ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

花見の帰り道で

2019-04-19 12:03:00 | 日記

無意識って怖いと思う。

人間って奴は、時として本能的に、あるいは反射的に動くことがある。

私は普段、理知的な人間だと思っているし、考えて、考え過ぎて好機を逃すことのほうが多いとさえ思っている。

そんな私だが、時たま考えなしにやっちまう事がある。

あれは20代、まだ大学生の頃だ。たしか今時分であったと思う。その年の春は、なかなか暖かくならず、花見も4月半ばを過ぎてからであった。寒かったので、その日の花見は井之頭公園を散策するだけで、飲み会は近くの焼き鳥屋でやった。

特に馬鹿呑みすることもなく、さりとて盛り上がることもなく、淡々と終わった飲み会であったと思う。その時はさほど意識していなかったが、私はけっこう鬱屈した思いを抱いていた。

本当は参加する気のなかった飲み会であった。本来ならば彼女と二人で夜を過ごす予定であったのだが、私より先に新社会人となった彼女は会社の飲み会に参加することを優先した。

その連絡があったのは今朝のことであった。その時は優しく返事しておいたのだが、時が経つにつれて不満が積もっていくのを自覚せざるを得なかった。

そんな自分が嫌であった。幼稚というか、もっと大人になれよと自らを嗜めるが、それでも不満は不満として残っていた。だからこそのあの振る舞いであったのだろう。

帰宅の途上の電車の中のことである。電車の出入り口を塞ぐ様な形で、ふんぞり返って漫画雑誌を読んでいる若者がいた。けっこう背が高く、少し怖い雰囲気を漂わせているせいか、誰も注意せずに見て見ぬ振りであった。

私もそのつもりであった。でも、私が電車を降りるとき、クスクスと笑っていることが、私の導火線に火を付けた。

彼の足もとに座り込み、その足首を掴みながらいきなり立ち上がった。当然に私に引き倒された彼の上に、私は体重を乗せて膝を胸元に落した。ぶほっと息を吐き出す彼の首元に、踵を叩きつけて息を出来なくさせる。

首を抑えてのたうちまわる彼を、ちらっと見て、足早に、かつ何事もなかったかのようにその場を立ち去った。周囲の人波が、私を避けるかのように割れていくのを冷笑しながら、私は素早く改札を抜けて、いつもとは反対側の道を使って逃げ去った。

夜道を足早に歩きながら、最初はいい気分であった。でも、時が経つにつれて次第に自己嫌悪に染まっていくのが分かった。彼がクスクス笑っていたのは漫画を読んでいたからであって、私を嘲笑った訳ではない。

電車の出入り口を塞ぐ態度は良くないが、だからといって口頭で注意もせずに、いきなり暴力を振るわれるのは、さぞや理不尽であろう。

なによりも、私が彼を痛めつけたのは、正義の振る舞いではなく、八つ当たりであった。時間が経つにつれて、自分のしたことの卑劣さが身に染みて分かってきた。

同時に分からなかったのは、何故にあれほど突発的に暴力行為に及んだのか。私はその晩、一人で悩んでしまった。これほど、自分が衝動的な人間だとは思っていなかったからだ。

私は子供の頃から、突発的に暴力行為に及ぶことが稀にあることを自覚していた。でも、それは幼い頃の悪癖で、中学生後半には治まっていたいたと思い込んでいた。でも、治っていなかった。

自己嫌悪ほど、自らを傷つけるものはない。自分で自分が分からなくなった。断言しますけど、普段は温厚で、大人しい気質なのです。だからこそ、余計に戸惑った。

あれから30数年、幸いにしてあのような突発的な暴力衝動は再発しておりません。桜の季節になると、時折思い出すのです。そして、二度とするまいと自らを諌めております。


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