のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

改装ウォルシンガム本1

2011-06-16 | 
ペーパーバックをハードカバーに改装しました。
ウォルシンガム話12で、「紙質は悪くカバーデザイン最悪でノドの余白も大きくないくせに横目で製本されているという、ちょっぴりがっつり怒りたくなるような造本」とご紹介したElizabeth's Spy Master : Francis Walsingham and the secret war that saved Englandでございます。

「横目」というのは、紙の繊維が紙の短い方の辺と平行に走っているということでございます。
逆に「縦目」の紙は、繊維が紙の長い方の辺と平行に走っております。
本は各ページが縦目になるように製本するのが機能的にも構造的にも、また美的にも望ましいのであって、ありがたいことに現在日本で出版されている本は、文庫・新書といった安価な本や語学テキストのように一時的な利用に供されるものまで、ほとんどが縦目で製本されております。ところが、のろの知る限りのことではありますが、洋書のペーパーバック(特に英国のもの)は妙に横目製本の確率が高いのでございます。

横目製本の短所はといいますと、縦目と違って紙のしなる方向が横向き(本の背に対して垂直)であるためページがめくりにくく、当然ながら開きが悪い。また開きの悪いものを無理に押し開くため背に負担がかかり、開くたびに背表紙にめりめりと縦じわが刻まれて壊れの原因となります。さらに空気中の水分を吸収することによって前小口に波うちが生じやすく、それに伴ってノドには横皺が刻まれ、開きの悪さを助長する上に美観も損ないます。
長所はといいますと、ありません、多分。

その上に装丁もまずいとあっては、まるっきりいいとこなしでございます。
文化芸術のパトロンでもあった国務長官殿の伝記が、こんなお粗末な作りであっていいわけはございません。

というわけで
まず本体と表紙を分離し、1ページずつばらします。



ご覧下さいまし、この見事なまでの横目っぷり。
バラバラにした各ページのノドを縦目の紙で接いで、4枚1折りの折丁を作ります。
八木重吉詩集で使ったのと同じ中国の手漉き紙を細長く割き、幅の広いものを外側、狭いものを内側にして両側からページを挟んでいきます。1枚目と8枚目、2枚目と7枚目...という順番で繋いでいくので、途中で並びがおかしくならないように注意しつつ作業を進めます。



乾いたのち余分な紙を切り落とし、4枚ずつ重ねて折り、背に綴じ穴を空けます。
16世紀っぽくダブルコード-----折丁同士を繋ぐ支持帯(コード)を、ひとつの綴じ穴につき2本ずつ渡す-----で綴じることにしました。



見返しには黒のラシャ紙と銀・赤・グレーを基調とした現代的なマーブル紙の2種類を使い、最初と最後の折丁に見返し紙を巻き付けて一緒に綴じる「巻き見返し」としました。
見返しを本体と一緒に綴じつける場合、細かい部分は別として、綴じの時点で本全体のデザインを頭の中でおおむね完成させておく必要があります。
振り返れば今回は「総革・16世紀風」という基本方針は変わらなかったものの、技術的・デザイン的な要請からこの「細かい部分」の変更が少なからずございました。

次回に続きます。