ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

戦後の肖像 保坂正康

2021-07-19 11:25:00 | 
歴史に名を刻むことは難しい。

記録に残ることと、記憶に残ることは違う。歴史に名を残すのは後者だ。しかし、前者にもその時代を生きた価値はあったはずだ。

昭和の歴史に関する文を読んでいると、しばしばその名前を見かけるが、よく分からない人たちがいる。教科書に名が載ることは、まずないのだが、歴史に関する本を読んでいると散見する名前だけに、余計に混乱させられる。

そんな人たちを取り上げたのが表題の書である。

例えば、頭山満である。イメージとしては戦前の右翼の巨頭なのだが、具体的に何をして、何を出来なかったのか、そのイメージが教科書からは読み取れない。

あるいは、歴代の首相の御指南役として知られた安岡正篤である。昭和天皇の終戦の詔を推敲した人物である。いったい何者で、何が故にそのような立場にあったのかは、歴史教科書では分からない。

また昭和天皇の弟宮である秩父宮が果たした役割が、教科書に載ることはない。しかし、昭和史を丹念に拾っていくと、秩父宮が目指したものと、昭和天皇が志したものの違いについて考えざるを得ない。

この書に挙げられた15人は、その時代にあっては重要な立場にあれども、その実績が人々の記憶に残ることは、ほとんどなかった。しかし、昭和史を詳細にみていくと、彼らの名前が記録に残っている。

私は単なる歴史好きに過ぎないが、それでも教科書的な歴史だけを学んでも、歴史の実態は見えてこないことは分かる。いや、分かるようになった。

人々の記憶にこそ残らないが、その功績は当時の社会に大きな影響を与えた人たちがいて、彼らもまた歴史を動かす大きな歯車の一つであった。

また一つ、私が学ぶべき事柄が増えたようだ。今年の夏は、誰について調べようかな、実に楽しみだ。
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