アイヌ民族情報センター活動日誌

日本キリスト教団北海教区アイヌ民族情報センターの活動日誌
1996年設立 

「アイヌの遺骨はアイヌのもとへ」 in 東京 報告その2

2015-02-04 08:02:06 | 日記

さる1月30日に行われた「アイヌの遺骨はアイヌのもとへ」 in 東京 の報告の続きです。順番で行くと講演2は榎森 進さんになりますが、裁判に関連する法的なことに関心がおありの方から問い合わせを頂いたので、講演3を先にいたします。

講演の3つ目はアイヌ遺骨返還訴訟弁護団の市川守弘さんによる「先住権・憲法から解きほぐす遺骨返還」。
これは、当日のレジュメもないので、聞いて来たかのような報告はできませんが、当日に資料として配られた研究論文(査読付投稿論文)『アイヌ人骨返還を巡るアイヌ先住権について』をざっくり紹介します。

北海道大学は「保管しているアイヌのご遺骨」を「祭祀承継者等」に「お渡しする」とし、その「祭祀承継者等」がだれかは裁判所に委ねると述べています。  

また、アイヌ政策推進会議の政策推進作業部会(以下、「作業部会」)は「アイヌ遺骨の返還・集約に係る基本的な考え方」(2013年6月)として次のようなまとめをしています。
1.(遺骨について)海外では、民族又は部族に返還する事例があり、アイヌ人骨もコタンまたはそれに対応する地域のアイヌ関係団体に遺骨を返還することが望ましい。
2.一方、現在、コタンやそれに変わる組織など、返還の受け皿となる組織が整備されていない。
3.このため、祭祀承継者たる個人への返還を基本とする。

政府はこの考え方に基づき人骨を「返還」するとし、返還対象とならないアイヌ人骨について、白老に計画中の「民族共生の象徴となる空間」に慰霊施設を設け、そこに収蔵する計画が進行している。

この「祭祀承継者」への返還という、もっともらしいいい方は事実上のアイヌ民族への返還拒否を意味していると市川さんは指摘。なぜならば、個体として特定される人骨のうち個人が特定されているものは全国で23体(北大では19体)しかないから。たとえ祭祀承継者へ返還されても23体のみ。残りの1612体は返還されないからだ。
また、政府の考え方へ疑問を投じる。まず、なぜ「諸外国では「民族又は部族」に返還するとされるのか、それが法的に裏付けされるのならアイヌ民族の場合も同様に捉えるべきだ、と。

論文はこのあとアメリカにおける先住権を過去の裁判判決例を交えて紹介。まとめるとアメリカの先住民族はトライブごとに自主決定権が認められている、と。その概念をもとにアイヌ民族の先住権を議論し、先住権を有すると評価できる団体、つまり主権主体は各コタンだ、としています。
「アイヌは慣習的に各コタン集団が特定の排他的支配的領域を持ち、土地を支配し、使用し、利用して来た。しかもその裏付けは各コタンが自らの法によって自立的に統治するという対内的主権であったことが明らかとなる。この主権を権原としサケ狩猟権や土地資源利用権などの土地占有、土地利用、利益の享受という先住権権限がアイヌには認められる。」

さらに、本論文の目的である当該コタンの支配する土地内に存在した当該コタンの墓地や埋葬された遺骨の管理権限もこの主権に裏打ちされた土地利用の一つとして先住権に含まれるかの検証がなされます。
まず、亡骸(遺骨)は遺族のものではなく、コタンのものであり、「祖先の祭り=粗霊祭り」はコタンの全構成員による「祀り」であった。そして、こう結論づけます。
「このような墓地及び遺骨に関する起立を持った管理行為は土地に対する利用権の一つとして先住権にふくまれなければならない。よって、遺骨返還請求権はこの管理権限の一つとして先住権に根拠づけることが出来る」

また、
「国や北大は遺骨を財産として相続対象とし、家制度を基本に祭祀継承者制度を適用しようとするけれど、それがアイヌの方規則と相容れないどころか、遺骨は明治初期のものもあるが、旧民法制定(明治31)以前に死亡した遺骨に対して死後の相続法を遡って適用するという考えになり、すでに破綻がある」、と。

国や北大が、コタンないしコタンに代わる団体がないということに対し、
「そもそも現在の事態は明治政府以降のアイヌの主権を認めない一方的侵略行為の結果なのであるから、アイヌの主権の回復こそ必要であり、主権主体であるコタンの回復は不可欠である。コタンが「存在していない」のであれば回復させるのが国の義務である」と述べています。

さて、この度の訴訟の原告のみなさんは、盗んだ遺骨をもとにあったコタンに戻せと訴えておられます。たとえば浦河杵臼の場合、過去に盗掘された場所にいつか取り返して遺骨を納めるのだと、以前に北海道ウタリ協会浦河支部が建てた供養塔があります。そこに納めたい、と。
過去ブログ参照  http://blog.goo.ne.jp/ororon63/e/6ef4b8a2b041f2184df42a172fb23ca0
他に返還請求している遺骨も、受け入れ場所は整っているのです。それでも返還しないという意味が謎です。

続けて、近日中に講演2をUPします。

月がきれいな夕べ、月につられてはじめてバンゴベに行きました。留萌の北東にある町でずっと気になっている地名です。写真はきれいではありませんが。


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