日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

米産地偽装事件に学ぶ老舗企業の落とし穴

2013-10-07 | 経営
三重県で過去最大規模の米の産地偽装事件が発覚しました。「国産米使用」をうたった流通大手イオンの弁当やおにぎりに、中国産米や米国産米に加えて加工米までが相当量混ぜられていたと言います。商品は約15000万個に上り、イオンなどのおにぎりやお弁当として23府県に流通していたと。しかも05年から今まで、ずっと偽装を続けてきたというのですから、稀に見る悪質なコンプライアンス違反事例です。

渦中の三瀧商事は1877年創業という100年企業。年間売上は80億円にのぼり地元では優良企業とされ、服部洋子社長は地元四日市市から過去に産業功労者表彰を受けたほか、四日市商工会議所の女性部会長などを長年務めてもいたとか。そんな名門企業で起きたこの不祥事。発端は、内部の者による告発であったようです。同社長は、「私は地域のことばかりにとらわれていて、仕事でこのようなことが起きたことに本当に驚いている。初めて知ったことだ」と事件発覚時の新聞取材には答えたものの、未だ会見には応じていません。

組織防衛的なマネジメントの観点から、この事件から学ぶべき問題点を3点あげておきます。

1点目は、長期にわたりコンプライアンス違反が放置されるような自浄作用の働かない企業風土と、それに関する社長の著しい管理不行き届きがあったということ。「社長は知らなかった、先代がやったこと」と事件の責任者である本部長は話しているようですが、仮に本当だとしても(もちろん常識では考えられませんが)、このような偽装がまかり通る企風土をはびこらせ、気がつかない、あるいは気がついても目をつぶっていた経営者の姿勢は完全に経営者として失格です。

「私は地域のことばかりにとらわれていて…」という地方の老舗企業の経営者にありがちな、地元名士として祭り上げられる居心地の良さにかまけて、組織の中で何が起きているのかすら正確に把握せず、まったく人任せのマネジメント姿勢が手にとるように見えてきます。歴史を重ねる中での伝統に対するおごりや油断が、一瞬にして輝かしい歴史に二度と消すことのできない泥を塗ることにもなるのです。創業の精神や自社のミッションは、経営者が常に意識しつつ、社員との共有を自らはかる必要があるのです。

2点目は、危機管理における対応の問題。本人が知っていたか否かは別として、社会問題化しかねないこれだけの大きな事件を起こした経営者として、正式な形でマスコミに対して謝罪と事情説明にトップが出てこないと言うのは、最悪の危機管理対応であり企業を崩壊させることにつながります。しかも代理人を通じて聞こえてくるコメントは、「死人に口なし」を地で行くような亡き前経営者に全ての責任をなすりつけるかのようなもの。

良い悪いは別にして、マスコミの心証ひとつで生きる企業も死に追いやられるほど、マスコミは大きな力を持っています。不祥事発生時にトップがどう対応するかは、企業の生命線を握っているのです。基本は、トップが前面に立って誠実にマスコミ対応をすること。言い訳や責任逃れはしないこと、です。今回のような、事件が大きく報じられるとトップが雲隠れするような対応は最悪であると申し上げておきます。

最後3点目に、年間売上80億円、地元の名門企業でこのようなコンプラ違反の不祥事が発覚しないはずがないということ。不祥事発覚の原因の大半は内部告発です。企業のコンプライアンス違反については、日本人のモラル意識の高まりと共に「見て見ぬふり」はあり得ない状況になっているのです。

三瀧商事は歴史があるが故の古い企業体質であったのかもしれませんが、そこに勤務する人間は入れ替わり立ち替わりどんどん新しくなっていくのです。本件は企業体質だけが取り残された結果とも言えそうですが、「コンプライアンス違反は必ず白日の下にに晒される」ということを、経営者は肝に命ずる必要があるでしょう。

私が申し上げたことはどれも経営者にとっては至極常識的なものばかりですが、代々の有能な経営者が脈々と築き上げてきた名門100年企業の歴史がこのような残念な形で幕を閉じることになるのかもしれないと思うにつけ、経営者教育の必要性を切に感じるばかりです。

ラジオ出演のお知らせ

2013-10-06 | その他あれこれ
明日10月7日(月)夜、東京FM(80.0MHz)のニュース解説番組「TIME LINE」(18:54~19:54)に大関が生ゲストで出演いたします。

テーマは拙ブログ(BLOGOS掲載原稿)をご参考に企画いただいた「話題の金融庁検査のメス。みずほ銀行事件の根っこにあるもの」。
キャスターは、TV朝日「報道ステーション」でお馴染みの朝日新聞の星浩編集委員です。

全国どこでもスマホアプリで聞くことができますので、よろしければぜひどうぞ。

◆「半沢直樹」が示唆する「みずほ銀行事件」の根っこ
http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/e/8aafde760253c23f011094333451194b


運転免許書き換え時「交通教本」にみる警察の組織風土

2013-10-03 | 経営
久しぶりに身近なネタから組織の問題点を拾ってみます。誕生日に運転免許の書き換えに警察署まで行って参りました。久々にゴールド免許復帰。8年ぶりぐらいでしょうか。なんともすがすがしい気分ではあります。しかし問題に感じたことがあります。免許書き換え手数料3100円也。写真撮影、免許証カード作成、そして講習テキストやら県内道路地図やら冊子やら、写真の4冊の代金と言うことなのでしょう。この事実どう思いますでしょうか。

問題は4冊の冊子。これでもあの「事業仕分」の結果減ったそうなのですが、今時まだ活字モノ?真っ先にいらないのは県内地図。スマホがナビになる時代、運転しながら紙の地図なんて見ますか。しかも県内のみ。最悪は、約130ページからなる「交通教本」。この教本、書き換え講習でその場で使うのは、最近変更になった法規部分の冒頭10ページのみ。とにかく字が多い。古臭くてつまらない。これ、家に持ち帰って他のページを読みますか。あくまで私の想像にすぎませんが、全部読む人は全体の1%いるか否か。半分、いや3分の1程度は読む人にしても、全体の5%にも満たないのではないでしょうか。

この教本、表紙には「保存版」との表記があり、「ダッシュボードにでも入れていつでもチェック!」とも。でもダッシュボードには入れないだろうなぁ、ほとんどの人は。翌週の新聞雑誌ゴミの日に大半は出されてしまうのではないでしょうか。今時これ要らないと思いませんか。交通法規をしっかり守るためにまず知識を再確認する必要性から、というお気持ちは分かりますが、無理でしょこのやり方では。予算を削られたから冊数を減らす、工夫のなさにはあきれてしまいます。

同じ費用を掛けるのなら、どうしたら効果的になるのか考えられないものでしょうか。例えば、活字版教本は廃止してすべてWEB化するとか。浮いたコストは、WEBで交通法規に関するクイズをやって、抽選で商品券でも配るとか。もっとしっかり交通法規が読まれるためにはどうすればいいのか、意外に間違っている人が多い法規などを学ばせるにはどうすればいいのか、おカネの使い道と知恵を働かせてもっともっと工夫を考えるべきではないのかと思うのです。講習では解説する部分のみプリントで配布して、「あとはこちらのURLで、必要に応じてお読みください」で十分なのですから。

なにしろこの手の「交通教本」、「事業仕分」での形式的見直しはあったものの基本的には私が運年免許証をとった30年以上前から、何ひとつ変わっていないと思うのです。世の中の動きとか、時代の流れとか、警察の皆様にはまったく関心がないのか、そんなことでは動じないのかと思えてきます。結局、本来人を守るということを第一義とすべき組織風土が、人を検挙する立場での上から目線による人の意見を取り入れようとしない組織風土になり下がってしまっているように思うのです。

この警察の風土を象徴するのが、免許書き換え受付時間が午前は11時までで、午後は1時~3時半まで、って今時どこのお役所で昼休み窓口休憩なんてありますか。これもきっと昔のルールのままなんでしょう。この事実は、警察官だけは国民の税金で生活している公務員であるという意識すらないのかなとも思え、なんとも情けない気持ちにさせられてしまいます。

警察の手落ちや不祥事が発生するたびに謝罪会見を繰り返し再発防止を誓うことも多い今日この頃。このあまりに古臭い組織風土から変える必要性を認識するには至らないものなのでしょうか。

「半沢直樹」が示唆する「みずほ銀行事件」の根っこ

2013-10-01 | 経営
みずほ銀行が、反社会的勢力との取引が存在することを把握してから2年以上にわたり対応策を取っていなかったとして、金融庁から業務改善命令を受けました。メガバンクを舞台にしたテレビドラマ「半沢直樹」が大人気のうちに幕を閉じた折も折、ドラマの中でも登場した金融庁検査の結果としての業務改善命令の発令が現実のものとなりました。
http://www.fsa.go.jp/news/25/ginkou/20130927-3.html

本件は、直接の審査を関連の信販会社が行う提携ローンではありましたが、信販会社の保証の下で資金の出し手はみずほ銀行本体であり、当然みずほ銀行には重大な責任が存在します。しかも、今回の業務改善命令によれば「反社会的勢力との取引が多数存在するという情報も担当役員止まり」になっていたと言います。なぜこのようなことが起きてしまうのか。私はその原因は、「半沢直樹」にも描かれていた銀行の体質にこそあると思っています。

「半沢直樹」の最終回を私なりに解説した拙エントリでも申し上げましたが、最後の最後に描かれた銀行経営をめぐる諸悪の根源とも言えるキーワードは「保身」。大和田常務は自らの「保身」で策を弄し、岸川取締はその「保身」から大和田常務を裏切る。そして最後の最後に、大和田常務への意外なほどの軽い処分と半沢直樹への大半の視聴者の予想を裏切る出向辞令はすべて中野渡頭取の「保身」のなせる業であると解説いたしました。ドラマの最大のテーマは、ヒーローをヒーローたらしめない銀行の「保身文化」であったのです。
http://blog.goo.ne.jp/ozoz0930/e/4049ee1f9ff0dcf8b53c373a36bbd3cd

この銀行における「保身文化」こそが、今回の事件も含めこえまでの銀行界におけるさまざまな事件を引き起こしてきた“ガン”なのです。みずほ銀行は、その前身のひとつである第一勧業銀行時代にも今回と同じような事件を起こしています。97年に世間を騒然とさせた第一勧銀総会屋利益供与事件。当時の内部不祥事をネタに長年にわたって総会屋にゆすられた同行幹部は、「保身」から総会屋に立ち向かうことができずに総額460億円もの利益供与をしていたという、世間を唖然とさせた大事件でした。

逮捕者11人。前会長の宮崎相談役が捜査の合間に自殺をするという悲劇まで起きた、銀行界の歴史上、最悪とも言える事件でした。本店の家宅捜索を受け会見した近藤頭取は、1 0年以上にもわたる暗黒の犯罪史の原因をたずねられ「呪縛が解けず、関係を断ち切れなかった」と説明し、「呪縛」は流行語にもなりました。この「呪縛」の根底にある見えない力こそ「保身」以外の何ものでなく、今回の事件を見るにこの悪の風土は何ひとつとして変わっていないように思えるのです。

信販会社の審査を通った債務者における反社会的勢力の数は200人以上。それを知りながら見て見ぬふりを決め込んだ同行担当役員の行動は、銀行の経営の一翼を担う者として常識では考えられないモラルハザードそのものであり、またドラマ「半沢直樹」最終回に描かれた合併行東京中央銀行役員層の「保身」そのものでなのです。金融庁に付きつけられた業務改善命令は、この「保身文化」の払しょくなくして実現はあり得ないのでしょう。

銀行における「保身」はなぜ起きるのか。「半沢直樹」の拙エントリでも触れましたが、それは減点主義人事の弊害以外にありません。失敗を犯した者は出世競争からこぼれおちて行く、ドラマにも描かれたようにその行く末が「出向人事」という片道切符であり、挽回のきかない人事制度下で失敗を恐れるあまりに「保身」がはびこり、挙げ句は犯罪にまで目をつぶるという愚行が横行する文化を生んでいるわけなのです。

ドラマ「半沢直樹」の最終回を見た多くの視聴者が、そのエンディングに常識外の理不尽さと何かモヤモヤしたモノを感じた背景には、銀行界に共通の通常の事業会社とは一線を隔する減点主義人事に底支えされた「保身文化」が横たわっているのです。「半沢直樹」が世間に投げかけた銀行界の暗い闇と、それを地で行くかのような今回の事件。銀行界はそろそろ、自分たちの文化の異常性に気がつくべき時ではないでしょうか。

みずほ銀行の改善計画に人事の「加点主義」導入が盛り込まれ、銀行界の悪しき業界風土に一石を投じることにつなげて欲しいと思うにつけ、各銀行は今回の事件が持つ意味を自己に照らし合わせてしっかりと再吟味することを切に願うばかりです。