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No800『黄色い星の子供たち』~史実を基に丁寧につくりあげた佳作~

パリの街角で始まった光景が、悲劇へところがり落ちていく。
1942年7月、パリで行われたユダヤ人の一斉検挙。
女性も子どもも赤ん坊も1万3千人ものユダヤ人が
ヴェル・ディヴ(冬季競輪場)に
5日間、水や食糧もなく、押し込められる。
その後、郊外の収容所に移されるが…。

ナチスから受けた迫害の様子を
検挙された子ども達、家族の側からリアルに描き、
涙が止まらない。

 

夜明け前、突然ユダヤ人の身の上に降りかかった悲劇を
かくまったり、守ったりしたフランス人たちがいる。
自分の子の一人として隠そうとしたのに
肝心の子どもは、ユタヤ人の母親に「ママ」と呼びかけ、嘘がばれたり、
牧師や、名の知れぬ無数の街角の人たちが救いの手をさしのべる。
震災や戦争といった災いにあった人びとが互いに助け合ったように、
人種を超え、人が人として互いに助け合う姿が丁寧に描かれる。

競輪場で水を配る消防士たち。
憎憎しく思っていた軍人が、
競輪場から逃げようとするユダヤ人の少女を捕まえると思いきや、
「よく化けた」と囁き素性を知りながらも、みてみないふりをして逃がしてくれる。

 

 

家族だからこそ一緒に支えあっていた人たちを
男と女で、大人と子どもで、別れ別れにしてしまう無慈悲さ。
彼らが乗った電車の行き先を映画は描かない。
乗る前に、貴重品をすべて没収する軍人に、

自らも検挙されたユダヤ人の医者と、
赤十字から派遣され、
競輪場や収容所で働くフランス人看護師アネットが
すばらしい。
熱があっても、自分の身体をいとわず献身的に子供たちの世話にいそしむアネット。
演じるのはメラニー・ロラン(『オーケストラ!』のバイオリニスト)で
魂のこもった演技にただ涙。

親子をばらばらにしてしまう軍人たちに、
なんてひどいことをするのかと激怒し、叫び、つかみかかる。
ものいえぬユダヤ人たちの思いを、彼女が代弁しているがことく、
まわりじゅうのユダヤ人が、しんとなって、彼女を見つめ、
無言で、目で、感謝の気持ちを伝える。
ジャン・レノ演じる医者の寡黙に働く後姿もいい。

列車にこどもと分かれて乗せられるクライマックス。

こどもがかわいい。
主人公のジョー、友達のシモン、シモンの幼い弟ノノ。
ノノの母が亡くなったことを伝聞で表したり、
ことさらに悲しみをあおりたてない演出
好感が持てる。

ジョーのしっかりした目が救いだ。
母親が別れ際、号泣し、万感の思いをこめて叫ぶ。
「あなたは生きなさい
、生き抜くのよ」と。
これが最後の挨拶になると、
父も心して、目と目であいさつする悲しさ。
 

子供たちの無邪気さが悲しみを募らせる。
ママにあげると花を摘んで貨車にのる少女、
ママに会いに行くのだとノノは
一番に懸命に走って、トラックに乗ろうとする。

 

ラスト、ジョーがこちらを見つめる瞳の力に込められた万感の思いに
涙するしかない。
その手前ではメリーゴーランドが回っている構図の上手さ。

 

収容所で、ラジオから流れる音楽を聞きながら
皆がダンスに興じる、ほんのひとときの幸せそうな姿が
痛切に心に刻み込まれる。

ジャーナリスト出身のフランス人女性監督ローズ・ボッシュが
3年の歳月をかけて調査を進め、
実際に一斉検挙された子どもの中で生き残った人物に会って、
主人公のジョーの人物像をつくりだす。
アネットは、実在した看護婦であり、
医師は、実際の複数の医師たちから作り上げた役。
メラニーロランの祖父がアウシュヴィッツに強制送還され、
生き延びていたとパンフレットにあり、
演技する彼女の胸の底にある熱い思いを感じる。

映画の作り手たちの
フランス人としての贖罪の意識に裏打ちされた、
真実を描こうとする熱い思い、意気込みが全編にあふれる。

邦題は、6歳以上のユダヤ人全員が黄色の星をつける命令が
一斉検挙の約1ヶ月前に出されたことからくる。
原題は『La Rafle』で、ヴィシー政権によるこの1942年の一斉検挙のこと。

某新聞の映画評では、医師と看護師のヒロイズムをもっと抑制すべきとあったが、
私は、この2人よかったと思う。
さて、あなたはどう感じるでしょうか。

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