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No1031『ロスト・イン・北京』~居場所を見つけられない若者たち~

『東京物語』が、地方から東京に子どもたちを訪ねてきて、
行き場を失い、さまよう老夫婦の物語とすれば、
これは、地方から北京に、働きに出てきて、
行き場を失う若者たちの姿を描いている。

北京のマッサージ・パーラーで働く主人公を演じるのがファン・ビンビンと
同じ店で働く女友だちに、こんな感じのセリフ。
「北京は、こんなに広い大都会なのに、
ちっぽけな私の居場所さえない。
北京なんて嫌い」

シネ・ヌーヴォに行くため、商店街を歩いていると、
今宮戎の笹を片手に、自転車に乗ったおっちゃんが、
得意げに「この笹は特別やからなあ」と、ひとりでつぶやきながら
通っていくのをみた。
なんとなく、正月明けののんきな気分で映画館に行ったら、
いきなり、冷水をあびせられたというか、
平手打ち、(経営者の妻がビンビンの頬にした、ほんとに痛いビンタ)を
くらった気持ちになった。
映画を観た観客もまた、どこか迷子になってしまい、
どこか、行き場のない気持ちになった。

夫がいることを隠して働くビンビンは、
解雇された友達を慰めようと、お酒を飲みすぎて、
泥酔して、過って経営者の部屋に入ってしまい、
夫と間違って、経営者と寝てしまう。
それを、偶然、ガラス拭きの仕事をしている夫が
窓から偶然見てしまい、
ビンビンも妊娠してしまい、話はややこしくなる。

貧しくともビンビンと仲良くやっていたはずの夫が、
全然、善人じゃないところが、みそ。
経営者を相手に、レイプで訴えると脅して、金を巻き上げようとしたり、
仕返しにと、経営者の妻と関係を持ったり、
すれっからしで、救いがたい役回り。

成金の経営者は、金でなんでも解決しようとするタイプで
これまた好きになれない。
しかし、妻との間に子どもがなく、
ビンビンの産んだ子を可愛がったり、
なんだか憎めなくなってくる。
演じているのがレオン・カーファイ。
こんな、いけすかない役をよく引き受けたと思うが、
彼が、大声をあげて泣いているシーンは、忘れられないし、
後半になるにつれて、切なさがにじんでくる。

もう一つ忘れられないのは、
経営者の妻が、最後、家を出がけに、
赤ん坊のそばに座っているビンビンの隣に座って、
彼女の手を、両手でそっと握りしめるシーン。
はじめ、ビンビンは、いきなり隣に座れらて身構えるが、
いつしか心を許して、おんおんと泣いてしまう。

4人がどうなっていくのか、全くわからない。
若者も中年もみな、北京という、まさに成長しつつある都会で
行き場を失い、さまよっているようにみえる。

とりわけ、エンドロールのバックに映るシーンは
なんとも意味深で、よけいに、彼らが、この先、一体どうなっていくのか、
まるで読めないところが、逆に心をひきつける。

唯一、自分を取り戻した顔があるとしたら、赤ん坊を抱いた時。
赤ん坊の前では、誰もが素になる。
素になれると思えて、赤ん坊の争奪戦になったのだろうか。

映画に挿入される、北京の街の風景がいい。
監督は、リー・ユー(李玉)、女性だ。2007年の作品。
ビンビンの顔が、どんどん変化していくのがいいし、本当にきれいな女優さん。

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