goo blog サービス終了のお知らせ 

日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

今年の「ヒット商品番付」に見るトレンド・キーワード

2009-12-07 | マーケティング
12月に入って早いもので既に1週間。この調子であっという間に今年も過ぎていきそうです。年末になりますと、恒例の「今年の…」が続々発表になります。当ブログでも種々取り上げる機会があると思いますが、まず本日は先週発表された今年の「ヒット商品番付」から今年のトレンドを振り返り、来年への足がかりを探ってみたいと思います。

例年“三役”以上が、いわゆる代表トレンドということになるのですが、まずはその並びを一覧で見てみます。

東横綱「エコカー」   西横綱「激安ジーンズ」
東大関「フリー」    西大関「LED」
東関脇「規格外野菜」 西関脇「餃子の王将」
東小結「下取り」    西小結「ツイッター」

という感じです。(出典:日経MJ紙)
さて、これを見て今年のトレンドをどう思われますか?

ざっと見て第一印象で思いつくキーワードは「節約」。「エコカー」が人気になった理由は、「エコ」じゃないんですよね。要するに税制改正で「エコカー減税」が導入されたこと、それと「エコカー」の燃費の良さ。何しろ新型プリウスは旧タイプより30万円以上安くなってかつ登録時の税金が0円。約50万円もお得な訳です。しかも、燃費がいい!なんてったてリッター35キロ以上ですからね。「LED」も同じ類です。「消費電力が少ない」=「エコ」って印象が強いのですが、要は電気代の節約。特に電気代が鬼のようにかかる法人スジでは、事務所や店舗や工場の“灯り”は今や「LED」が常識。得のない「エコ」は利用者に受け入れられないと以前もお話ししましたが、景気悪化の影響でその傾向がモロに出た感じですね。この傾向は来年も続いて、「節約」が「エコ」選択の基準になっていくと思います。

「激安ジーンズ」「規格外野菜」「餃子の王将」「下取り」、よくよく考えるとこれらも全部「節約」ですね。「激安ジーンズ」「餃子の王将」はもう単純に「安い」訳です。高いジーンズからの「節約」、高い外食からの「節約」です。「下取り」もそうです。同じモノを買うのに、下取りがあって少しでもその分値引きがあって「節約」になるならそれがいいと、都内のデパートが最初にはじめたこの戦略はバカあたりしました。結局は形を変えた値引きに過ぎないのですが、うまく不況下の消費者心理を捉えたと言えそうです。「規格外野菜」も同じこと。味がさして変わらないなら、多少形が悪かったり小ぶりだったりしても「安い」がいい、と。不況はかなり末期的であると言うことがよく分かります。

さて残った「フリー」と「ツイッター」。これにも広い意味での「節約」がありそうですが、ここらには「節約」+αのキーワードとなりうる“+α部分”が潜んでいるように思います。「フリー」は、キリンが出したアルコール分ゼロの飲料。いわゆるビール風味飲料です。アルコール・ゼロ飲料の登場で、ドライバーや妊婦たちの飲みたいのに飲めない我慢からの解放が受けたそうで、爆発的なヒットになったとか。アルコールの「節約」でもありますが、どちらかと言うとキーワードは「軽量」でしょうか。「ツイッター」はいわゆる“つぶやきブログ”。最大140字という文字数制限も斬新で利用者が急拡大しました。一般のブログや2ちゃんに比べ気軽な感じがウケたようで、こちらの支持の根底には「ゆるさ」とか、140字という文字数制限からくる「軽さ」もありそうです。

さて、以上で無理無理ひっぱり出した共通キーワードは「節約」→「安い」と“+α”部分の「軽量=軽さ」ですが、この「+α」部分には不況の最中ということを考えると意外なほどに暗さがないのが不思議な感じがします。「規格外野菜」も「下取り」も、不況下の「節約」を知恵を使って楽しくやりましょう、というどこか明るい「軽さ」があるようには思いませんか?「エコカー」も「LED」も「エコ」にお墨付きをもらった「節約」なら暗くなく前向きみたいな…。「激安ジーンズ」も「餃子の王将」も、来店客はすごく明るいですよね(両店とも我が事務所から徒歩3分以内にありますので、毎日目にしておりますがとにかく店内に「節約」の暗さゼロです)。今年の流行は、みーんな「軽く」て「明るい」?

そうやって強引に考えてくると、「安い」「軽い」「自然体で明るい」といったところが、今年の“根本キーワード”であるように思えてきます。だから「フリー」が売れて「ツイッター」が流行った訳です。どちらも「安い」「軽い」「自然体で明るい」感じがしませんか?中でも「自然体で明るい」が、今の不況下の特徴的なキーワードなのかもしれません。「意図的な明るさ」や「力いっぱいの明るさ」って景気の良い時以外は浮いてしまいます。だから昔は不景気になると、心底暗かったのです。でも今回は不景気なのになぜか「自然体で明るい」。時代のなせる技でですね。番付の横綱から小結の8つの流行商品、どこか皆「自然体で明るい」って思えてきませんか。

政府の“デフレ宣言”も飛び出して、長引くと言われる現在の不況。来年のビジネスのヒントは引き続きこの「自然体で明るい」ってあたりにありそうな気がしていますが、いかがでしょう。

“人の不幸”は不況下のヒット・トレンド

2009-11-18 | マーケティング
最近の新刊本でリクルートの元社長である江副浩正氏のが書いた「リクルート事件・江副浩正の真実」が出版され、話題になっています。私はこの手の本が大好きで、早速購入しました。約400ページにわたる力作で読み応えは十分。その豊富な“新事実”からいろいろ知られざる事件の裏側を垣間見ることができ、とても興味深く同時にいろいろと意見をしたくなる材料も豊富に提供してくれる著作であります。この本に関しては、改めていろいろな角度からレビューを試みたいと思っています。今日この話を取り上げたのは、ちょっと違う観点でして…。「なぜ、今リクルート事件の裏話なのか」ということについて、それに関連するかもしれないちょっとおもしろい話を聞いたのでそのあたりから…。

ちょっとおもしろい話と言うのは、少し前にとある新聞に出ていた記事で、「不況下で大衆は『人の不幸』を求めている」というものです。これは何かと言うと、某トレンド研究家によると景気好調期はエンタメ等のジャンルにおけるヒットのキーワードは「あこがれ」だそうでして、自分たちの日常生活よりも少し高いところ、すなわち「セレブ・ブーム」等に代表されるあこがれの対象を追い求める傾向が強いのだとか。これが、景気下降傾向とともにキーワードは「共感」へと変化をして、さらに不況下においては「人の不幸」を求めるようになるのだとか。「共感」の代表は「電車男」や「ホームレス中学生」の大ヒットに見られる、「人の苦労話への共感」。そして昨年秋以降のような明確な不況入り後は、芸能人や著名人の不幸話に引き寄せられ、「私はまだまだまし」「こんなことにならなくてよかった」という「人の不幸」を見聞きし安心感を得ることを無意識に求める傾向が強くなるのだそうです。

昨今、酒井法子や押尾学の事件に代表される芸能不祥事が必要以上に注目度が高いのは、このせいもあるともいえるようです。もちろん「人の不幸は蜜の味」と言われるように、景気の好不調にかかわらず“人の不幸的スキャンダル”は大衆が好むネタであることには違いないのですが、その関心の持ち方や関心の持続性などにおいて明確な差が出るようなのです。言われるとなるほどと思わせられる気もします。私自身なんとなく、好景気の時に耳にするエンタメ的「人の不幸」よりも不況下で耳にする「人の不幸」の方が関心が高くなるというのはうなずけますし、この点は信憑性があるように感じられます(他方、好景気下での「あこがれトレンド」はより明確です。これはエンタメの世界にとどまらず、消費トレンドにもかなり顕著な影響が出ていると思われます)。

さて話を戻して冒頭の江副氏の著作ですが、江副氏と言えば東大卒でサラリーマン勤めの苦労もなく学生時代から自身でビジネスを立ち上げて、10年も経ずしてリクルートという一大産業を築き上げた大変な人物です。それがリクルート事件で突然の逮捕・起訴。ライブドア事件のホリエモンの時もそうでしたが、どこか人々の「ざまあみろ」的な「人の不幸」をもっとほじくりたい願望につながる、特異な関心を掻き立てる事件に思えます。それがなぜか今、この事件に関する捜査現場を中心とした“裏事実”の暴露本ですから、出版社も考えたなと思わせられる訳です。不況下のこのタイミングを逃してなるものかと、江副氏を口説いて発刊にこぎつけたのではないでしょうか。しかも敢えて表紙カバーに逮捕時の写真を使っているのは、「人の不幸」的印象を際立たせるには最高の演出であると思います。マーケティング的には実によく戦略を練られた新刊本であり、ヒットは確実?内容はかなり高密度で面白いです。

昭和の深夜放送を思わせる「死ぬかと思った」人気の秘密

2009-11-07 | マーケティング
ブックレビューではないのですが、「死ぬかと思った」という本を見つけて息抜きに読んでいます。

作者は林雄司なる人。全く知りません。「Webやぎの目」なるホームページを主宰している一介のサラリーマンとか…。サラリーマンとは言っても、ネット系大手勤務だそうですが。この本の紹介を裏表紙の記載から引用すると、「余計なコトして死にかけた、恥ずかしさのあまりに死にそう。人には言えない、でも言いたい。ちょっと自慢の死にかけ体験。告白すれば気分も晴れる、ストレートかつ低レベルな臨死体験集」ということです。要は、「子どもの頃に、自分の親と隣のおじさんを間違えてライダー・キックを浴びせて青くなった話」とか「度胸試しに爆竹で犬のうんこを爆破して、周囲皆クソまみれになった話」とか、他人のくだらない体験談を読んで笑って、気分転換するという類のものです。

本屋で見つけて、立ち読みしてその中身になぜか引き寄せられ、その場で笑い出しそうになって「こりゃまずい」と思い、シリーズを3冊まとめ買いして帰ってまいりました。帰ってから調べたところによると、著者が90年代から先のHP上で始めた投稿コーナーが人気を呼んで、2000年に書籍化。現在シリーズ9冊も出ているとか。今年に入ってその1~4が文庫化されたそうで、私が買ったのはまさしくその文庫シリーズでした。基本は読者投稿なわけですが、最近の投稿者の方々なかなか魅せる文章の書き方もうまくて、けっこうはまります。

読み進めていくうちに「似ている」と気がついたのは、糸井重里氏の「言いまつがい」シリーズ。人の笑える言い間違いを氏のHP「ほぼ日刊イトイ新聞」で募集し、それを本にまとめた単行本がヒットを記録しているアレです。「言いまつがい」は糸井氏の知名度もあり、かなりの部数が出ているようですが、こちらの「死ぬかと思った」もシリーズ合計で80万分突破と聞きますから、かなりのロングセラーになっているようです。これら投稿本の人気の秘密を考えてみたのですが、意外なターゲットの広さがあるように思います。私が買ったから言うのではありせんが、この手のモノは若者だけではなく我々の年代をも引き込む力を持っているように思えるのです。理由はなぜか?読んでいただくと分かるのですが、若者はWeb人気からの勢いが購買を後押ししてくれるのでしょうが、我々年代は立ち読みや口コミでどこか“懐かしい匂い”を感じさせられ、若者とは全く違った形で引き込まれていくように思います。

その“懐かしい匂い”とは、ズバリ「深夜放送」のそれ。最近の「深夜放送」はよく存じ上げませんが、我々世代の“昭和の深夜放送”ではこの手の投稿コーナーはあちこちにあって、連日けっこう遅くまではまって聞き翌日眠い目で学校の授業を受けていたのをよく覚えています。特にこれらの書籍に性格が近いのは、TBSラジオ深夜1~3時の「パック・イン・ミュージック」でしょう。木曜日「ナチ=チャコ・パック(野沢那智、白石冬美)」では、テーマ投稿を「お題拝借コーナー」と称してこの手のハガキや封書が毎週読まれていましたし、金曜パック山本コータローの「コータロー・パック」の「恥の上塗りコーナー」はまんま「死ぬかと思った」です。時代は巡るのですね。

そんなマーケティング的ヒントもちょうだいしながら、「死ぬかと思った」シリーズを読み散らかしています。ただ少し気になるのは、“下ネタ”の多さ。昔からこの手の投稿は確かに“下ネタ”に偏りがちな傾向はあると思います。ただWeb上はともかく、出版物に改める際はこの編集どうなのかなと…。その点が少々クドく感じられ、さすがに3冊目ともなるとちょっと辛くなります。糸井氏の「言いまつがい」にも“下ネタ”編はありますが、「大人の言いまつがい」としてコンパクトに別区分けされ、いやらしさもなく実にスマートな扱いで「さすが!」と唸らせられます。このあたりが、プロと素人の境界線なかもしれません。ま、いろいろな意味で勉強になる“息抜き本”との出合いではありました。

“掟破り”「SMAP→SOFT BANK」CMのよくできたマーケ的仕掛け

2009-08-24 | マーケティング
書こう書こうと思って忘れていたSMAP=ソフトバンクのCMの話です。

この8月からソフトバンクの携帯電話のキャラクターにSMAPが起用されました。既にTVスポットでバンバン流れているので、ご覧になっていることと思います。良く考えてください。SMAPと言えば、別の携帯電話会社のCMやってませんでした?そうですよね、長年ドコモを含めたNTTグループの“顔”だったような気がしていますが…。よくよく調べてみると、この4月で97年から続いたキャラクター契約が切れたとのことで、言ってみれば突如の電撃移籍な訳です。でも、これって今までの広告業界の常識から言えばタブーですよね?“お父さん犬”が人気の「白戸家シリーズ」のCMが絶大な評価を得ているソフトバンクが、怖いもの知らずの“掟破り戦略”に打って出たということなのでしょう。

しかもメインコピーは、「COME ON!」「SMAP→SOFT BANK」って、要するに「SMAPもソフトバンクに移籍したから、みんなもおいでよ!」って訳でょ。あまりに露骨な、挑戦的なCMですよね。「白戸家シリーズ」は電通ですからね。当然これも電通さんですよね?こんなこと平気で出来るの電通だからですよね。NTTの仕事は要らないってことですかね。すごいことやります。ソフトバンクの孫さんもたいしたタマです。今まで、絶対にスポンサー企業のHPにキャラクターの画像を載せたり、キャラクターの動画を配信したりすることは徹底的にNGだったジャニーズが、今回のソフトバンクにはそれを認めているんですね。これは驚き!一体いくら積んだんですか?孫さん。

ここまでもけっこう話題に事欠かないCM話なんですが、中身もさすが電通(確認してませんが、でしょ?)、よく練られています。まず、スマップの起用には「移籍」以外にもそれなりの理由があります。それは、ソフトバンクの客層が圧倒的に若いということ。ホワイトプランをメイン戦略に据えたり、アップルのPhoneを取り扱ったりと、次々繰り出す目新しい戦略は確実に若者の心を捉え、人気急下降のAUを尻目に着実にシェアを伸ばし、王者ドコモの背中を急速に追い上げているのです。そんなソフトバンクの課題は中高年層の取り込み。そこで、若者よりもむしろ今や中高年に圧倒的人気を誇るSMAPの登場と相成った訳です。

そしてこのCMがさらに良くできているのは、キャラクターに負けないその圧倒的なBGMの存在感です。曲は年代問わず皆さんご存じ「ロコモーション」。作曲は昨年来日御歳67歳のキャロル・キングです。キャロル・キングと言えば、あのニール・セダカが「オー、キャロル!」と歌ったその人ですから、まさに60代のアイドルですね。そして「ロコモーション」は、最初のヒットがキャロルのベビーシッターだったリトル・エヴァが歌った62年。日本では伊東ゆかりがカバーしていたので、今の50~60代世代の誰もが知ってる超メジャー曲な訳です。ところが、CMで使われているのはリトル・エヴァのオリジナル・バージョンではなく、アメリカのロックバンド、グランド・ファンクのカバー・バージョンです。これが流行ったのはまさに私の時代で、74年トッド・ラングレンのプロデュースで本家を上回る大ヒットを記録しています。すなわち、このバージョンに確実に耳を奪われるのは40代後半な訳です。さらにこの曲、87年にはカイリー・ミノーグがまたまたカバーして大ヒットしています。という訳で、ついでにしっかり30代後半~40代前半も押さえているのです。

PPM分析的に言うなら、携帯の顧客層拡大の観点からは市場成長が見込めつつもシェア的に弱い「負け犬」をシェアを上げることで「花形商品」に移行させようというマーケティング戦略に則って十分に練られたCMであり、キャスティング、CMイメージ、メイン・コピー、BGM等々、幅広いターゲット・ゾーンを捉えた実に良くできた作品であると思います。これだけ教科書通りのマーケティング戦略に打って出て、果たして成果はどうでるか?結果が楽しみですね。最後に余談です。CMの最後にSMAPとエキストラ300人が建物から野原に飛び出すと建物の全貌が映ります。するとそこには犬の形の煙突から煙が…。それは白い犬。当然「白い犬」=「白戸家のお父さん」ってことですよね。いやぁ、芸が細かい!こんなところにまで、マニアを喜ばす仕掛けをするなんて、電通さん何気に憎いですね。

「夢」が見えないSONYのプレステ戦略

2009-08-19 | マーケティング
ソニー(ソニー・コンピュータエンタテインメント)が、家庭用ゲーム機「プレイステーション3」(PS3)の新モデルを開発し、製品スペックを向上させながらも価格を現状の3万9980円(実勢価格)から2万9980円に1万円値下げして9月3日に売り出すと発表しました。値下げの理由は明白、家庭用ゲーム機器最大のライバルである任天堂Wiiに対する必死の巻き返し策に違いありません。PS3の今年4-6月期の世界販売台数は、110万台。任天堂の「Wii」に比べて半分程度にとどまっているそうです。ソニーにとってみれば、現行よりも1万円安い新型機を売り出すという戦略は、もうこれ以上負けられないという背水の決意に他ならないのです。

この背水の決意、表向きは“ハイブリッド戦争”における、ホンダのインサイト登場により新型プリウスの価格低下戦略を打ち出したトヨタの戦略に近いように見えますが、“ハイブリッド戦争”と違って価格だけでなくこの戦略によってソニーが失うものは計り知れなく大きいのではないか、という懸念がこの裏側に潜んでるように思っています。失う大きなものとは、「ブランド力」に他なりません。ソニーは早くから日本発で世界的に通用する「ブランド力」を備えた企業として発展してきました。ソニーの「ブランド力」を支えてきたものは、まさに「技術力」であり「製品開発力」であったハズです。ところがここ10年のソニーはと言えば、PCに新たな流れを作った「VAIO」以来ソニーらしい商品は全く登場していません。そして、ライバルに水をあけられそうになるや今度は「値下げ」…。

ソニーは古く家電販売秋葉原全盛の時代から、「値引率が低い」「社員割引でも安売り家電店以下にはならない」などと言われ、値崩れ防止によるブランド力向上も視野に入れた戦略をとり続けてきたはずです。「技術力」「開発力」に加えて、そういった地道な「ブランド力」構築努力があって、「世界のソニー」という一流の地位を保ってきた訳なのです。ことろがここにきて、携帯音楽機器ではアップルに惨敗状態、液晶テレビではシャープに№1ブランド構築を許す、そして90年代に一世を風靡したゲーム機器「プレイステーション」では任天堂に水をあけられる一方である等々、やることなすこと“負け戦”の連続であり、「ソニーブランド」は大きくその価値を下げてきているのです。

その最中に、今度は「プレイステーション」の値下げ販売。もちろん、ハードを赤字覚悟で販売してソフトで儲けると言うやり方は、消耗品で儲けるパソコン・プリンターや通話料で儲ける少し前までの携帯電話のビジネス・モデルと同様で、決して誤った戦略でないのは確かなことでしょう。ただ問題は、今のソニーがそれをやっていいのかということです。連戦連勝の時代に、収益還元的に機器の値下げをすることはむしろ「ブランド力」向上につながることなのですが、先の話のようにことごとく負け続きの今、「負け組の苦境」を象徴するかのような値下戦略が果たして正解であるのか、私はいささか疑問に思っております。

ソニーと言えば“やわらかアタマ”の代表企業であったはず。自由闊達なその社風が技術力と相まって、次々素晴らしい新製品を世に送り出してきたのではなかったでしょうか。今のソニーはと言えば、「過去の遺産で食べている」、いや「過去の遺産を食い尽さん勢いで減らしている」状況にあると言わざるを得ないのです。なぜソニーはこんなにも変わってしまったのか、社内風土の変化はひとえに経営者の方針の反映に他なりません。すなわちトップのストリンガー氏のが作り出した今の社風が、過去の絶大な「ブランド力」の低下を及ぼしていると断言していいと思います。社風を良くするもの悪くするのも、大企業でも中小企業でもトップのやり方ひとつな訳です。

ソニーの不調を景気低迷に責任転嫁するむきもありますが、先のアップルや任天堂が世界的景気低迷下にあって絶好調を続けているのを見れば、過去のソニーならば本来同じように“不景気どこ吹く風組”に入っていて当然の流れだったはずなのです。歩きながら音楽を聴くという発想から生まれた再生専用の音楽機器「ウォークマン」や、大きな商売にはならなくとも「いたらいいな」の犬型ロボット「AIBO」のような商品を開発できる風土が、かつてのソニーにはあったはずです。それがまさに「夢」をつくる企業風土であり、画期的な商品を次々世に送り出す開発力であり、不況に負けない企業力であったハズなのです。ライバルに勝てないから値下げで対抗する、そんな発想は「ブランド力」の低下を及ぼす以外のなにものでもなく、かつてのソニーには絶対に許されなかったのではないでしょうか。

価格やスペック勝負でなく、アップルや任天堂に「発想」で勝てる「夢」のある商品開発が出来ない限りソニーの復活はありえないとあえて断言させてもらいましょう。ソニーが今するべきことは製品の値下戦略ではなく、技術力を「夢」につなげる開発風土にもう一度回帰させることができる「技術のソニー」を理解した新たなトップへの交代ではないのか、と強く感じさせられた新プレステ戦略の発表でありました。

ブックオフへの旧勢力出資は、書籍業界大変革の発火点

2009-05-13 | マーケティング
ブックオフコーポレーションは13日、筆頭株主のアント・DBJ投資事業有限責任組合が大日本印刷、丸善、講談社、集英社、小学館、図書館流通センターの6社に同社株式を譲渡する契約を締結したと発表したそうです。これは大変なニュースです。

そもそもブックオフは、「古本屋さん」を新たなビジネスモデル化して大成功した書籍販売業界バスターだった訳です。同社登場以前の「古本屋さん」は、どの店も言ってみれば街の片隅で、じいちゃん、ばあちゃんの店番が暇つぶしの小遣い銭稼ぎ程度の商売として細々営業していた訳でチェーン展開などあり得ず、再販制度に守られた書籍業界は棲み分け済みの弱小ビジネスとして問題視することはなかったのです。

古本屋をチェーン展開できなかった最大の理由は「目利き商売」という、買い取り価格決定に専門的知識が必要とされている点でした。ところが、ブックオフは「目利き不要」の全店統一買取基準を設けて、バイトでも買取業務ができるというまさにコロンブスの卵的ビジネスを生み出したのです。そして、急成長と多店舗展開、さらにはそのビジネスモデルをまねた同業の乱立と、若者の“活字離れ”と相まって時代の寵児的掟破りビジネスの出現に、書籍出版業界には大きな衝撃が走ったのでした。

新刊本対中古本、この戦いは減少しつつあるパイを奪い合う、言ってみれば減少する総和をゼロサム・ゲームで争う不毛な戦いだった訳です。特に新刊本業者にとってみれば、防戦一方の死すべき運命を背負わされた苦しい戦いに違いありませんでした。今回の新刊本陣営のブックオフ出資の流れは、まさに敵の軍門に下り新旧手を組んでの消費者取り込み戦略にようやく決断したという結果である訳です。

考えて見ればネット書店のアマゾンも早くから、新刊本と併せて中古本も同じページから購入できるという、消費者により幅広い選択権を与えた販売方式を構築しており、ある意味今回の出資は遅すぎる決断であったとも言えるのです。書籍ヘビーユーザーの私などは、本の種類や購読目的によって新刊と中古の使い分けをしており、アマゾンの新旧併売方式は非常に重宝している訳です。消費者の側に立てば容易に分かるサービスのあるべき方向感であり、既得権益を守りたがる古い業界体質がここまで決断を遅らせたのではないかと考える次第です。

商品の流通方式が消費者の意向に合わせる形で変革を遂げることは、大変好ましいことであり、消費者志向の新たな流通方式が軌道に乗った場合、その変革の速度は想像を絶するスピードになることが間々あります。例えば、音楽ネット配信のアップル社itunesミュージック・ストアはipodという革命的音楽再生機器の普及との相乗効果で音楽ソフト販売における流通革命を起こし、03年サービススタート以来5年足らずで音楽ネット配信の圧倒的なシェア拡大を後押しし、今や国内でもCDの売上は激減(音楽の国内ネット配信販売は、06年の段階でシングルCD販売枚数を既に上回っています)、リアルのCDショップ・チェーンは縮小の一途を辿るに至りました。

今回の書籍流通革命につながる出資の決定は、このような観点から業界における大変革の発火点になりうると見ています。新たなビジネスチャンス開拓の観点から見れば、我々のような対消費者エリアのビジネス・パーソンにとって目が離せないマーケットになりそうです。書籍業界の“ipod探し”、かなり興味をそそられるテーマですね。

阪神コンテンツリンク社は、BBL福岡の「閉店」を教訓として活かせ!

2009-05-09 | マーケティング
ゴールデンウィーク期間中に、ビルボード・ライブから一通の封書が届きました。中身は「ビルボード・ライブ福岡閉店のお知らせ」でした。

「ビルボード・ライブ福岡」は、同東京、大阪と同じ系列店として、2年前の07年9月に福岡一の繁華街天神にオープンしました。オープニング・アクトは、東京、大阪と同様ジャズ・ロックの超大物スティーリー・ダン。キャパ300の東京のハコでのライブ体験さえ“一生モノ”と大感激だった訳ですが、福岡はさらにその半分のサイズの“小箱”なので、当時は本当にうらやましく思ったものです。それが、2周年を待たずしての「閉店」に驚きを隠せないというのが偽らざるところです。

「福岡」はもともとジャズ系のライブハウス「ブルーノート福岡」を、ジャンルを広げてリニューアル・オープンしたハコでした(大阪も同様です)。旧ブルーノートは開店以来15年間も地元のファンに支持され、固定ファンをつかんできた老舗だったのです。それが、リニューアル後2年もたずに「閉店」ですから、不景気の煽りはあったにせよマーケット分析上あるいは戦略上の大きな誤りがあったと言わざるを得ないと思います。

まず福岡という土地柄ですが、もともと甲斐バンドやチューリップを輩出した伝説のライブハウス「照和」が栄えたように、ライブに対する受け入れ土壌は十分にあったように思います。では問題は音楽ジャンル?実際のところを調べてみると、東京、大阪で呼んだポピュラー系のアーティストが福岡はパスするケースが多く、結果的に以前と同様のジャズ系と日本人アーティストがメインでの運営で、実は看板は変えたものの旧ブルーノート時代と大差ない音楽ジャンルでの運営ではあったようです。

ではなぜ、15年続いたブルーノートがビルボードになった途端に終焉を迎えたのかです。確かに景気の影響はあるでしょうが、旧ブルーノートとて90年代後半の金融不況を経験している訳でそれだけが理由とは言いにくいと思います。私は最大の問題点は、ブランド変更に伴うイメージ戦略の失敗にあったのではないかと考えています。

「ビルボード」はそもそもアメリカの音楽雑誌であり、「ビルボード・ライブ」は「ブルーノート」のような本場のライブハウス名ではなく、本国には存在しないハコなのです。すなわちそれまでの「ブルーノート=ジャズの一流ライブハウス」のイメージが、ライブとは直結しない「ビルボード=米国産ポピュラー音楽」のイメージに移行した訳です。ところが、フタを開けてみたら、ポピュラー系外タレは福岡まで来ないケースが多く、結果旧来のジャズ系プログラムと日本人アーティストが多くなることで、客から見た印象が「洋楽?ジャズ?日本人アーティスト?」といった具合にイメージがとっちらかってしまった…、そんな失敗の構図に思えるのです。

「福岡」が洋楽系外タレをあまり呼べなかった理由は、地域性での集客力とそもそものハコのサイズからくる採算性の問題でしょう。また、ジャズ系のアーティストよりも洋楽系のアーティストの方が、一般的なライブ規模の違いからギャラが高額であった点も「福岡」には辛かったのではないかと思います。この点は、当初のハコの戦略的コンセプトづくりを考える上で、かなり詰が甘かったと言わざるを得ないと思うのです。

こうやって考えると、景気の影響は認めつつも、出店に際しての運営企業の戦略的誤りが、今回の失敗の大きな原因であったと推定することが可能な訳です。運営企業は阪神コンテンツリンク。電鉄会社の社長ご子息の道楽ビジネスと陰口を叩かれた企業です。新たなビジネスに失敗はつきものですが、言われるとおりに“道楽”で終わらせないためには、今回の失敗の原因を単なる景気悪化に帰するのでなく、中身を十分に分析して、残された東京、大阪のハコをこの先も長く続く「音楽の殿堂」に育て上げるべく努力をして欲しいと思います。

小田急百貨店の不景気に勝つ見事な対消費者心理作戦

2009-04-23 | マーケティング
今月デパートで始まった「下取りサービス」がちょっとした話題になっています。

先鞭をつけたのは小田急百貨店。22日までの「婦人靴下取りキャンペーン」の好評を受けて現在、「靴とバッグの下取りキャンペーン」を開催中です。これは、同店で買ったものに限らず、紳士靴、婦人ハンドバッグ、スポーツシューズであれば、状態、ブランドにかかわらず下取りしてくれるというもの。一人5点までですが、1点あたり8400円以上の買い物時に1枚づつ使える1050円の商品券を引き換えにもらえるそうです。前回キャンペーン期間の売り上げは、昨年同時期対比で約2倍の実績をあげたそうです。

このキャンペーンには数多くの消費者心理効果を巧みに操った仕掛けがなされています。まず注目は「下取り」という言葉です。「状態にかかわらずOK」ということは、自宅内で捨てる運命にあったものでも価値が生まれる、言ってみると消費者にとっての新たな「価値創造」に他ならないのです。さらに小田急が素晴らしいのは、同店のキャンペーンが「お買い上げ」が条件ではない点。「お買い上げ」が条件で「下取り」をする店は他にもあるのですが、「お買い上げの際に下取り」とすると買い手には実質「値引き」の印象が強くなり、まんま新たな「価値創造」にはつながらないのです。

「捨てる運命のモノ」が「価値創造」してくれたなら、「なんか買っちゃおうか」となるのが消費者心理です。しかもこの商品券の有効期限は5月19日ということですから実質1か月弱なわけで、「次にいつ来れるか分からないから、無駄にしないよう今日使っちゃおう」となる訳です。この1か月弱の有効期限というのも、実に心理的に絶妙な期間設定ですね。これが有効1週間だと心理的価値効果は半減しますし、3か月だと「次回使用」に回されて忘れられる確率も高く、売上貢献度は下がるでしょうから。

もう一点、この「下取り」品の行き先ですが、エネルギー的再利用すなわち「リサイクル」されるという、不況下のキーワードになりつつある「エコ」に連なる点も注目です。今の消費者はうますぎる話は疑ってかかるぐらいに賢くなっていますから、「そんなモノ下取りしてどうするんだろう?」という疑問符は常に付きまとい、その回答の有無がけっこう重要だったりします。つまりこの点が不明確であると「なんだ結局は実質値引きか、相当利幅があるんだな」と直結する訳ですが、今回のように現在の“免罪符”的キーワードである「エコ」を背景ににじませることで、実際には「値引サービス」であってもそのイメージへの直結をしにくくする“目くらまし効果”が潜んでいる訳なのです。

8400円以上の買い物に使える1050円の商品券ということは、まあ1回平均1万円の買い物に使ったとして、要は「1割引セール」と同じ訳です。「1割引セール」をチラシ等でPRしても全く消費者は反応しないであろうこのご時世ですが、同じ「1割引き」でも「下取り」だったら売上2倍というこの不思議。まさに、消費者心理を巧みに操った見事なマーケティング戦略であると思います。

この小田急百貨店のキャンペーン成功を受けて、ライバル各社も同様のキャンペーンに乗り出すようです。大丸東京店はスーツの下取りで「スーツフェア」で使える商品券と引き換えるとか。いくら小田急で売り上げが伸びてはいても不況下で財布のヒモが固いのは変わらずです。二番煎じの戦術でどこまで効果があるのかは、少し疑問ですね。不況を乗り切れるか否か、この先も続く“流通生き残り戦争”は、先手先手で消費者の気持ちを掴むマーケリング力の差が雌雄を決するように思っています。

アップルの“後追い”SONYに感じる「王座奪還への道険し」

2009-04-16 | マーケティング
SONYが14日、3.0型のタッチパネルを備えた携帯音楽プレーヤー「ウォークマンNW―X1000シリーズ」2機種を発表しました。

画面に指で触れて選曲などの操作ができたり、無線LANを通じたネット接続やワンセグ(携帯端末向け地上デジタル放送)視聴にも対応するなど、今回搭載された新機能を見るに明らかにアップル社ipodの“後追い”と言えるようなものばかり(ワンセグはipodにはありませんが、携帯で当たり前の機能なので目新しさは感じさせません)。価格は32ギガで5万円前後と、これまたipodに右へ習え。これでは、携帯音楽プレーヤー王座奪還への道は険しいと言わざるを得ないのではないでしょうか。

などと断言してしまう理由は、私個人の体験的裏付けにもよります。実は私事ですが、この4月遂にipod touchを手にしました。「丸くなければ音楽じゃない」とか言っているのはもはや“化石”の戯言であるとの自覚の下、この新しい年度を次なるステップへの転機と位置づける象徴として、断腸の思いでアップル社の軍門に下ったのです。トレンドを追うことも仕事である身としては、「ipodのひとつも持たずにどうする!」と自己を鼓舞するフリで納得させて、いよいよ未知の領域に踏み込んだ訳です。

すると、使ってビックリ!楽しいこと、素晴らしいこと。ジャケットアートは指でパラパラめくれるは、本体の向きに合わせてタテのモノはヨコになるは、指操作ひとつで表示サイズは自由自在に変更できるはで、本当にヒューマン・タッチです。さらにアプリが豊富で、ネット閲覧はもちろん、スケジューラー、メーラー、新聞購読、六法、グーグルアースなんかはフリーで利用可です。100円からの有料アプリも、実用、ゲーム他優れモノがズラリ。気に入れば、ストアから簡単に本体へダウンロードというのがうれしいです。商品ターゲットが携帯音楽機器の付加機能として何を求め何を喜ぶか、人間行動学的によく考えられた商品コンセプトであると言っていいでしょう。

加えて、アイコンのデザイン・型・動きが実に可愛く間違いなく癒し系。IT機器にホスピタリティを持ち込むアップルイズムには、全くもって脱帽です。株主までやっている長年のSONYファンの私ですが、ipodの実力を実感するに至り100%ウォークマンの負けを確信しました。例えて言うなら、「ウォークマンは耳に音楽を届けますが、ipodはハートに音楽を響かせます(我ながらいいコピーじゃ)」といったところ。今の“ストリンガーSONY”ではどう転んでもかなわない、が実感されます。現在の低迷SONYに何が必要かが、まさにこの争いの敗因にハッキリと見てとれるのではないでしょうか。

“後追い”ばかりでなく、アップルとipod利用者をもアッと言わせ、ソニーイズムを感じさせてくれる商品にお目にかかれるのはいつのことになるのでしょうか。

ユニクロに学ぶ不況下の「値ごろ感」戦略

2009-03-23 | マーケティング
ユニクロが絶好調です。2月の衣料品専門店売上を見るとこの大不況にあって、同社は前年同月比で4.2%増、09年8月期の上期締め9~2月売上では前年同月比12.9%増と二ケタの増収を記録するなどこの時期驚異的な好調を続けています。

不景気に強いと言われて久しいユニクロですが、同社好調の要因は大不況下の安価販売との短絡的考えは少々早計のようです。なぜなら、同じ2月の衣料品専門店売上で、ユニクロと並ぶ安価販売の雄であるシマムラが前年同月比9.2%の減収と苦戦を強いられているからです。ユニクロとシマムラ、その明暗を分けたモノは何でしょう。

ユニクロに関する日経MJの調査によれば、この一年でユニクロでの買い物を増やした人は全体の約2割で、ユニクロの「品質が良くなった」34%、「おしゃれでデザインが良くなった」35%と、3割以上の人がユニクロの“変化”を評価し、その結果、「百貨店よりもユニクロの方が“値ごろ感”がある」とした人は65%にも上っているのです。

「値ごろ感」。まさに現時点で不況に打ち勝つ流通のキーワードらしきものと感じます。ユニクロの好調とは好対照に大苦戦が続く百貨店、ユニクロと同じ「安価販売路線」を歩みながら思わぬ苦戦のシマムラ、ユニクロにあってこの二者にないものは、まさにこの「値ごろ感」ではないのでしょうか?では、そもそもこの「値ごろ感」とは何なのでしょう?広辞苑にある「値頃」の項には、「値段がその品物の品質と相応していること」とあります。しかし今時の「値ごろ感」は、多少意味が違うかもしれません。

私なりの解釈は、「値ごろ感」=「コスト・パフォーマンス」です。自動車業界で今話題の“ハイブリット戦争”。ホンダのインサイトが189万円で予約好調と見るや、あのトヨタがプリウスの価格を40万円近く下げて同じ価格まで値下げする発表をしました。燃費と商品化キャリアで比較すれば、同価格なら明らかにトヨタが勝てるのです。今までのトヨタなら、同価格まで下げることはせず、価格を近づけはしても差額は「トヨタとホンダの差」として、“王者の戦い”を貫いたはずです。今回なぜ同価格まで値下げなのか。この戦略をトヨタの危機感の現れとの見方もありますが、私はマーケティング・キーワードを「コスト・パフォーマンス」であるとみた上での戦略であると思っています。

では、この「値ごろ感」=「コスト・パフォーマンス」はどうつくられるのでしょうか?再びユニクロの話に戻ります。ユニクロの努力はまず圧倒的な品質追求です。大人気の「婦人向けウォッシャブル・ニット」は、羊毛とアクリルの最適な混合比率を割り出すのに百回を超える試作を繰り返したそうです。また東レとの全面提携により、繊維に関する半端でないノウハウを取り込み原糸から見直した、品薄が続くヒートテックは重量が1割も軽くなったと言います。まさに本家トヨタも真っ青のカイゼンぶりなのです。

さらに「値ごろ感」=「コスト・パフォーマンス」を増すためのイメージ戦略にも抜かりがありません。昨年来、人気モデル山田優や女優藤原紀香、吹石一恵をCMに起用して、高付加価値イメージを創造することで商品の相対的な「お得感」を生み出しているのです。こんな厳しい時期にあって、ブランド戦略にも余念がないと言えるのです。

このようにユニクロは、「品質」と「イメージ」二正面での向上戦略が見事に実を結び、現在の“一人勝ち”状態を生みだしたと言っていいでしょう。単に大不況を口を開けて待っていた訳では決してないのです。本来“追い風”であるはずの不況下にありながら、苦戦が続くシマムラとの業績の差は、このあたりにあるとみています。

消費者の嗜好は不況が長期化すればまた大きく変わる可能性があり、いつまでも「値ごろ感」=「コスト・パフォーマンス」がキーワードであるとは限りませんが、好景気で豊かな生活を謳歌していたものの突如不況に突き落とされた現時点での消費者心理は、「お金は大きく節約したいが、水準は落としても徐々に」という感じなのでしょう。対消費者マーケットでは、今しばらく「値ごろ感」=「コスト・パフォーマンス」をキーワードとして生き残りをかけた、各社の戦いが続くものと思われます。