8時、起床。
トースト、サラダ、紅茶の朝食。
今日は隔月でやっている句会の日。神楽坂の「SKIPA」が昨年末で閉店したので、今回から早稲田の「カフェゴト―」に場所が移った。入口入って左側の窓際の大きなテーブルを予約しておいた。
出席者は、主宰の紀本さん、蚕豆(さんとう)さん、東子(はるこ)さん、こかよさん、理衣(りい)さん、恵美子さん、明子さん、初参加の八木さん、投句のみ参加(京都在住)の花さん、そして私(たかじ)の10名である。
飲み物とケーキを注文。
私は柿とアーモンドのタルト。ショーケースの中にこれを見つけたときは小躍りした。後からお店の方に聞いたら、私が以前からこれを定番にしてくるようにリクエストしていたのに応えてくださったそうである。ありがとうございます。柿のやさしい甘味と生クリームの組み合わせは、「カフェゴト―」のケーキの中では一番ライトな味わいではないだろうか。
今回の作品は28句。10名×3句=30句ではないのは、初参加の八木さんは1句のみの投句であるため。兼題は「白」。
通例であれば一人が3句を選ぶ(天=5点を1句、地=3点を1句、人=1点を1句)のであるが、今回はいつもより作品が多いということで、一人が5句選ぶことになった(天=5点を1句、地=3点を2句、人=1点を2句)。これは「坊主」(自分の句が1つも選ばれない人)が出る可能性を小さくしようという紀本さんの配慮である。
二段に分けて大きな字で表示しよう。
各自の選考が終わり、選んだ5句を申告し、集計した結果、今回の入選句は以下のようになった。(作者の名前は講評が終わった後で明らかにされた)
20点(特選) うつを病む友の賀状の余白かな 八木
今回の特選句は初参加の八木さんの作品(それも一作品だけの投句)。大型新人の登場である。「うつ病」をモチーフにした作品を正月の句会に出というのはちょっと決断のいることだったと思うが、「鬱」でなく「うつ」と表記したのは、重さを軽減するための工夫であろう。「賀状の余白」はたぶん広めなのだと思うが、それを余白を埋めるのがしんどいため(けれど頑張って賀状を書いている)と読むか、簡潔な文章の余白に込められた回復への決意を読むかで句意が違ってくるが、私は後者と解釈して「地」に選んだ。
14点 白菜のひしめきあひて出番待つ 東子
後で出て来るが、私も白菜を詠んだ作品を今回投句した。自分の句は選べないので、この句を「地」に選んだ。冬の野菜といえば大根か白菜であろう。「ひしめきあいて出番待つ」白菜とはどういう白菜のことであろうか。いくつかの解釈があった。八百屋の店先に並んでいる白菜。鍋に投入されるのを待つ皿の上の白菜。鍋の中で箸で取り上げられるのを待つ白菜。私はぬか漬けにされて樽から取り出されるのを待っている白菜を連想したが、作者もぬか漬けの白菜を念頭に置いて詠んだとのことだった。「ひしめきあいて出番待つ」と白菜を擬人化しているところが妙である。
13点 少しずつ捨てて白なる年の暮れ 花
年末へ向けての断捨離。物や物にまつわる思い出を捨てて、身軽に自由になって、いわば白紙の状態で、新しい年を迎えようということであろうか。私はこの句を「人」に選んだ。今回は上位3句が兼題の「白」を詠み込んだ作品だった。これはかなり珍しいことである。「白」と「冬」がマッチしているためだろう。
12点 寒雀息を吸うては吐かぬまま 蚕豆
寒気のため全身の羽毛を膨らませた雀を「福良雀」(ふくらすずめ)と呼び、女性の髪の結い方の名前にもなっている。本人は寒いのだろうが、見るからに暖かそうな、縁起のよい名前で、正月の句に相応しい。「吸っては」ではなく「吸うては」と古風な言い回しにしたところもゆったりとした余裕が感じられてますます正月の句らしい。私はこの句を「天」に選んだ。
9点 シャクン、と前髪切って大晦日 恵美子
前髪を「シャクン」と切ったのである。最初、クシャミでもしたのかと思ったが、冷静に見て「切って」を修飾する擬態語である。ふつう前髪を切るというと「パッツン」か「シャキン」だろう。「シャクン」というのは初めて聞いた。さらに「シャクン」の後に「、」を入れたところが評価の分かれるところだろう。「、」や「。」は俳句に使ってはいけないという人もいる。私は「いけない」とまでは思わないが、自分では用いない。「シャクンと前髪切って大晦日」でも通じるだろう。ただ、通じはするが、「シャクン」の後に一拍置くという気持ちは伝わりにくいだろう。そのための「、」である。楽譜でいえば休止符である。
6点 白銀の家路を照らす木守柿(こもりがき) こかよ
「木守柿」とは「来年もよく実りますように」と枝の先に一つ二つわざと残しておく柿のことで、冬の季語である。味わい深い季語であるが、「白銀の家路」とは雪道のことであるから、事実上の季重なりになってしまった。もったいないことである。
早稲田から門出を祝う初句会 紀本
今回、紀本さんは3句とも初句会で作った。その一つ。最初、句会の場所が「SKIPA」から「カフェゴト―」に替わったことを詠んだのかと思ったが(句会の再出発)、そうではなくて、今日の句会を最後に東京を離れる方が2名いることを踏まえてのはなむけの句であるとの説明があった。蚕豆さんが実家のある旭川へ、明子さんが新しい勤務校のある京都へ、それぞれ行かれるとのこと。お二人とも句会発足時からのメンバーである。それは、それは・・・。
純白のノートひそめて初詣 明子
その東京を離れるお二人の一人、明子さんの句。「純白のノート」が一からの新しい生活を始める気持ちの暗喩であることはいうまでもない。ただし「ひそめて」は説明過剰。センチメンタルな気分がそうさせてのではないかしら。
白鳥の深度合成する仕草 蚕豆
もう一人の東京を離れる人、蚕豆さんの句。「深度合成」は写真用語で、ピントの位置が異なる複数の写真を合成して被写界深度の深い(ピントが合っている部分の奥行きのある)写真にすること。こういう専門用語を取り込んでシュールな作品にするのが蚕豆さんの得意技である。
5点 風花や後ろ姿の遠ざかる 花
日活映画の任侠シリーズのポスターのような句である。山頭火の「うしろすがたのしぐれていくか」も連想させる。「後ろ姿」には雪や雨が似合う。逆に言えば、月並みな構図であるといえなくもない。
4点 初春の猫一つ分のあたたかさ 明子
「猫一つ分」というところがポイントの句。猫を湯たんぽのように一つ二つと数えている。服部嵐雪の「梅一輪一輪ほどの暖かさ」という有名な句があるが、そのパロディーとして読むこともできる。
白菜の新香の好きな人だった たかじ
私の句。その人はしばらく会っていない人かもしれないし、亡くなった人かもしれない。誰かを思い出すときにその人の好きだったもの(食べ物)が一緒に思い出されることがある。ちなみに私はお新香では白菜が一番好きである。ちょっと醤油をたらして、ご飯を巻いて、どんぶり飯が食べられる。
3点 窓白く冬のさなかを8号車 理衣
てっきり冬の旅を詠んだ句かと思ったが、作者の説明を聞いたら、通勤電車だそうである。いつも決まった車輛に乗るわけであるから、それはそれでありかと思った。ちなみに私は東京駅から蒲田方面行きの京浜東北線に乗るときは7号車の前の方に乗る。そうするとホームに降りて目の前が階段なのである。
2点 切りたての前髪吾子に淑気満つ 理衣
これも理衣さんの句。恵美子さんと同じく「前髪」をモチーフにしている。女性にとって「前髪」を「切る」というのは物語性を帯びる行為らしいことがわかる。
以下、1点の作品については感想は省略。
1点 霜振りて交通標識ひとりきり 理衣
いつもより早く集まる初句会 紀本
初夢を修正している夜明けかな 明子
珈琲のほろ苦くして初句会 たかじ
にべもなく新年迫る大掃除 こかよ
ランナーの息見てむせぶ年男 東子
初句会白髪が少し増えました 紀本
恵美子さんの向こう側、窓辺の方が初登場でいきなり特選の八木さんである。
主宰の紀本さんからお年賀をちょうだいする。大小の袋に別々のものが入っていて、開けてみるまで何かはわからない。私は犬のデザインのかわいいタオルをいただいた。研究室で茶器を拭くのに使わせていただきますね。
「カフェゴト―」にはフードメニューはないので、時間のある人は、文キャン向かいのカフェ「レトロ」で食事をしていく。ここに来るのはずいぶんと久しぶりである。一階席はほとんでなくて、地下がメインのカフェである。「レトロ」じゃなくて「メトロ」だ。
ここの名物はトロトロ卵のオムライス。いろいろな種類がある中から、私は明太子クリームを注文。
この後、穴八幡へ寄って行く人もいた。私はここで失礼する。
次の句会は3月18日(日)。兼題は「擬音語・擬態語を入れること」(八木さん)
夕食はタラの西京焼き、鶏のササミに梅肉を詰めてえごまの葉で包んで焼いたもの、サラダ、茄子の味噌汁、ご飯。
これは美味しかった。
1時半、就寝。