のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『セブン・チャンス』と『酔拳2』(追記あり)

2014-12-14 | 映画
昨日のことですが、京都ヒストリカ映画祭でバスター・キートンの『セブン・チャンス』とジャッキー・チェンの『酔拳2』を観てまいりました。

キートンのセブンチャンス | HISTORICA
↑紹介文の中で「道化が基本のキートンが、珍しくエレガントでカッコイイ役で登場する珍しい作品」と書かれておりますが、これには異を唱えたい所です。長編デヴュー作『馬鹿息子』でも『海底王』でも『拳闘屋』でも、そして数々の短編作品においても、キートンはエレガントでカッコ良く、しかもなお道化なのです。

10月に京都国立近代美術館で『キートンの探偵額入門』が上映された時は、音声はもちろんのこと(サイレント映画ですから)伴奏も何もない全くの無音上映といういささか異様なものでございましたが、一転して今回は何と弁士さんによるナマ活弁、そしてギターのナマ演奏付きという贅沢さ。『セブン・チャンス』は、キートンの長編作品の中ではワタクシそれほど好きな方ではございません。前半に女性たちからフラれまくりバカにされまくるキートンが不憫すぎる上に、最終盤にならないとキートンの走りも転びも見られないからです。しかし、ただでさえ上映されることの稀なキートン作品、こんな機会を逃す手はない!ということで、同僚に休日を交代してもらって行ってまいりました。
え、有給?いっぱい余ってますけど人数かつかつなんでどうせ取れませんのですよあっはっは。

さておき。
弁士さんが意外にお若い方で、実を言いますと始まる前は少し不安だったのでございます。ところがいざ語りが始まりますと、奥手で実直な青年キートンや、可愛いヒロイン、弁護士のおっさんにボーッとした下男、そしてウバ桜もいいとこの花嫁候補たちなどなどのキャラクターをしっかり演じ分けつつ、ナレーションでは字幕や台詞にはない独自の語りを加えて笑わせる、全くお見事な職人芸を聞かせていただきました。
そして時には一気に盛り上げ、時にはじわじわと緊張感を高め、群衆の動作や足並みもギター一本で描き出す、細やかな伴奏も誠に素晴らしいものでございました。ワタクシはキートンが走っている姿だけでもうグッと来てしまうのですが、今回はその上に、熱のこもった活弁と伴奏が加わるわけでございますよ。700人の”花嫁候補”たちに追いかけられるキートンが爆走しながら、友人に向かって「彼女の家で牧師と待っててくれ、7時までに必ず行くから」と言うシーンでは本当に涙が出そうになりました。弁士さんの熱演、熱い伴奏、そしてキートンのあの走り、その全てがあんまり美しくて。

それから他の観客と一緒にキートン作品を観るというのも新鮮な体験でございました。意外な所が意外に受けたり、逆に笑いどころのはずなのに反応がなかったり、また凄いアクションには思わずという感じでおお!と声が上がったり。特にラスト近くの有名な、「階段落ち」ならぬ「坂転がり落ち」シーンでは、笑いと驚愕と感嘆と若干の不安(あれ大丈夫なの?!という)が入り交じったどよめきで場内が満たされ、なんとも幸福な気分になりました。

Buster Keaton chase scene


臨場感溢れる活弁を聞かせてくださったのは2000年から活弁士としてご活躍中の坂本頼光さん、素晴らしい伴奏をしてくださったのはギタリストの坂ノ下典正さんということです。本当にありがとうございました。
イベント・ゲスト | HISTORICA

さて、午前中の上映だった『セブン・チャンス』が終わり、いったん家に帰って不在者投票などなどを済ませた後、夕方にまた文博へ。自由席券だから満員で入れなかったらどうしよう!と思って早めに参じたのですが、全然混んではおりませんでした。ちと複雑な気分。

酔拳2 | HISTORICA

『酔拳2』を観るのはおそらくこれで4回目でしたが、最後に鑑賞してからもう少なくとも10年以上は経っております。久しぶりに観たらまあ、ええ、もう、震えが来るほど面白かったです。
反目と友情、怒りと正義感、まばたきするのも勿体ない見せ場の連続に、一度はのされた主人公がとことん悪い悪党どもを死闘のすえ叩きのめすという熱い展開、そしていつまでも古びない王道ギャグ。まあアクションの凄さは言わずもがなとして、故アニタ・ムイのコメディエンヌっぷりが本当に素晴らしく、ほとんど彼女が何かするたびに客席から笑い声が上がっておりました。

(追記)エンドクレジットが終わり、場内が明るくなると同時に、客席からは嘆息とともに自然と拍手がわき起こりました。こんな経験は『エルヴィス・オン・ステージ』以来でございます。素晴らしい映画と出演者に対する敬意をその場にいる見知らぬ人たちと共有できた、貴重な瞬間でございました。
エルヴィス忌 - のろや

『セブン・チャンス』も『酔拳2』も、上映後には『るろうに剣心』シリーズでアクション監督を勤められた谷垣健治氏によるトークイベントがございました。ワタクシは『るろうに剣心』を観ておりませんので、そのへんのお話は分からなかったのですが、とにかく『酔拳2』はアクション映画の最高傑作である、というお説には諸手を上げて賛成いたしたく。
トークの中でも話に上がっておりましたけれど、これを機会にバスター・キートンや昔の香港映画に興味を持つ人が増えてくれたらいいなァと、しみじみ思ったことでございました。