プロスキーヤーであり、冒険家である三浦雄一郎氏がエベレスト登頂に成功したとの報を目にした。
たしかに80歳という年齢で8000メートル級の高所登山を成功したのは凄いと思う。快挙だと報じるのも分からないでもない。
でも私は内心、素直に喜べない気持ちもある。
率直に言って、今のエレベストは金と体力があり、晴天に恵まれれば誰でも登れる山である。無酸素、単独というアルパイン・スタイルならともかく、酸素ボンベから酸素を吸入し、シェルパという登山ガイドをつけていれば、さして難しい山ではない。
ただ、80歳を超える年齢での登頂は、たしかに凄い。それは間違いないところだが、これを契機に高所登山に挑む高齢者が増えたら困る。
まず、三浦氏はプロである。いかに冒険心をアピールしようが、プロとして今回の冒険に挑んでいる。スポンサーを揃えてその支援の下に事業として冒険を行っている。マスコミの取材も含めて、プロ活動の一環としてのエベレスト登山である。
そのために身体面のケアはもちろん、登山装備、シェルパの手配、現地コーディネーターなども通常の登山者とは異次元のレベルで準備をしたうえでのエベレスト登山である。
それを誹謗する気はない。プロなのだから当然だと思う。
だが、これは財政力のある三浦氏ならでは特別な準備であり、とてもじゃないが一般登山者には不可能だ。断っておくが、私は高齢者登山を批判しているわけではない。登山は年齢に応じた登り方をすれば、むしろ高齢者に向いたスポーツである。
私はそう考えていたからこそ、登山を生涯の趣味だと定めていた。残念ながら、その楽しみは難病により奪われてしまったが、健康だったらきっと今も登っていたし、高齢を迎えても登っていただろう。
だからこそ、今回の80歳の三浦氏のエベレスト登頂に危惧を抱かざるを得ない。
登山は経験が活きるスポーツであり、経験豊富なベテランほど登山を長く楽しめる。体力は落ちても、それを経験と知恵で乗り切れる。私はその実例を数多く知っているからこそ、それが真実だと分かっている。
だが酸素ボンベを必要とする高所登山は、別世界の登山である。もっと言えば、あれは不自然な登山でもある。だからこそ酸素ボンベを使わない登山スタイルがR・メスナーらにより実践された時、世界から絶賛された。同時に危険過ぎると警告された。
低酸素状態での激しい運動を伴う高所登山は、普通の登山ではない。実際、酸素ボンベを用いた登山でさえ、多くの失敗と犠牲の積み重ねがあってこそ確率されたスタイルである。そのことを忘れてしまっては困る。
三浦氏の偉業を讃えるのはいい。でも、高所登山の危険性を忘れてもらっては困る。あれは救助さえ不可能に近い異次元の登山なのだから。