presented by hanamura
「鯨尺」について
呉服屋さんなどで、着物や帯の寸法をみると、
「結城紬 着丈:4尺2寸5分、裄:1尺7寸」
「名古屋帯 長さ:9尺5寸、巾:8寸2分」
と表示がされていますね。
この「尺(しゃく)」「寸(すん)」「分(ぶ)」は、
中国を起源に、日本では700年ごろからつかわれてきた
古い「長さ」の単位です。
「尺(しゃく)」「寸(すん)」「分(ぶ)」の他にも
古い「長さ」の単位には、
「丈(じょう)」「厘(りん)」というものもあります。
日本 での公式の単位としてのこれらの古い単位は、
明治18年に「メートル法」が導入された(※1)ことで
廃止されています。
「メートル法」の導入によって
公式の単位としてはつかわれなくなったものの、
この古い単位は、
昔ながらの伝統が残る職人仕事の世界でいまもなお残り、
日常的につかわれています。
いまの「メートル」に変換すると、
1丈は約378.8cm、1尺は約37.88cm、1分は約0.378cm、
1厘は約0.0378cmです(※2)。
「メートル」に変換しようとすると、
「約○○.○○cm」となり、割ることができませんね。
メートルで測ることに慣れてしまった現在では、
尺によって長さを測るのは、ややこしくもあります。
さらに「尺」にはおなじ単位でも実際には長さがちがう
いくつかの「尺」があるので、またややこしくなります。
もともと「尺」の長さは、
時代によって変わってきたものなのですが、
業(なりわい)によっても
それぞれ1尺の長さがちがいます。
建築のときに面積を測るときの「尺」は、
「曲尺(かねじゃく、きょくじゃく)」、
そして着物や帯を測るときの「尺」は、
「鯨尺(くじらしゃく)」といいます。
一般的に「尺」というと「曲尺」のほうを指し、
現在のメートル法で1尺は、曲尺で約30.3cmですが
鯨尺では上記のように大きくなります(=約37.88cm)。
着物や帯の世界の長さの単位である
「鯨尺」というよび名は、
着物や帯の寸法を測るときに用いられる「物差し」が
鯨のひげからつくられていたために、
「鯨尺」とよばれたことに由来します。
「鯨尺」の単位自体も「鯨尺」なのですから
これもまたややこしい話です。
尺=ものの長さ(1つの単位)=物差し(1尺)なので
よけい複雑なんですね。
つまり、その世界によって、
“尺度がちがう”
“それぞれの物差しがある”
ということなんですね。
もちろん帯を仕立てる布の長さは
この「鯨尺」をつかって測ります。
いまの鯨尺は、
竹でつくられているものが多いので
「竹尺」ともよばれるのですが、
京都のほうでつかわれていた「竹尺」とは
また1尺の寸法がちがいます。
この鯨尺には1寸ごとに目盛りがきざまれ、
5寸と1尺ごとに印がついています。
鯨尺では全体の長さや巾はもちろん、
柄の位置も測ります。
お太鼓柄の位置、前柄の位置やたれの位置など、
帯を結んだときの柄の位置を確認するのです。
とくに帯反からではなく、
着物や古布を帯へと仕立てかえるときには
「測る」という作業がとても重要になります。
帯反であれば、お太鼓の位置や前の柄の位置が
はじめから決まっていますが、
着物や古布の仕立てかえの場合には、
まずそれを帯反にする必要があるからです。
柄の位置が定まっていないので、
きれいに見えるような配置を
考えていかなければなりません。
柄の位置を把握するために
正確に寸法を測る必要があるのです。
また、布と布を剥ぎ合わせるときにも
測ることがとても重要になります。
帯を結んだときに、
「どの柄をお太鼓、前に置くべきか」
「どこに柄がくればよいか」
「どこで剥いだらきれいか」
といったように、
“美しさ”を追求していきます。
つまり、帯仕立てでは帯を仕立てる作業も大切ですが、
「測る」という作業もとてもだいじなんです。
帯づくりにおいてこの重要な役割を担ってきた「鯨尺」。
その鯨尺には、「メートル」では割り切れない、
“和の心”が色濃く残されている
といえるのではないでしょうか。
※1 「メートル法」は、18世紀末のフランスで、
世界で共通の単位が使用できるようにと考えだされたものです。
日本がその条約に加盟したのは明治18年(1889年)のこと。
※2 鯨尺での値です。
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次回の更新は2月12日(火)予定です。
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