日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

“人の不幸”は不況下のヒット・トレンド

2009-11-18 | マーケティング
最近の新刊本でリクルートの元社長である江副浩正氏のが書いた「リクルート事件・江副浩正の真実」が出版され、話題になっています。私はこの手の本が大好きで、早速購入しました。約400ページにわたる力作で読み応えは十分。その豊富な“新事実”からいろいろ知られざる事件の裏側を垣間見ることができ、とても興味深く同時にいろいろと意見をしたくなる材料も豊富に提供してくれる著作であります。この本に関しては、改めていろいろな角度からレビューを試みたいと思っています。今日この話を取り上げたのは、ちょっと違う観点でして…。「なぜ、今リクルート事件の裏話なのか」ということについて、それに関連するかもしれないちょっとおもしろい話を聞いたのでそのあたりから…。

ちょっとおもしろい話と言うのは、少し前にとある新聞に出ていた記事で、「不況下で大衆は『人の不幸』を求めている」というものです。これは何かと言うと、某トレンド研究家によると景気好調期はエンタメ等のジャンルにおけるヒットのキーワードは「あこがれ」だそうでして、自分たちの日常生活よりも少し高いところ、すなわち「セレブ・ブーム」等に代表されるあこがれの対象を追い求める傾向が強いのだとか。これが、景気下降傾向とともにキーワードは「共感」へと変化をして、さらに不況下においては「人の不幸」を求めるようになるのだとか。「共感」の代表は「電車男」や「ホームレス中学生」の大ヒットに見られる、「人の苦労話への共感」。そして昨年秋以降のような明確な不況入り後は、芸能人や著名人の不幸話に引き寄せられ、「私はまだまだまし」「こんなことにならなくてよかった」という「人の不幸」を見聞きし安心感を得ることを無意識に求める傾向が強くなるのだそうです。

昨今、酒井法子や押尾学の事件に代表される芸能不祥事が必要以上に注目度が高いのは、このせいもあるともいえるようです。もちろん「人の不幸は蜜の味」と言われるように、景気の好不調にかかわらず“人の不幸的スキャンダル”は大衆が好むネタであることには違いないのですが、その関心の持ち方や関心の持続性などにおいて明確な差が出るようなのです。言われるとなるほどと思わせられる気もします。私自身なんとなく、好景気の時に耳にするエンタメ的「人の不幸」よりも不況下で耳にする「人の不幸」の方が関心が高くなるというのはうなずけますし、この点は信憑性があるように感じられます(他方、好景気下での「あこがれトレンド」はより明確です。これはエンタメの世界にとどまらず、消費トレンドにもかなり顕著な影響が出ていると思われます)。

さて話を戻して冒頭の江副氏の著作ですが、江副氏と言えば東大卒でサラリーマン勤めの苦労もなく学生時代から自身でビジネスを立ち上げて、10年も経ずしてリクルートという一大産業を築き上げた大変な人物です。それがリクルート事件で突然の逮捕・起訴。ライブドア事件のホリエモンの時もそうでしたが、どこか人々の「ざまあみろ」的な「人の不幸」をもっとほじくりたい願望につながる、特異な関心を掻き立てる事件に思えます。それがなぜか今、この事件に関する捜査現場を中心とした“裏事実”の暴露本ですから、出版社も考えたなと思わせられる訳です。不況下のこのタイミングを逃してなるものかと、江副氏を口説いて発刊にこぎつけたのではないでしょうか。しかも敢えて表紙カバーに逮捕時の写真を使っているのは、「人の不幸」的印象を際立たせるには最高の演出であると思います。マーケティング的には実によく戦略を練られた新刊本であり、ヒットは確実?内容はかなり高密度で面白いです。