日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「頭の体操」VS「地頭力」

2009-11-13 | ブックレビュー
ブックレビューするほどの書籍ではないのですが、最近出た「頭の体操BEST/多湖輝(光文社800円)」を読んで、ちょっと気がついたことがあるのものですから書いておきます。

高度成長の時代に大流行した「頭の体操」。我々世代は、学生時代に少なくとも1冊は買って読んだことがあるのではないのでしょうか。当時千葉大心理学課教授だった多湖輝氏の大ベストセラーです。シリーズは66年の第一集発売以来23巻まで発売されて、累計の売上は1200万部突破と言いますから印税だけでも億をはるかに超える額でして、これでひと財産築かれたと言う訳です。それはさておき、今回出たのは過去のシリーズ23巻2000問の問題の中から、選りすぐりの100問を1冊に集めたまさしく“ベスト盤”。書店の平積みで見かけて、思わず買ってしまいました。

表紙を見た瞬間に購入を決めた理由は、その懐かしさとともに「これはもしや元祖『ロジカル・シンキング・テスト』では?」という勝手な思いつきでした。今時にあえて“ベスト盤”が再発されるのですから、出版社の狙いはビジネスマンの自己研さんにおける昨今の「ロジカル・シンキング」ブームの流れに乗らんとしたものに違いないと。そんな訳で買って読み進めてみました。結論を申し上げると、ロジカルに解ける問題はせいぜい約1割、残りはトンチの域を出ないものがい多い印象です。もちろん、トンチも発想の転換を必要とするものですから、“やわらかアタマ”づくりの訓練にはいいのかもしれませんが…。確実に言えるのは、この内容を言い得た「頭の体操」というタイトルが当時としては抜群に冴えていたということです。

ただ、やはり時代の流れはいかんともしがたい感じです。この程度のトンチ問題集が大ヒットした昭和の高度成長期と、フェルミ推定のような高度な問題解決力を問う「地頭力」モノがこぞって読まれるような昨今の書籍事情の違いたるや、かなり大きな開きがあるように思えます。どちらも、主な読者層が学生やビジネスマンであることは変わりない訳で、昔懐かしい「頭の体操」を買ったが故に、はからずも伸び盛り層、働き盛り層の思考力の格段の進歩が浮き彫りになったように思えた訳です。働く人間の思考の進歩がビジネスの進歩を支えてもいる訳で、我々ビジネスパーソンは時代に乗り遅れないために日々勉強を続けていかねばいかんのだと、つくづく思いました。もちろん、何十年かぶりに「頭の体操」を読んで、多湖輝さんの頭の良さは並みではないと改めて感心させられはしました。

「頭の体操」はレビューすべき書籍ではないので点数はつけません。もちろん良書ではありますが、ビジネス・パーソンが今現在この本を読んで「これは面白い!」と思うようでは、少々マズイかもしれませんね。ちなみに多湖さん現在もご健在のようで、任天堂DSの人気ソフト「レイトン教授と不思議な町」を監修するなど、ご活躍中だそうです。