ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「モンテ・クリスト伯」 アレクサンドル・デュマ

2006-07-10 12:36:57 | 
かれこれ二十年前、一年近く入院生活を送ったことがある。最初の2ヶ月間は、寝たきりだったこともあり、それなりに緊張感のある療養生活だった。でも大半の期間は、薬が完全に効かず、治療方針が定まらず、ただ安静にしつつ、いろんな種類の薬を試しているだけだった。

まだ厚生省が認可する前の試験薬、いわゆる治験も何度となくやったものだ。でも効果はなかった。退屈な入院生活だったが、次第にその退屈さにさえ慣れてしまっていた。このまま、世を離れて世捨て人化するかのような不安を感じていたのので、時折病院を抜け出して本屋さんや、古本屋さん巡りをしていた。

偶然、入手したのが表題の「モンテ・クリスト伯」。小学生の頃、子供向けのものなら読んだ事があったが、原作の末ナを読んだことはなかったので、良い機会だと思い買い込んだ。子供の頃は、ただワクワクしながら楽しんだ記憶しかなかったが、長期入院している状態で読むと、まったく異なる印象となった。

この作品、一言で言えば復讐譚なのだが、私の心に深く染み入ったのは、やはり海辺の岩窟に、長期間にわたり幽閉されていた主人公の心情でした。難病という名の牢獄に閉じ込められた自身に合い通じるものがあり、けっこう夢中になって読んでいた。この時は、ただそれだけだった。

その後、退院したものの1年持たずに再発して再入院。この時は半年入院。で、退院しても再び再発。これを何度も繰り返した5年間。次第に気が変になってきた。もう一度「モンテ・クリスト伯」を読み返すと、今度は主人公の復讐へのこだわりが、強く心に響いてきた。正直、羨ましかった。復讐の対象が存在することがだ。

原因も分からず、治療法も確立していないが故の難病なのだから仕方がないのだが、発病の原因が分からないのは辛い。本当に辛い。原因が分かれば対処の仕様もあろう。原因を憎むことだって出来よう。それがないから辛い。

復讐は人生における最も甘美なる悦びだとの一文を読んだことがあります。復讐なんて、虚しいだけだとの感慨もそれなりに説得力があります。でも憎む対象があるだけ良い。復讐の情念だって、ないよりあるほうがマシだと思う。

復讐の対象を見出せなかった私は、全てを憎もうとして、その漠然とした空虚さに徒労を覚え、終いには自分自身を憎むことで折り合いを付けた。自らを呪い、憎み、嫌悪する日々。この辛さに比べたら、復讐の怨念に囚われるほうがはるかにマシな気がします。

結局9年余りの療養生活を経て社会復帰するまで、この陰惨で醜悪な情念は色濃く、私の心の奥底にこびり付いていたと思います。本来マイナスの情念である復讐すら甘美なものに思えた、私の歪んだ心情が完全に昇華する日が来るのか、いささか疑問はあります。今はただ、平穏無事な安穏たる毎日を、ありがたいものだとしみじみ思う日々です。ま、終わり良ければ全て良し、であって欲しいものです。
コメント (4)
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