フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

7月28日(日) 晴れ

2024-07-29 17:38:55 | Weblog

7時45分、起床。

チーズトースト、目玉焼き、ソーセージ、サラダ、牛乳、珈琲の朝食。

オリンピックが始まり、朝刊の一面にメダルを取った選手の記事が載るようになる。東京とパリとの時差は7時間なので、柔道の決勝の結果は朝刊に間に合うようである。朝刊に間に合うか、間に合わないか(夕刊に回るか)の違いは大きい。もちろん結果自体はTVやネットでリアルタイムでわかるのだが、新聞のというものに慣れ親しんできた世代には、朝の食卓で新聞を広げて記事を読むというのは独特の味わいがあるのだ。

昨日のブログを書く。

昼過ぎに家を出る。ネットで購入し、昨日の夕方に届いた日傘を始めて使う。内側は遮光の黒だが、表面は水色と白の明るいデザインのものを購入した。すでに日傘を使おうと決めた時点でジェンダーフリーの気分になっているわけだから、色もジェンダーフリーで行こうと。

快適である。日傘を持って歩いているというよりも、日陰を携帯して歩いているという感覚。家から駅までの道を歩いて、もう日傘なしの生活は考えられなくなった。日傘を差さずに歩いている人の気持ちがわからない。

今日は江古田に芝居を観に行くのだが、その前に、ちょっと研究室に寄る用事がある。

コンビニで購入したハムカツサンドを研究室で食べる。

用事を済ませて研究室を出る。

江古田は池袋から西武池袋線(普通)で3つ目の駅である。もう30年ほど前になるが、武蔵大学で非常勤をしていたときに来た。そして10年ほど前から芝居を見るためにときどきやってくるようになった。

今日の会場は駅から歩いて5分ほど、千川通りある「霞空喫茶もあ」。

ふだんはシーシャ(水タバコ)の飲めるカフェだが、今日は芝居のために通常営業をお休みである。

今日の芝居は『三重奏の時をほどく』というタイトルの60分ほの短めの芝居なのだが、観客が芝居の進行に参加するという趣向になっている。私には事前に「カフェの常連客」という役割が与えられている。それは(このブログの読者であればおわかりと思うが)私が日々の生活の中で演じている役割の一つであるから、違和感はないし、社会学者の目から見れば、日常の生活もさまざまな舞台(家庭、学校、職場、電車の中・・・)で繰り広げられる一種の演劇なのである。ただし、今日の芝居の中身や、そこで私が演じる「カフェの常連客」がどういう演技を求められるのかは、ほとんどわかっていない。

案内された店の奥のテーブルには顔馴染みの小林龍二さんがいた。彼は劇団「獣の仕業」の団員で彼がまだ大学生の頃から知り合いである。今日は彼も「カフェの常連客」という役を与えられている。通常、同じ店の常連客同士は顔見知りであるから、私は彼に「毎日、暑いね」とフランクに話かけ、世間話を始めた。すでに「カフェの常連客」という演技に入っているのであるが、はたして彼はそのことに気づいていたであろうか(笑)。

スタッフで出演者でもある立夏さんがテーブルに来て、今日の役割について説明してくれた。登場人物の一人が忘れていた昔のことを思い出すきっかけになる写真が後ろに並んでいる本の一冊、ハインリッヒ・フォン・クライストの短編集『チリの地震』に挟んである。それを男に渡すか渡さないかの判断をおまかせします。その判断に応じて芝居は別の進行をすることになります。テーブルをトントンと叩いたらその場面が近づいたと思ってください。という説明だった。

なるほどね。芝居にはそういターニングポイントのようなもの何か所かあって、どちらに進むかは観客の判断(気まぐれ)に委ねられていて、でも、どの方向へもストリーの流れは用意されていて、役者はアドリブを駆使しながらそのストーリーの上で芝居を続けるということである。

そして芝居が始まった。高校卒業から12年後、和也(柳橋龍)が偶然入ったカフェで同級生の有紗(立夏)と再会する(実はこの再会はすべて計算尽くで仕組まれたものなのだが、そのことを知らないのは和也だけ)。一緒に夏祭りに行ったときの思い出なんかを話す二人。そのとき二人ではなくもう一人だれかと一緒だった気がしてきたのだが、記憶がおぼろげである。有紗はそれが同級生の美香(佐藤天衣)であったことを和也に思い出せようとする。有紗がテーブルを指先でトントンと叩いた。私の出番が近づいてきた。有紗が店内にある本を手に取ってみることを和也に勧める。何か記憶を呼び起こす手がかりがあるかもしれないと。和也が私のテーブルに近づいてきて、「何か一冊お薦めの本はありますか」と聞いた。「一冊でなくてもかまわない」と離れた場所から有紗が言った。私は三冊の文庫本を引き抜いてテーブルの上に置いた。「チャールズ・ブコウスキー『町でいちばんの美女』。これは実に面白い本です(文体がいい)。『東京奇譚』。村上春樹。もちろん面白い(稀代のストーリーテラー)。ハインリッヒ・フォン・クライストの短編集『チリの地震』。これは読んだことないんだけどね(でも、なんか面白そう)。この中からどれかいかがですか」と私は答えた。誰も予想(期待)していなかったであろう長台詞。しかも、一冊ではなく三冊。「はい、これ」と一冊の本を渡すだけでよかったのかもしれないが、それでは面白くない(私が)。ちゃんと台詞のある役がやりたかった。なので店内にいる他の客たちにも届くような声でアドリブの台詞を語った。そして三冊選ぶことで、どのストーリーを選択するかを、私が判断するのではなく、役者に投げ返したのである。そういう「読書家で、ちょっと癖のある、カフェの常連客」というものをセルフ・プロディ―スしてみたのである。

和也は三冊の本を渡されて、ちょっと戸惑っている。とりあえず『町でいちばんの美女』の裏表紙に書かれた紹介文を読み上げてみたりしている(それで少し時間をかせいでいるみたい見えた)。すると有紗が「『町でいちばんの美女』!私のことだ!」と叫んで、自分の来ているTシャツを示した。そこには「THE MOST BEAUTIFUL WOMAN IN TOWN 」という文字がプリントされていた(!)。なんという偶然。私は立夏さんから『チリの地震』を和也に渡すかどうかの判断をゆだねられただけで、『町でいちばんの美女』と『東京奇譚』の二冊は気まぐれで選んだ本だった。

その後は、有紗が『チリの地震』に挟まっていた写真(和也と有紗と美香の3人が写ったスナップ)に気づき、それを和也に見せるという流れで話が進行した。

和也は高校時代、美香と付き合っていたが、甲子園を目指して頑張っていた野球をケガで断念するというつらい記憶があって、その記憶と一緒に美香との思い出も記憶の底に封印(抑圧)されてしまっていたのだった。ここで観客たちに二者択一の質問(オーダー)が聞かれた。和也がその記憶を自分から思い出すストーリーにするか、美香(客に混じって店内にいたのだ)が当時のこと(そしていまでも和也のことを思っていることを)を語って和也の記憶の封印を解くストーリーにするか。結果は微差で後者のストーリーが選ばれた。美香の語りですべてを思い出した和也は「ごめんなさい」と美香に謝り、二人は12年の時を経て、再び付き合いはじめることになる。水タバコの煙のような甘い香りのエンディングである。

芝居が終わり、「歓談タイム」になる。「もあ」特製のプリンが運ばれてきたので、私は追加で珈琲を注文した。

プリンは昔ながらのハードタイプのプリンだった。ブラック珈琲に合いますね。

普通の公演では、終演後に少しの間、役者さんたちと立ち話をする程度のことが多いが、今回はたっぷりと文字通り腰を据えて話をすることができた。これはいい企画ですね。芝居の時間より、「歓談タイム」の方が長い(90分)というのはすごいね。

和也を演じた柳橋龍さん(「兎団」所属)と作者のましこさん。柳橋さんは劇団獣の仕業の公演『サロメ』でサロメの母へロディアを熱演した方である。「アドリブの多い芝居はきついです」と盛んに言っていた。原作者のましこさんからは「本を三冊選んでくれたとき、(心の中で)拍手をしてしまいました」と言っていただいた。私はもし和也が自分で過去の記憶を思い出した場合はどうなるのですか、と尋ねた。「そのときは美香が和也に「ありがとう」といって、二人は再び付き合い始めるのです」とのこと。どっちにしろ甘い香りのエンディングになるのですね(笑)。

右端が美香を演じた佐藤天衣さん。「日常会話のようなアドリブで和也と有紗が話をしていましたが、私から見ると、二人ともしっかり芝居をしていましたね」と言っていた。そういわれてみると、二人の話し方というのは、いまどきの若者(私が大学で接しているような)とは違う。30歳前後のもう若者とは言えない人が、若者っぽく話しているような感じだった。そういう二人をアラフォーの役者が「演じた」わけで、たしかに「芝居っぽい」感じでしたね。お隣の二人は演劇関係の方だったので、お顔に💛はしないで載せさせていただきます。

有紗役の立夏さんと作者のましこさん。立夏さんが「お顔がブログで出るのは大丈夫?」とましこさんに確認したら、「はい、大丈夫です。出たがりなものですから」(笑)と言っておられた。

立夏さんとカフェの店主「かわちゃん」役で出演された「霞空喫茶もあ」の店主さん。てっきり役者さんだと思ってました。役者の心得があるそうで、目線を外した恥ずかしがりのポーズも演技なんですね(笑)。プリン、美味しかったです。

立夏さんの求めに応じて写真に撮られる。「にらみ」をきかせた表情で(笑)。

あっというまの「歓談タイム」だった。和也さん役の柳橋さんが店を出る私のために「夏への扉」を開けてくれた。いい笑顔ですね。山下達郎みたいです(笑)。

これから30分後にもう1ステージある。頑張ってください。今日はどうもありがとう。

蒲田に戻ってきたのは6時半頃、

夕食はベーコンと玉子と小松菜の炒め物、薩摩揚げ、たらこ、ワカメの味噌汁、ごはん。

デザートはアイスクリームとブルーベリー。

食事をしながら『マル秘の密子さん』第3話(録画)を観る。密子(福原遥)の過去が少しずつ明らかになっていく。

オリンピックの実況中継をときどき観る。阿部一二三の金メダルも吉沢恋の金メダルも素晴らしかったが、阿部詩のあの「号泣」が凄かった。あんなに声を出して泣き崩れる人を初めて見た。

風呂から出て、今日の日記を付ける。

3時、就寝。いけない、生活時間が乱れている。