ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

百姓貴族 荒川弘

2014-09-10 12:06:00 | 

未だに代金をいただいたことがない。

ある東京近郊の山沿いにある農家の確定申告を請け負って、先代から数えて30年はたっている。毎年、所得税の確定申告をしており、無事終わると申告書の控えを請求書と共に返送している。

しかし、その代金をお金で頂いたことがない。私が佐藤事務所に入る前から、ずっとである。お金を振り込んでくる代わりに、毎年4月の頭に段ボール箱が送られてくる。これが代金となっている。

中身は野菜である。主に玉ねぎ、人参、ネギなどである。スーパーなどで買えば、ざっと計算しても一万円には足りないと思う。しかし、三越などで買えば、おそらく数万円にはなると思う。

実はこの野菜、滅茶苦茶美味しい。事務所ではあみだを引いて、スタッフで山分けしてる。ただの玉ねぎなのだが、味がまるで違う。スタッフの一人に言わせると、三越で買った玉ねぎより美味しいらしい。

だから先代の佐藤先生も、そして私も代金のことで文句を言ったことがない。後に直接お会いして聞いたら、農協に出荷するものとは別に自宅で食べるために作ってある野菜を送っているとのこと。

形は少しいびつだし、虫食いの痕もあるが、なによりも美味しいと伝える。すると、商品としてはダメだが、ほぼ無農薬で有機肥料で育てているから、美味しくて当然ですよと云われた。

農協に出荷する商品としての野菜は、形が整っていることや、虫食いの痕がないことが条件なので、どうしても農薬や化学肥料を使わざるをえないとのこと。わざわざ味を落とした野菜なのですが、このほうが売れるのですと、残念そうに話していた。

馬鹿げたことだと思うが、我を顧みればスーパーなどで形の良い野菜を選んで買っているのだから、偉そうなことはいえない。

表題の漫画は、北海道の開拓農民の出て、実際に朝から夜まで農作業、畜産業に奔走していたプロ農民である荒川弘の農業エッセー漫画である。あの大ヒット作「鋼の錬金術士」の作者が、実は百姓出身というのも驚きだが、「農家の常識は、社会の非常識」と言い切る農家の日常生活が面白い。

その経験から「銀の匙」という漫画を現在連載して人気を博しているが、こちらのエッセー漫画も楽しい。「水がなければ牛乳をお飲み!」とは、困った百姓貴族であるが、笑ってばかりでいいのかと自省させられる。機会があったら是非どうぞ。

コメント (11)
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