見目麗しい山であることは間違いない。
先週のことだが、富士山が世界遺産として登録されることが内定したそうだ。静岡県をはじめ周辺の自治体では観光振興につながると大喜びのようだ。
喜んでいるところに水を差すのもなんだが、私は少し複雑に思っていた。
御記憶にある方もあろうと思うが、富士山の世界遺産登録は一度拒否されている。原因はゴミの多さだ。それ以来、静岡、山梨などの自治体及び有志によるボランティ
アなどの活躍もあり、ゴミは大幅に減ったとされる。
だが、根本的対策には程遠いのが実情だろう。ゴミ処理の問題はコストの負担が現実的な壁として立ち塞がる。率直に言って、世界遺産登録により、今まで以上に観光
客が増えれば必然ゴミは増える。そのコスト、どうするの?
どうやら入山税などの徴収をしてコスト増に対応することを考えているようだが、いささか対応が遅い。静岡県、山梨県は早急に対策をとるべきだと思うな。
それはそれとして、実を言えば私は安易な富士登山にはいささか懐疑的だ。
富士山は登るだけなら一本道に近く、迷うこともなく誰でも体力さえあれば頂上に行きつける。その意味で易しい山だと云える。ところが、それは好天に恵まれた夏場
の3週間程度だと思う。
実は富士山のような単独峰は気候が急変しやすく、しかも風が強く、ガスも発生しやすいが故に難しい山でもある。夏場ならいいが、冬の富士山は登山のエキスパート
でさえ簡単に命を失う危険性を秘めた恐ろしい山だ。
あの緩斜面は雪が降り積もり、その雪を風が凍結させて恐ろしい死の滑り台と化す。母校の山岳部では毎年12月に富士山で滑落防止訓練をしていたが、やるのは下の
方の緩斜面でやっていた。上のほうはガチガチに凍ったアイズバーンであり、転倒してピッケルを突き刺そうとしても、そのピッケルが刺さらないこともある。
そうなると、後は重力に任せて落ちるように滑るのみ。もちろん富士山の斜面は岩でギザギザであり、滑落者はやすりをかけられたみたいに肉体を削られて、滑落が止
まった時には肉片と化していることもある。富士山の滑落死の遺体ほど無残なものは珍しいと思う。
だから熟達者は冬季の富士登山には滑落しないよう細心の注意を払う。また冬の富士は西から冷たい風が吹き付ける。この風が体温を急激に奪う。防寒装備が不十分な
登山者は、この冷たい風に体温を奪われての疲労凍死することが珍しくない。
更に怖いのは落石だ。登った人は分かると思うが、富士山のなだらかな斜面は細かい礫石が一面に広がっている。ちょっと登山ルートを外れると、この細かい石が足に
絡みつき、非常に歩きずらい。
冬場の風が強い時、この小さな礫石が飛ばされて斜面を跳ねるように落ちてくることがある。おそらく時速数十キロの威力で小石が人にぶつかれば軽傷では済まないこ
ともある。困ったことに、登山の初心者は、自らの歩みで石を斜面に落としてしまう。その落石が人を傷つけることもある。
地元の人たちは、富士山登山の怖さを知っている。だから熟達者以外は夏場にしか登らない。現在も富士山登山は入山規制等を設けて安全に配慮している。この規制は
過去の悲惨な事故の積み重ねを反省したうえで設けられたものだ。
これが観光パンフレットには載らない富士山の危険な裏面なのだ。富士山は本来、梅雨明け3週間ほどの安定した気候の時にやるべきもの。これなら初心者でも、まあ
概ね大丈夫だと思う。8月も終わりになると落雷やガスの発生が増えて、少し危険度は増す。9月だと晴天が安定しない限り、初心者は登るべきではないと私は思う。
でも、けっこう登山初心者が軽い気持ちで登っている現実も知っている。これが谷川や剣岳ならば初心者はそうそう近づかない。しかし富士山は、どうゆうわけか初心
者があまり警戒せずに登ってしまう。だからこそ浮「。
今回の世界遺産登録は、むしろ富士山の怖さを知らない初心者の登山を増やすのではないか。そんな余計な心配をしてしまいます。私は富士山を登る山ではなく、眺め
て楽しむ山だと考えているので、無理に登らなくてもいいように思います。
参考までに私の富士山ベスト鑑賞場所は、富士山の西側の天子山か毛無山(標高低いが展望良し)、大菩薩峠(昔の500円札の富士はここからです)、西伊豆(海越しの富士を温泉につかりながら)です。