海に流そう  」
(作詞・作曲 荒井由実 アルバム『MISSLIM』)

誰かの心の砂浜に、打ち寄せられるかもしれない
言葉のつまったガラスびん。
そんな海の波の音を聴きながら眠りにつきたい。

こんなことを考えていたら、
今日(8/4)の読売新聞で小泉今日子さんが
夏休みの1冊として、
寺山修司の『寺山修司少女詩集』角川文庫を推薦し、
「一ばんみじかい抒情詩」を引用しておられた。
とってもいい詩なので、ご紹介したい。
ネットで調べたところ、
「海」という章の一番最初の詩だそうである。

「一ばんみじかい抒情詩
                  
なみだは
にんげんのつくることのできる
一ばん小さな
海です

(改頁)

つきよのうみに
いちまいの
てがみをながして
やりました

つきのひかりに
てらされて
てがみはあおく
なるでしょう

ひとがさかなと
よぶものは
みんなだれかのてがみです」                

小泉さんが紹介されていたのは、冒頭の一節。
くしくも、この詩にも「てがみ」が出てきて、びっくり。

『親密さ』が私の心に巻き起こした余韻は、いまも続いていて、
こころの修復に、手を貸してくれている。感謝…。

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