のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『ライムライト』

2010-03-26 | 映画
生は避けられない。死が避けられないのと同じだ。

TOHOシネマズの午前十時の映画祭 何度見てもすごい50本で『ライムライト』を観てまいりました。
あのもの悲しくも美しい「エターナリー(テリーのテーマ)」が頭から離れませんです。この旋律を聴きますと、老道化師カルヴェロの熱い言葉や何とも言えない表情、そしてテリーの可憐な舞姿が思い出されて、鼻の奥の方に熱いものがこみあげて参ります。

charles chaplin limelight soundtrack candilejas



波乱の生涯を経て来たチャップリンだからこそ、人生を肯定する言葉のひとつひとつに計り知れない重みがございます。初めてこの作品を観た時はバラはバラに、石は石になろうとしている。という台詞がいたく心に滲みたものでございますが、この度は上に挙げたひと言がずーんと参りましたですよ。
これから歳を経たのちまたこの作品を観たならば、また別の台詞に心打たれることでございましょう。名作とはそういうものでございます。

思えば、酒で失敗して落ちぶれた喜劇役者がうら若い美女と出会って再起する、という部分はチャップリンよりもキートンの実人生に近いものがございます。そのキートンを迎えて映画史に残る共演をしてくれたチャップリンにはもちろん惜しみない拍手と笑いを捧げるものでございます。しかし贅沢を言わせていただければ、キートンにメガネと口ひげを付けさせてあの表情豊かなストーン・フェイスを隠してしまったことは、キートンファンとしてはちと残念でございました。
聞く所によるとこの共演シーン、実はもっと長尺だったものの、可笑しすぎて作品のムードを崩すという理由でカットされたんだとか。そのカットされた分、どこかに残っておりませんかねえ!ぜひとも死ぬ前に見てみたいものでございます。

ともあれ。
いつまでも色あせない、そしておそらく年齢も国籍も問わずあらゆる人の心に訴える、まさに不朽の名作と言うべき映画でございます。
よって、テリーが「私歩けるわ!」と言う感動のシーンで『博士の異常な愛情』を思い出して危うく笑いそうになったことや、テリーの舞台化粧を見て「サムソンとデリラ」を歌うクラウス・ノミを思い出してしまったことは



ごくごくこっそりと告白せねばなりますまい。