アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

有識者懇情報の続き

2009-01-04 18:57:37 | インポート
内閣官房が「先住民族の権利に関する国連宣言」の訳文を先月の28日に出したとの情報がはいりました。大変、めずらしいことのようです。
が、どこにあるか探せません。分かり次第UPします。
今までわたしは北海道ウタリ協会訳や「市民外交センター仮訳2008年7月31日」を用いさせていただいています。市民外交センターの役は以下のURLに行けば見ることが出来ます。
http://www005.upp.so-net.ne.jp/peacetax/


さて、「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」(以下、「有識者懇」)のURLからの情報の続きです。 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainu/kaisai.html

12月25日開催の懇談会にて用いられた資料に、有識者懇のメンバーである常本照樹さん(北海道大学アイヌ・先住民研究センター所長)の発題のペーパーがあり、話されたであろう内容が推測できます(議事録はまだUPされていないため確証なし!)。
それには、今後議論の対象となりうる「総論的課題」と「各論的課題」に分けて述べられています。以下、色を変えて引用します。
加えて前回、UPした上村英明さんの講演内容と重なる部分は ⇒「上村案」として記入します。

(常本註・以下で言う「文化」は、言語・音楽・舞踊等に限定されず、土地・資源の利用とも関連する生活様式を含む広い意味であることに留意。)


1.総論的課題

①多様な文化と民族の共生の尊重
・アイヌ民族の文化をはじめ、多様な文化の独自性を尊重し伸展させることが民族の共生と我が国の豊かな文化の発展に寄与。
・国連宣言も「他の民族と異なるものとして尊重される権利」、「文化の多様性」及び「パートナーシップと相互尊重の精神」の重要性を確認。

②アイヌのアイデンティティの尊重
・アイヌ民族としてのアイデンティティを等しく形成できるようにアイヌ文化を尊重することは「個人の尊重」(憲法13 条)の精神に適合。なお、アイヌのアイデンティティに基づく生を選択しない個人も同様に尊重。

③歴史的経緯の重視
・特に明治期以降、同化政策によりアイヌの社会や文化が決定的な打撃を受け、差別と貧窮を余儀なくされたという歴史的経緯。
⇒上村案①歴史認識

④先住民族であることの顧慮
・同意なしに被支配的立場に追い込まれた経緯とそれから生ずる配慮義務。
・民族及び社会の個性を踏まえた政策。
・国民がアイヌ民族を先住民族として理解し、受け止めることが、新たな差別を避止するためにも重要。
⇒上村案①歴史認識

2 各論的課題
(1)精神・文化に係る政策のあり方 

・精神・文化に係る政策は、アイヌとしてのアイデンティティの根幹に関わるとともに多様な文化尊重の基盤。

・民族固有の信仰を尊重し、信仰対象の保全や遺骨等の返還、アイヌ民族の精神性尊重の象徴となる施設の設置などを考慮。

・アイヌ文化振興の一層の深掘りが必要。特に、文化の伝承と発展が生業となることによる活動の自立化を支援する視点。

(2)社会・経済に係る政策のあり方
・生活支援、教育支援及び産業振興は、歴史的経緯に起因する格差の解消並びにアイヌとしてのアイデンティティを持つ個人の自律的な生の営みを支えるために必要。
⇒上村案④国の責任による予算措置の確保

・社会構造的な問題や差別等による格差解消のための暫定的な優先的処遇は、実質的な「機会の平等」を目指した合理的な区別であり、必ずしも平等原則に反しない。

・政策のニーズを把握し、合理性を担保するため、全国を対象とした実態調査の必要性。
⇒上村案②権利の確定と法制化の必要

(3)土地・資源に係る政策のあり方
・土地・資源には精神・文化的意義も認められ、国連宣言においても重要な地位を占めるが、事柄の性質上、公共的必要性・合理性の論証及びそれに係る具体的政策について国民の理解を得つつ実施する必要。
⇒上村案②権利の確定と法制化の必要

(4)政治参加に係る政策のあり方
・国民としての参政権の行使を超える先住民族独自の政治参加は、国連宣言においても重要な地位を占めており、先住民族固有の文化を実効的に維持発展させるためにも配慮が必要。

・政治過程への直接的参加(特別議席)と間接的参加(諮問機関等)の有効性と合憲性。

・独自の政治参加の前提としてのアイヌ民族の総意を集約する仕組み。

(5)推進手法等に係る課題
① 個人認定
・政策の内容に応じて、一般の国民には認められない権利や給付に係る資格を定めるための認定制度を検討。その整備・運用にあたってはアイヌ民族自身による取組を基本としつつ、国民の理解を確保するために公平性・透明性を担保する仕組みを工夫。

② 政策の検討・推進手法
・政策の検討・推進に当たり、政府部内における総括的セクション、及びモニタリング
及び継続的検討のための審議機関の設置。
・アイヌ民族において検討・準備・実施すべき事項に関する国・自治体による支援。
⇒上村案⑤現状のアイヌ民族政策の評価と改善



上村案の③北海道内外のアイヌ民族の平等性の確保、⑥現状の文化行事の実践、は触れられていません。




少々、引用が多く、今回も字が多くなりました・・・。
仲間から、このブログは字が多すぎるし、ややこしい内容なので、見ることはみるが写真だけ~、といわれてしまったので注意はしたいと思うのですが・・・。


有識者懇談会の資料から

2009-01-03 17:26:18 | インポート
前々回に紹介しましたが、「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」(以下、「有識者懇」)のURLにて、資料や議事録を見ることが出来ます。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainu/kaisai.html

昨年の10/22 blogにも紹介した通り、日本の国定教科書ははじめから多民族国家であることを認めていたことの分かる資料や、有識者懇のメンバーでもある加藤忠さん(北海道ウタリ協会理事長)の要望、国の今までの「アイヌ関連施策の体系」など、資料や議事録でいろいろと知ることが出来ます。


12月25日開催の第三回懇談会にて用いられた資料に、「諸外国の先住民族政策」(資料2)があり、アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・フィンランド・台湾の6カ国を対象に、先住民族の民族数や先住民族への施策、支援などをあらわしており、とても参考になります。
たとえば施策に関しては以下の通りです。色変えて一部を引用します。こんな情報をたくさんほしいですね。
そこからアイヌ民族の場合、何をどうして行ったらいいかの参考になると思います。

(1) 政治的生活
●アメリカ
・インディアン部族が形成した政府は、居留地内における課税、独自の法執行、部族の土地や財産を管理する権限を有する。
●カナダ
・認定インディアンとして連邦政府が登録した部族による自治
●ニュージーランド
・マオリ族の政治的権利を保護するため、選挙制度として一般選挙区の他に、マオリ系として登録した有権者のみが投票できるマオリ選挙区を設け、マオリ系議員が議会に選出
●フィンランド
・サーミ議会の設置(フィンランドに住むサーミ人によって4年ごとに選出される20名の議員から構成される民族特別議会(主として諮問機関的役割に限られている))
●台湾
・原住民族基本法により、原住民族の自治権を規定。
・憲法増加修正条文及び地方制度法の規定に基づき、中央には6人の原住民国会議員がおり、地方では原住民人口が規定の人数に達した場合、議会には原住民議員を選出しなければならないという規定がある。


(2) 経済的生活

①生活支援
●アメリカ
・「インディアン財政支援法」(1974年)は、インディアンの経済発展を支援するために、既存の各種ローン基金を統合し、連邦政府が新たな資金援助をすると共に、インディアンの商業支援策について規定
●ニュージーランド
・マオリの就業及び職業訓練等の支援
●フィンランド
・サーミの伝統文化の発展と保護に配慮しつつ職業訓練を行うことを目的とした国立の教育機関の設置
●台湾
・2001年度以降継続して「原住民族住宅改善計画」を策定し、原住民族に対する各種住宅補助及び支援業務を実施し、原住民族の居住環境を改善

②雇用(省略)

(3) 文化的生活

①言語
●アメリカ(先住民族のうち先住民言語を話せる人の割合:14.6%)
・「先住民言語法」(1990年)は、合衆国は、先住民が先住民言語を使用し、実践し、発展させる自由及び権利を保存し、保護し、推奨することをその政策とする旨規定
●カナダ
・北西準州、ヌナヴト準州においては、連邦の公用語である英語及びフランス語に加え、イヌイットの言語が公用語とされている(全地域人口に占める先住民族の割合:北西準州51%、ヌナヴト準州85%)。
●オーストラリア(同:9.6%)
・アボリジニ・トレス海峡諸島民の言語・録音計画、言語消失から守るための支援金提供、彼らの言語普及を目的とした放送業務等の支援が行われている。
●ニュージーランド(同:23.4%)
・1987年にマオリ言語法を制定して、マオリ語を英語と並ぶ公用語とした。
法廷でマオリ語を使用する権利等も認められている。マオリ語の普及のためにマオリ語委員会が設置され、マオリ語習得のためのコースを設置し、同コースを卒業した者が学校に派遣され、マオリ語を教えている。また、マオリ語のテレビチャンネル、ラジオが存在
●台湾(同:約45%(原住民族言語能力認定試験結果から推計)
・原住民族の言語の保存及び伝承のため、行政院は2006年11月に原住民族委員会が「原住民族言語振興6ヶ年計画」を決定(実施期間2008~13年)。
○計画の主な内容
・関連法整備、推進組織(国・地方)・民族言語の文字化(辞典等の編纂)・学習・普及・各民族の「言語文化教室」、インターネット上の民族言語学習HPの設置、メディアを利用した民族言語教育の実施。・人材育成:原住民族言語能力認定試験及び合格者のための基礎、進級研修を実施。 以下、省略。




昨年の外の飾り


『宣言』を用いて

2009-01-03 17:15:44 | インポート
上村英明さんの講演の続きです。
前回は『宣言』を利用しての1、「土台」となる部分を挙げての説明でしたが、「土台」の次に、具体的な要求を項目ごとに短期(1~3年)・中期(4~6)・長期(7^10)に分けて表にし、要求する方法「権利要求の整理」の説明をされました。

例えば、『宣言』5条の政治的参加については、短期には審議会の設置、中期にはアイヌ民族議席、長期にはアイヌ民族議会の設置の要求というように。
審議会は今回の有識者懇もそうでしたが、官房長官が作れといったらすぐに出来る簡単なものなのだとも説明。その際は、アイヌを半数以上、入れることを要望したらいい、とも。
なるほどそうですね。
他に、各政党のマニフェストの中にもアイヌ政策の推進を書かせるという方法についても言及されました。

あるいは『宣言』13条に保障されている民族研究については、短期にはアイヌ民族自身で研究機関をつくるための協力要請、中期では国立の研究機関設置要求など。

また、同13条によるメディア設置に関しては、短期にはNHKにアイヌ民族のための時間枠を作る要求、中・長期にはアイヌ民族専門のメディア設置要求など。

ほか、個々の具体的要求に関してはくわしい説明ではなく、皆で出し合って整理しつつ有識者懇に要望していったらいいとのことでした。
大変、参考になりました。




思い出の詰った富良野の風景です。写真の容量がほぼ一杯になったので過去の写真を消しています。
写真も小さくしていきます。


『宣言』の内容

2009-01-02 11:15:43 | インポート
上村英明さんの講演の続きです。
今回は『宣言』の内容理解と利用方法について順番に一つひとつ説明するのではなく、『宣言』を利用して、(1)基本的な権利保障の「土台」となる部分を挙げて緊急に要求すること、次に(2)具体的な権利要求を整理しつつ短期(1~3年)・中期(4~6年)・長期(7~10年)に分けて要求することを、大きく二つに分けて説明を受けました。

まずは、(1)「土台」の部分。
有識者懇談会が夏までに意見をまとめて答申を出す前に、最低限ここまではさせたいとするところとして、上村さんは以下の6つを挙げました。以下、要約。

①歴史認識
ひとつめは歴史認識。植民地化、差別政策、格差・貧困などの歴史認識は懇談会メンバー個々には認識しているように議事録で読めるが、懇談会としての歴史認識を示してもらわないと始まらない。歴史認識が定められると次に来るのは新たな法律が出来、その法律の前文において国家としての歴史認識が記されることとなるだろう。そこまできて謝罪がだされるのでは? 有識者懇談会が歴史認識を出すことに迷っているようなら、ウタリ協会が書いて出したらいい。これぐらいは認識しているでしょうね?と。それがどれだけ修正されるかを議論しつつ進めていけばいい。歴史認識は将来的にも発展可能性のある部分なので重要視する必要がある。
(※1 朝日新聞記事参照)

②権利の確定と法制化の必要
現在の「アイヌ文化振興法」には権利が書かれていない。ある種の社会政策なのでやれるときはやるけれど、やれなくなった時はやりませんよという類のもの。権利が書かれていないので情勢によってどんどんと予算が削られている。権利があれば守られる。次回は権利を書かせる必要がある。
今回の有識者懇談会は「法制化への一致があった」(北海道新聞※2)と報じられていた。法制化がされれば裁判で勝てる可能性が出てくる。今の法体系の中にはアイヌ民族の権利に関しては全くかかれていない(だから「共有財産裁判」も「アイヌ史史料集人権侵害裁判」も、民族としての権利は認められなかったために勝てなかった)。
有識者懇談会の答申に「法制化」の必要性を盛り込ませることによって国の課題を提示すことになる。

③北海道内外のアイヌ民族の平等性の確保
国の責任の明確化と全国化(カラフト・千島を含む)を確保させることも最低限必要。「アイヌ文化振興法」は北海道限定の政令が出された(※3)。だから道外に住むアイヌ民族には適用されなかった。これは政令を解除すれば簡単。その上で各自治体にアイヌ民族の基本政策を立てさせればいい。

④国の責任による予算措置の確保
今までのアイヌ政策は、基本は北海道まず予算を組み、その後に国が予算化していった。北海道が出せなくなると同時に国も予算を削っていった。だから、まず国の責任によって予算措置をさせるよう有識者懇の答申に書かせる。国が責任をもって国家予算としてまずは確保するべき。

⑤現状のアイヌ民族政策の評価と改善
有識者懇談会でやると言っている(懇談会「主な検討事項」1.2 ※4)が、どのようにしていくのかを監視していく必要がある。たとえば、北海道アイヌ生活向上施策(元・北海道ウタリ対策)の評価、アイヌ文化振興法の見直し(あるものを評価するのだから簡単。財団があれでいいのか・なぜアイヌ民族が理事長になれないか・財政基盤の確立、等)。その他の自治体の政策、1996年有識者懇談会答申の積み残し(評価)など。

⑥現状の文化行事の実践
すでにやっているアシリ・チェップ・ノミやシレトコ・エコ・ツアーなどは権利として認めさせる


次の(2)権利要求の整理は次回に。



教会前に作りました。なんだかなつかしい感じにできました。

※1 朝日新聞2008年12月26日付には、12月25日開催の有識者懇談会にて「来年8月にまとめる提言に、アイヌ民族が差別と貧窮を余儀なくされた歴史的経緯を盛り込む方針を確認した。また、アイヌ民族の伝統文化を大事にするためには公的な土地と資源を貸与するなど「土地と資源の問題は切り離せない」(佐藤座長)との見解で一致。提言に向け、具体策を検討する必要があると合意した。」と報道。
 さらに、常本委員より「各論的課題としては、文化の伝承と発展が生業となるよう活動を支援することや、アイヌ民族の全国的な実態調査の必要性などを挙げた。アイヌ民族に対し、国会や地方議会で特別議席を与えることや、常設の協議機関を設けることの有効性と合憲性を検討するべきだとも指摘した。」とも。
http://mytown.asahi.com/hokkaido/news.php?k_id=01000000812260003

※2 北海道新聞12/26 18:37
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/politics/137390.php

※3 アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09HO052.html

※4 アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会 議事録
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ainu/kaisai.html



夜の雪だるまちゃん。みんな見ていってくれます。