日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

JR東日本「先読みの甘さ」という組織風土に危機感を覚えるこれだけの理由

2015-04-15 | 経営
念願の上野東京ラインが開通から1か月。熊谷在住で東京との行き来を頻繁にする私からすると、この待ちに待った大変便利なダイヤ改正は本当に助かっております。たかだか上野―東京間に新しい線路をひいて高崎線と東海道線をつなげ(同時に、宇都宮(東北)線、常磐線も東海道と接続)直通運転をしただけの話ですが、乗り換えなしで東京、新橋、品川まで行けると言う便利さは、何ものにも代えがたい大改革であったのです。

そもそも今回の上野東京ライン開通の主な目的は、朝の通勤時間帯の上野駅および上野―御徒町間の異常な混雑を緩和することであったと聞いています。果たして、目的は十分に達せられたようで、上野―御徒町間はもとより朝の山手線、京浜東北線は見違えるほど乗車が楽になったと言う声がたくさん聞かれています。

接続初日、二日目は土日であったこともあり、歓迎ムード一色の上野東京ライン開通でしたが、三日目月曜日からは少々様相が異なってまいりました。利便性の面で恩恵の薄い東海道線利用者からの苦情です。恩恵どころか「JR東日本が余計なことをしてくれて、朝の一部車両編編成が変わったこともあり、従来以上の大混雑で途中駅から乗り込めなくなった」「従来、帰りは東京駅始発で座って帰れたのに、座れなくなった」等々のクレームが、翌週1週間はネット上に大噴出ししまったのです。

今回の上野―東京ライン開通を人体に例えてみますと、心臓疾患を患った患者に外科的治療を施す際に、バイパスと言う新たな血液の通り道を作って血流を良くするなら問題ないところを、それが何らかの理由によりできないので血流の流れが悪いところを流れる血液の量を減らし、従来の血管に減らした分の血流を既存の元気な血管につないで、血液の一部をそちらに迂回させる治療をしたと考えれば分かりやすいと思います。

この場合に、命がかかわる問題であるので当然と言えば当然ですが、う回路を作って他の血管に従来以上の血液が流れることで健康面から他に支障が生じないか否か、入念な検討がなされるはずです。企業が課題解決をおこなう時もまた同じです。

従来の体制の変更により課題解決対応を検討する際には、先のバイパス手術のように新たな仕組みを加えて一方的に改善だけが見込める場合はその限りではありませんが、従来の仕組みをいじって一部の改善をはかる場合は、変更によって生じるマイナス効果は確実にシミュレーションして把握をし、対応の可否を最終決定することになります。

JR東日本も、日本に冠たる大企業ですから当然のことながらこのシミュレーションは事前におこなっていると思うのですが、上野―東京ライン開通に伴い発生している多くの東海道線利用者からの利便性低下、サービス低下に関する大量クレーム発生はどうしたものかと、首をひねっておりました。

こんなことを考えながら1か月が過ぎようとしている最中に、山手線、京浜東北線が長時間にわたり不通になると言う事件が起きました。線路敷地内の送電支柱が倒れて起きたと言うこの一件、はじめはあまり関心を持っていなかったのですが事件発生の経緯を聞くにつれ、オヤッと思いました。

目に止まったのは、「JR東日本によれば10日には支柱の傾きを確認しており、週明け13日に補修工事を行う予定だったと。素早く応急処置をしていれば防げた事故であったことは間違いない」という報道です。私の頭に浮かんだのは、「先読みの甘さ」という言葉。上野―東京ラインの一件とこの送電支柱倒壊の共通項と思える、言葉としてです。

最近世間を騒がせた同社関連の事件でもうひとつ思い浮かぶのは、東京駅開業100周年記念スイカの発売大混乱事件です。昨年12月20日に限定15,000枚の予定枚数で販売を決めたこのスイカ、発売日に東京駅にはこの限定スイカを求めて9,000人以上の人が押し寄せ、現場は大混乱に。JR東は一旦スタートした発売を急遽中止。現場は暴徒と化した多くの人々と駅員の間で小競り合いが続きました。これまた「先読みの甘さ」以外にありません。

一件全く異なる事象に思えるこれらの事件は、実はすべて同じ「先読みの甘さ」という想定キーワードで結び付けることができるわけです。このような流れから何を読み取るべきかと言えば、JR東日本という企業組織に脈々と流れる企業風土に対する警鐘でしょう。

記念スイカの事件はJR東の企業姿勢としての信用問題にかかわるものでありました。また上野―東京ラインにおける一部路線でのサービス向上とトレードオフでの東海道線の混雑は、安全性の面からみれば確かに大した問題ではないのかもしれませんが、自社のヘビーユーザーに対すいサービス低下と言う観点からすると、サービス業としてこれでいいのかという問題提起につながると思います。

そして今回の支柱倒壊事件は、一歩間違えれば多くの人命の危機にも及んだかもしれないという、「先読みの甘さ」という企業風土がもたらすさらに重要なリスクを顕在化させた重大事象であったと思います。JR東日本には、個別事例の検証と再発防止に努めることが求められるのは当然のこと。同社経営陣には、上記のような観点から組織風土変革と言うより大きな視点に立った抜本的改革に速やかに取り組んでいただきたい。今は、「先読みの甘さ」が大事件を引き起こさないことを切に願うばかりです。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿