ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「ホルクロフトの盟約」 ロバート・ラドラム

2006-07-21 09:06:24 | 
私は陰謀史観というものを好まない。ただし、小説のネタとしての陰謀は大歓迎である。だって、面白いから。

されど、面白くあるためには、その陰謀は壮大で華麗でありながら、現実的で実効性のあるものでなければならないと思う。そんな陰謀を小説のネタに仕込ませたら第一級なのが、アメリカのロバート・ラドラムでしょう。

小説家というものは、職業的嘘つきだと思う。その嘘が魅力的であることこそが、その小説家の腕の見せ所。あまりに広げすぎの嘘は、空々しい。奇想天外も度が過ぎると、かえって真実味を喪失する。実際にありそうで、でもあるわけないよと思わせつつ、首筋に水を垂らされたような驚きを与えてくれる楽しみ。それが私のラドラムの楽しみ方です。

不思議だなと思うのは、日本ではラドラムやフォーサイスのような作家は、まず出てこないこと。亜流というか、上手とは言えない物まね的作品ならあるのですが、地に足が着いていない観があり、私はあまり評価していません。

多分、日本人の精神風土が、多分に国際的陰謀に不向きな面があるからでしょう。よく言われる日本の外交の稚拙さは、なにも外務省や政治家だけの問題ではないはずです。海という天然の防壁に守られ、大半が同じ日本民族で占められた社会においては、国際的謀略とは無縁で居られましたから。

道路を渡れば外国であり、違う顔、異なる言語と接しながら暮らす大陸の暮らしは、当然に国際的情報への感性が磨かれ、危機意識も発達する。そのような社会風土があるからこそ、ラドラムやフォーサイスが生まれる。

とはいえ、少子高齢化が急速に進む日本も、早晩外国からの労働力としての移民を受け入れざる得ない状況になるでしょう。そうなった時には、様々な異文化間の軋轢が生まれ、島国根性の安穏としていることを許さない環境になる可能性は高い。

そのような状況下から、日本的なラドラムやフォーサイスが生まれるかもしれません。私がその時まで生きているかどうかは分かりませんがね。
コメント (6)
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