のろや

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『キック・アス』

2011-02-17 | 映画
去年の記事で取り上げました『キック・アス』を観てまいりました。

『Kick-Ass』のこと - のろや


うーーーー む。

公開を心待ちにしていた作品でもあり、マーク・ストロングの出演作でもありますので、大絶賛 といきたい所ではあったのですが。
残念ながら、ワタクシにはそれほど良作とは思えませんでした。期待を高くしすぎたのもマイナスに働いたのでございましょう。所々グッと来るシーンもあり、ソーターさんがイカすのは言うまでもなく、無敵の殺人少女ヒットガールは確かに可愛かったのでございますが、全体的にはいまいちスカッとしない映画でございました。

そもそも主人公は、ボンクラ高校生でも正義のヒーローになりたい!なれるさ!という思いで「キックアス」としての活動を始めたはずでございます。ひょろひょろの身体を間抜けなウェットスーツに包み、屈強なチンピラたちにこてんぱんにのされながらも「世の中の悪事を黙って見ていられるか!」と頑張る主人公は、アホだけれどもちょっとカッコよかった。
それなのに最後には、単にヒットガールの復讐、即ち私怨に基づいた報復行為に加担するだけの人物になってしまっております。しかもその際にキックアスが使っている高価な兵器は、ヒットガール&ビッグダディ親子が、密売人から強奪した大量の麻薬を安く売りさばいて得た金で購入したものなわけで...。それでいいのかキックアス??

ヒットガールとビッグダディはもとから正義のことなんかこれっぽっちも考えていないからこれでいいとして、正義のヒーローを目指していたキックアスがあっさり彼らの活動に乗っかってバリバリ殺人してしまってはいけないと思うのですよ。
そういうことが気にならないほどの、根っからのおバカ映画だったらよかったのですけれど。
実際ワタクシとしてはそういうものを期待していたのでございますが、バカ映画に分類するにしては妙にシリアスな場面やメッセージ性があったりしたために、主人公サイドによる激しい暴力を単に「痛快アクション」として見ることには抵抗を感じざるを得ませんでした。徹頭徹尾、ヒットガール&ビッグダディという狂った親子の復讐潭であったら、いっそ割り切って楽しく観ることができたかもしれません。

また悪党ダミーコ親分(←マーク・ストロング)とその手下たちもそれなりに酷いことをしてはいるものの、ヒットガール&ビッグダディ親子の暴力がそれに輪をかけて過激・残虐かつ問答無用なので、かえって彼らに虐殺される悪党どもの方に哀れを感じてしまいましたですよ。やっと銃をもらえたと喜んでいたあの間抜けなドアマンなんて、何にも悪いことしてなかったのになあ。

まあヒットガールが過激なだけに、最後にダミーコ親分が意外な身体能力の高さを発揮して、それまで無敵だったヒットガールをボコボコにぶちのめすのは、ラスボスの面目躍如で実によろしうございました。それにビシッとスーツに身を包んだマーク・ストロングがあの長い長い足で回し蹴りをかます姿を見られたのは、何はともあれ幸せなことでございました。

のろが何と言おうとも世間的にはそれなりに好評を博しているようでございますので、「カルト的名作」という位置づけで語られる作品になるのでございましょう。しかしワタクシは同監督の前作『スターダスト』の方が、サラッとしたブラックユーモアといい、ツボを抑えた無駄のない展開といい、王道ファンタジーからは半歩ほどズレた、しかし魅力のあるキャラクターたちといい、よっぽどよくできた映画だと思いますよ。