映画の感想をざっくばらんに、パラパラ読めるよう綴っています。最近は映画だけでなく音楽などなど、心に印象に残ったことも。
パラパラ映画手帖
No1124-1『ペコロスの母に会いに行く』~母の人生の重みがじんわり迫る~
振り向いた表情の哀しさに釘づけになる。
つらい過去も全部ひっくるめて、
その人自身の人生として
あたたかく描き出す。
認知症の母みつえと、団塊世代のゆういちとの
さりげない毎日を、ユーモアいっぱいに描く。
介護施設に入ったみつえは、認知症で、息子の顔を忘れてしまう。
施設を訪れた息子が、帽子をとって、
はげた頭を見せると、息子だとわかる。
ペコロスは小玉ねぎのこと。
みつえは、認知症で、死んだ夫や幼なじみが会いに来ると
ゆういちに語るようになる。
映画は、みつえの過去のシーンを現在に交錯させて描きこむ。
この行ったり来たりの重ね具合がみごと。
みつえを演じる赤木春恵は、声の感じ、喋り方、仕草、歩き方といい、
おばあちゃんっぽくて、自分の母や祖母を思い出させる。
長崎弁があたたかく、「怒らんといて」と息子に謝る姿、言い方が、
なんともかわいらしい。
脇役も皆生き生きしていて、
孫の少年も、介護施設で働く美人さんもいい感じだ。
この映画を一層、輝かせているのは
過去のシーンだと思う。
加瀬亮が、暴力的で神経質な、
みつえの夫(若い頃)を演じる。適役!
若きみつえ役の原田貴和子とも、
登場シーンはわずかで、セリフも少ないが、
情感豊かで、深い余韻を残す。
みつえが結婚して息子が小さい頃。
給料日、勤め帰りの父を、酒場に寄らせず、
まっすぐ帰らせるよう、母は息子に言いつける。
少年が両親を見つめるつぶらな瞳。
冬の凍てつくような寒さが伝わり、手がかじかんでくる。
母の涙がつらい。
みつえの少女時代。
幼なじみのちえこと一緒に
女子高校生たちが合唱しているのを窓の外から見つめる。
窓に並んだ、少女の眼。
これから広がる人生に、期待とときめきでわくわくしている。
でも、二人が育ったのは、貧困、戦争、長崎原爆と大変な時代。
みつえは、十人兄弟の長女で、兄弟の世話で遊ぶ間もない。
友達のちえちゃんは、口減らしで、長崎に奉公に出される。
結婚後も、みつえの夫は、酒乱で、飲んでは家で荒れ狂う。
そんなつらい過去を、
短いながらも、淡々と描き、強烈な印象を残す。
成人したちえこを演じる原田知世が
赤線地区を訪ねてきたみつえと、すれちがいざまに
振り向いた表情の哀しく、美しいこと。
過去を演じる役者たちの淡々とした芝居が、
現在に照り返されて、熱い余韻となって心に残る。
クライマックス、
つらい過去と、現在とが接点を結び、
そこに、認知症のみつえが立っている。
ランタン祭りの温かな灯の中で、まじりあう過去と現在。
あたたかな思い出の一ページが新たに刻まれる、
奇跡のような瞬間。
認知症というのが、みつえにとって、
つらい過去をも忘れさせてくれる(昇華させてくれる)病いであることを
教えてくれる。
みつえさんの笑顔がうれしい。
一青窈の主題歌「霞道(かすみじ)」の
「ありがとう」という歌詞が、エンディングで流れ、
あらためて、涙が止まらなくなる。
母に向かって、そう言いたくなった時、言えた時、
まだ生きていてくれるだろうか。
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