日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

売れ筋ブック・レビュー~「ビジネスで失敗する人の10の法則/ドナルドRキーオ」

2009-08-28 | ブックレビュー
★「ビジネスで失敗する人の10の法則/ドナルドRキーオ(日本経済新聞出版社1600円)」

売れているようです。私が購入したのが2カ月ほど前。当時初版のこの本、最近書店で見たら6刷だったような。けっこうな売れ行きです。実は書店で見かけて、途中まで読んで忘れていて、うずたかく積まれた本の山の下敷きなっていたのを思い出しました。

著者は元コカコーラ社長。現在投資銀行の会長を務める傍ら、マクドナルド、ハインツ、ワシントン・ポストなどの取締役を兼務する現役ビジネス・パーソンです。私が購入した理由はタイトルですね。売れている理由も同じでしょうか。「成功する人の10の法則」だったら購入しなかったでしょうが、「失敗する人の…」と言われると自己確認をしたくなる人間の習性でしょうか、ついつい読んでみたくなります。「10の法則のうち1つでもあてはまるならあなたの仕事は高確率で失敗だ」と帯裏にあり、ますます読んでみたくさせられます。でも、中身は至ってオーソドックスなものです。実は、私が途中まで読んで“積ん読”化した理由はその辺にあるのですが…。

10の法則は、「リスクをとるのを止める」「柔軟性をなくす」「部下を遠ざける」「自分は無謬だと考える」「反則すれすれのところで戦う」「考えるのに時間を使わない」「専門家や外部コンサルタントを全面的に信用する」「官僚組織を愛する」「一貫性のないメッセージを送る」「将来を恐れる」そしておまけとして、「仕事への熱意、人生への熱意を失う」となっています。そしてこの中で、“最も重要”と付されているのが一番目の「リスクをとるのを止める」と論じています。これは要するに「過去の成功に胡坐をかく」とか「守りに走る」とかそういうことで、ユニクロの柳井正社長の「1勝9敗」と同じようなこと、「失敗を恐れず挑戦することの重要さ」を言っています。実例としてゼロックスの大成功の後の凋落をあげ、同社は実はPC開発で技術開発面で他社より約5年も進んでいながら“ボックス・タイプの人間がリスクをとならなくなった”ために、複写機販売に固執し商機を逸したと。リスクをとることで仮に失敗をしてもそこから得るモノは多く、実は前に進んでいるのだと。言い古されてはいますが、おっしゃる通り正論ですね。

著者が本書内で言っているように、この「最重要点」を含めて書かれていることは「革命的なことはなにひとつ書いていない。すべて常識的なことばかり」であります。少し意地悪な言い方をすれば、10の項目の中身は関連という以上にダブりもあって、MECEでありません。その辺が読んでいてちょっと気持ち悪い感じも…。ならば、今なぜこの本なのか、アメリカでなぜこの本が企画され、売れたのかを考える必要がありそうです。答えは明白です。「コカコーラ=強いアメリカの象徴」ということを考えれば、今の大不況下、強いアメリカを象徴的に作ってきたビジネス・パーソンにその経営術を語らせることで、不況に苦しみながらも元気を求めているアメリカの経営者にエールを送ろうというものに違いないのです。ですから、中身はある意味どうでもよろしい。革新的でなく常識的なセンでいいわけです。今だからこそ、USAブランドのコカコーラが語ることが大切な訳です。だから表紙もコカコーラ・カラーなわけです。日本でこの表紙にする意味はあまり感じません。

と言うわけで、決して悪い本ではありませんが中身は至ってオーソドックス故、経営における“常識”を持ち合わせているという自負をお持ちの経営者なら、この本を読む時間を他の本を読む時間に充てたほうが有益でしょう。10点満点で6点。日本語訳がビジネス書としてこなれていない点も気になりました。最近では「デキる人の脳」や「ネコに学ぶ…」のように、一流コンサルタントが訳または監修し、あちらの書籍を日本のビジネス・パーソン向けにより分かりやすくまとめあげるやり方が続々出ているだけに、翻訳家に任せきりの作り様はちょっと残念です。もし私が監修するなら、例えば「官僚組織を愛する」に関して、官僚制度的管理の利点は中小企業においても活用する価値は大いにありなのですが、その上に立つ人たちが官僚的にならないことが大切であるといった論点での具体的解説を加えた方が、より実践的で生きた書籍になると思いました。