ヌマンタの書斎

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津波対策に思うこと

2012-09-07 11:53:00 | 社会・政治・一般
津波は海底地震が起きた時にやってくる。

間違いではないが、正しくもない。たしかに海底地震は津波を引き起こすことがある。まだ東日本大震災の直後に襲ってきた津波の映像が、目に焼き付いている方なら誰しもそう思うであろう。

だが、海底地震だけが津波を作るわけではない。

例えば宇宙から落下してきた隕石。6500万年前にメキシコ、ユカタン半島沖に墜落した隕石が引き起こした津波は、その高さ数百メートルで速度は数百キロでアメリカ湾岸を襲ったと考えられる。もちろんヨーロッパ大陸やアフリカ大陸にも、巨大な津波が襲ったとされている。

こんな津波が襲ってきたら、どんな防災対策も無意味となる。

まぁ、いささか極端すぎる例かもしれないので、近代となり実際に計測された津波を取り上げたい。この津波も大きかった。なにせ最高到達点は、はるか山の上、海水面から500メートルも上がった稜線に、しっかりと津波の痕跡を残している。

それが1958年のアラスカの深く切れ込んだリツヤ湾だ。その湾は氷河が削ってつくられただけに、細く長い川のような湾であった。アラスカの巨大な山脈から流れてきた氷河の行きつく先でもあり、現在も年間数センチづつ氷河が海に沈みこんでいる。

この氷河のはるか上流でマグニチュード7クラスの地震が起きた。その結果、氷と岩の巨大な壁が崩落し、数万トンの氷塊が大挙して湾に落ち込んだ。ちなみに他の湾では、このような巨大な崩壊はなかったため、揺れただけで津波なんぞ起きなかった。

だが、リツヤ湾に崩落した氷塊が引き起こした津波は、まさに怪物的巨大津波であった。細長い湾であったことがわざわいし、津波は加速度的に高さを増して、なんと標高520メートルの高さにまで到達している。

現在のところ、このリツヤ湾の津波が計測されたもののなかでは、最も巨大だとされている。M7クラスの地震は大きいが、山間部での地震であったせいか、人的被害は一切報告されず、このリツヤ湾の津波も目撃者がいたからこそ後世に知られるようになった。

私はこのことを、CS放送のディスカバリーチャンネルで知ったのだが、その番組内でこの次予測されている巨大津波があることを知り仰天した。

場所は、大西洋の避暑地として有名なカナリア諸島のラ・パルマ島だ。活火山を擁する島だが、問題は火山そのものではない。この島の東西の巨大な岸壁こそが問題だった。その岩質は、火山から作られた軽石状のもので、あまり頑丈ではない。


もし、この島で中規模クラスの地震や、火山の噴火等が起こると、中央部で大規模な地滑りが起こり、結果として海沿いの巨大な岸壁が崩壊することが予測されている。この数百億トンにも及ぶ岸壁が崩壊して、海に次々と落ちることにより巨大な津波が発生するものと考えられている。

番組のなかで、CGで作られた高さ100メートルにも及ぶ巨大津波がアメリカ東海岸やヨーロッパの沿岸部を襲うさまが描かれていた。それは、まさに巨大な海の壁に呑みこまれていく地獄図であり、数百万人の死傷者が出る可能性を科学者が述べていた。

断っておくが、これはSFドラマではなく、大自然の脅威を伝えるドキュメンタリー番組である。もちろん可能性の問題でもあるので、必要以上に恐れることはないが、今のところ島の東西の崖に警報装置を取り付けてあるだけだそうだ。いや、本当にそれだけしか対策は立てられていない。

私が知る限りではあるが、この番組が放送されて以降も、日本のような津波からの避難設備建築や、防災訓練などを定期的に行っているといった情報はない。果たして諦めているのか、それとも津波の危険性を敢えて認識していないのか分からない。

おそらく津波の危険に対する認識なんて、そんなものなのかもしれない。実際、日本でも震災前に30メートルクラスの津波の可能性を警告は存在した。福島原発でも、やはりそのような報告はあった。でも、敢えて無視されていた。

あまりに巨大すぎる危険性は、人の思考を硬化させてしまうらしい。

今年になり、日本政府も8月の末に南海トラフで大規模な海底地震が発生した場合の、最悪を想定したハザードマップを公開した。けっこう騒ぎになっているが、喉元過ぎればなんとやら。多分、半年後には忘れられいるのだろう。

残念ながら、人間なんてそんなものだと思う。
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2 コメント

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Unknown (cherry)
2012-09-07 17:23:59
「あまりに巨大すぎる危険性は、人の思考を硬化させてしまうらしい。」

…ですね。
私はビーチの目の前に住んでいるので、10m級の津波でも覚悟を決めています。
なので、そんな何百メートル級の津波だなんて…、いやはやもう国自体が沈没してるでしょう。
そんな大惨事の跡なんて見たくないから、その時は大波と一緒に天国まで連れて行って下さいまし! っていうところでしょうか。
でもきっとそんなこと起きない、って心の中で思っているんでしょうね。(あはは…)
危機感ないですね、全く。
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Unknown (ヌマンタ)
2012-09-08 13:47:09
cherryさん、こんにちは。あまりに規模が大きいカタストロフィの場合、ほとんどの対策が無意味となるので無理ないと思います。ラ・パルマ島にしても、その危険性は認識されているのに、有史以来そのような大崩落はなかったわけで、それゆに無視されてしまうのでしょう。
賢しげな事言っていますが、私とてそのような現実的(近視眼的でもある)な判断をすると思います。
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