北大アイヌ・先住民研究センターの冬季シンポジウム(12/6)の報告の続きです。
佐々木利和(国立民族学博物館教授)さんの講演の感想に、文化人類学者の批判について触れましたが、考えてみれば、わたしの身近な文化人類学者は誠実そうな方ばかり(シンポの総司会をされた方も誠実そうな方でした・・・存じ上げないので「そうな」で失礼!)。
また、7月に開催された先住民族サミットにサポーターとして一緒に参加した学生さん達も、大変な下働きをよくしてくださいました。聞くところによると早稲田大や北大等で文化人類学を専攻されていた方が多くおられました。もっと先住民族の皆さんと交わりたかったでしょうに文句ひとつ言わず働きに徹してくれました。彼ら彼女らと出会えたことは昨年の一番の喜びでした。是非とも、論文を書き終えてすべて卒業されるのではなく、今後もアイヌ民族の権利回復のために一緒に進んでいきたいと願います。
さて、法律学からは佐々木雅寿さん(法学研究科教授・アイヌ・先住民研究センター)が講演されました。原稿に近いレジュメ(要点を書いたもの)も用意下さり、それを目で追って内容の付け足しもしっかりと聞けてよかったです。
内容は、カナダ憲法を参考にしつつ先住民族の権利に対するアプローチの仕方を模索したもので、カナダにおける先住民族の地位と権利の歴史をたどり、連邦政府の諸政策を紹介。
カナダの憲法では、3つのグループの明確な先住民族が認定されています※1(全人口の約4%を占める117万人。うち、ファースト・ネーションズ(北米インディアン)60%、メティス(先住民とヨーロッパ人の両方を祖先とする人々)33%、イヌイット(北極地方の人々)4%)
連邦政府はそれぞれのグループごとに異なる個別的なアプローチをしているそうです。
さらに、各々の先住民族と政府とは交渉という手段を重要視しているということ、
そして、政府の責任性(信託上の義務)を強調していること、
もうひとつ、権利内容の未確定の部分に関しては、その確定作業に当の先住民族も参加することが出来るという権利保障などの特徴が挙げられました。
その上で、日本ではどのようなことが考えられるかについて、以下の3つのアプローチの利点・欠点を紹介。
Ⅰ.個別的アプローチ
利点
①様々な文化や歴史を持つそれぞれの先住民族の独自性を維持できる
②各先住民族に固有の先住権を保障できる
③先住権の定義に適合する、等。
欠点
①権利内容の確定に時間とコストがかかる
②先住民族グループの聞に不公 平感や対立等の感情が生じる
③長年の努力の末、多様な権利を規定する国連宣言が採択されたにもかか わらず、そこで規定された権利の
一部を認められない先住民族グループが発生する危険性がある、等。
Ⅱ.一般的アプローチ
利点
国連宣言で規定された様々な権利をすべての先住民族グループに保障する。
欠点
様々な文化や歴史を持つそれぞれの先住民族の独自性を無視する。
Ⅲ.折衷的アプローチ
利点
①原則として、国連宣言の諸権利をすべての先住民族に保障することができる
②国連宣言の中で規定された諸権利の中から、各先住民族グループに固有の先住権とそれ以外の権利とを区別できる
③国連宣言の中で規定された諸権利の中から、特定の先住民族グループにとって固有で重要かつ強く保障されるべき
権利とそれ以外とを区別できる
④先住権の保障を求める際に、優先順位を 決めることができる
⑤固有の先住権保障に関しては、非先住民族も説得しやすい、等。
欠点
保障される先住民族の権利の範囲が不当に制限される可能性。
これらを吟味しつつ、「交渉の必要性と政府の誠実対応義務」があること、「暫定的権利保護の必要性と手続的権利の重要性」、「社会全体の理解の重要性」、「アイヌ民族に関する学際的研究の重要性」などを訴えられました。
このように他国の、とりわけ先住民族の権利が勝ち取られている諸国の例を聞けるということは勉強になります。より具体的に交渉する方法を直接、先住民族の連帯の中で学べたらいいですね。
コメンテーターの阿部ユポさん(北海道ウタリ協会副理事長)の話もわかりやすかったです。阿部さんのお話もこの数年で4回ほど伺っています。
もうおひとりのコメンテーター辻康生さん(法学研究科教授・アイヌ・先住民研究センター)のお話も、カナダにおける多様性を認める流れは70年代から「ケッベック」「移住者」「先住民族」の諸権利に対する問題が交差して急速に進んだというお話など、体全体のパフォーマンスも豊かでよき学びとなりました。
※1 カナダ大使館URLより
http://www.canadanet.or.jp/about/aboriginal.shtml
アイヌ民族情報センターのWEBサイトは、以下に引っ越しました。
今後とも、諸情報をUPしていきます。よろしくお願いします。
http://www.douhoku.org/ainu/
(この活動日誌ブログはこのままのアドレスです。)
札幌へ向かう途中の雄冬にある白銀の滝
赴任したてのころ、ここを通りがかり感動して「滝・滝・滝」と連呼してこども達に教えました。
すると不安な顔で「なにが来たっていうんよ」というではありませんか。
そう。連呼しすぎて「たきたきた・きた・来た、来た」と、後ろから恐いものが追いかけてきたと聞き違えたのです。
通る度に思い出します。
佐々木利和(国立民族学博物館教授)さんの講演の感想に、文化人類学者の批判について触れましたが、考えてみれば、わたしの身近な文化人類学者は誠実そうな方ばかり(シンポの総司会をされた方も誠実そうな方でした・・・存じ上げないので「そうな」で失礼!)。
また、7月に開催された先住民族サミットにサポーターとして一緒に参加した学生さん達も、大変な下働きをよくしてくださいました。聞くところによると早稲田大や北大等で文化人類学を専攻されていた方が多くおられました。もっと先住民族の皆さんと交わりたかったでしょうに文句ひとつ言わず働きに徹してくれました。彼ら彼女らと出会えたことは昨年の一番の喜びでした。是非とも、論文を書き終えてすべて卒業されるのではなく、今後もアイヌ民族の権利回復のために一緒に進んでいきたいと願います。
さて、法律学からは佐々木雅寿さん(法学研究科教授・アイヌ・先住民研究センター)が講演されました。原稿に近いレジュメ(要点を書いたもの)も用意下さり、それを目で追って内容の付け足しもしっかりと聞けてよかったです。
内容は、カナダ憲法を参考にしつつ先住民族の権利に対するアプローチの仕方を模索したもので、カナダにおける先住民族の地位と権利の歴史をたどり、連邦政府の諸政策を紹介。
カナダの憲法では、3つのグループの明確な先住民族が認定されています※1(全人口の約4%を占める117万人。うち、ファースト・ネーションズ(北米インディアン)60%、メティス(先住民とヨーロッパ人の両方を祖先とする人々)33%、イヌイット(北極地方の人々)4%)
連邦政府はそれぞれのグループごとに異なる個別的なアプローチをしているそうです。
さらに、各々の先住民族と政府とは交渉という手段を重要視しているということ、
そして、政府の責任性(信託上の義務)を強調していること、
もうひとつ、権利内容の未確定の部分に関しては、その確定作業に当の先住民族も参加することが出来るという権利保障などの特徴が挙げられました。
その上で、日本ではどのようなことが考えられるかについて、以下の3つのアプローチの利点・欠点を紹介。
Ⅰ.個別的アプローチ
利点
①様々な文化や歴史を持つそれぞれの先住民族の独自性を維持できる
②各先住民族に固有の先住権を保障できる
③先住権の定義に適合する、等。
欠点
①権利内容の確定に時間とコストがかかる
②先住民族グループの聞に不公 平感や対立等の感情が生じる
③長年の努力の末、多様な権利を規定する国連宣言が採択されたにもかか わらず、そこで規定された権利の
一部を認められない先住民族グループが発生する危険性がある、等。
Ⅱ.一般的アプローチ
利点
国連宣言で規定された様々な権利をすべての先住民族グループに保障する。
欠点
様々な文化や歴史を持つそれぞれの先住民族の独自性を無視する。
Ⅲ.折衷的アプローチ
利点
①原則として、国連宣言の諸権利をすべての先住民族に保障することができる
②国連宣言の中で規定された諸権利の中から、各先住民族グループに固有の先住権とそれ以外の権利とを区別できる
③国連宣言の中で規定された諸権利の中から、特定の先住民族グループにとって固有で重要かつ強く保障されるべき
権利とそれ以外とを区別できる
④先住権の保障を求める際に、優先順位を 決めることができる
⑤固有の先住権保障に関しては、非先住民族も説得しやすい、等。
欠点
保障される先住民族の権利の範囲が不当に制限される可能性。
これらを吟味しつつ、「交渉の必要性と政府の誠実対応義務」があること、「暫定的権利保護の必要性と手続的権利の重要性」、「社会全体の理解の重要性」、「アイヌ民族に関する学際的研究の重要性」などを訴えられました。
このように他国の、とりわけ先住民族の権利が勝ち取られている諸国の例を聞けるということは勉強になります。より具体的に交渉する方法を直接、先住民族の連帯の中で学べたらいいですね。
コメンテーターの阿部ユポさん(北海道ウタリ協会副理事長)の話もわかりやすかったです。阿部さんのお話もこの数年で4回ほど伺っています。
もうおひとりのコメンテーター辻康生さん(法学研究科教授・アイヌ・先住民研究センター)のお話も、カナダにおける多様性を認める流れは70年代から「ケッベック」「移住者」「先住民族」の諸権利に対する問題が交差して急速に進んだというお話など、体全体のパフォーマンスも豊かでよき学びとなりました。
※1 カナダ大使館URLより
http://www.canadanet.or.jp/about/aboriginal.shtml
アイヌ民族情報センターのWEBサイトは、以下に引っ越しました。
今後とも、諸情報をUPしていきます。よろしくお願いします。
http://www.douhoku.org/ainu/
(この活動日誌ブログはこのままのアドレスです。)
札幌へ向かう途中の雄冬にある白銀の滝
赴任したてのころ、ここを通りがかり感動して「滝・滝・滝」と連呼してこども達に教えました。
すると不安な顔で「なにが来たっていうんよ」というではありませんか。
そう。連呼しすぎて「たきたきた・きた・来た、来た」と、後ろから恐いものが追いかけてきたと聞き違えたのです。
通る度に思い出します。