のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『インシデンタル・アフェアーズ』

2009-04-08 | 展覧会

それはさておき

サントリーミュージアムで開催中のインシデンタル・アフェアーズ うつろいゆく日常性の美学へ行ってまいりました。

いやー、面白いうございましたよ。
入り口のごあいさつ文にいわく、
「美術館という空間でしかおそらくは展示が不可能であろう、大規模な作品や、念入りな準備が必要となる作品をあえて選びました」と。
よい作品をよいコンディションで味わってもらいたい、という美術館の熱意と心意気が伝わって来るではございませんか。

17人もの現代アーティストの作品を集めた展覧会ともなれば、写真あり、立体あり、インスタレーションあり、作品のトーンも明るく軽妙なものから不気味なもの、ファンタジックなものまで様々でございます。限られたスペースの中で、毛色の異なる各々の作品の魅力を最大限に引き出すため、展示空間にはさまざまな工夫がこらされておりました。展示されている作品はもとより、キュレーターさんたちが心を砕き知恵を絞ったであろう展示空間も、たいへん心地よいものだったのでございます。
ある作品は、カーテンで仕切られた暗闇の中に。
ある作品は、海を望む明るい展示室のそこかしこに散らばり。
またある作品は、閉塞した空間を背にして、意味不明な言葉を ぽつり ぽつり とつぶやいております。
移動するたびそこに独特の作品世界が展開しておりますので、のろは「サア次はどんな世界が待っているのやら」とワクワクしながら先へ進み、美術館という場所が存在してくれることのありがたさを、いつにもまして痛感したのでございました。

例えば始めに展示されている、ヴォルフガング・ティルマンスの作品。

入り口でチケットを切ってもらい、視線を手元に落として手帳を開きながら歩き出しますと、突如、視界の上の方から真っ白い床面が現れました。
白い床ですと。サントリーミュージアムの床は木目調のベージュのはずでございます。



こは何事ぞと視線を上げますと、
床、壁、天井を白で囲まれた空間の中に、大判のシリーズ作品「freischwimmer(遊泳者)」が、三方の壁に展示されておりました。



この空間に踏み込んで行き、水中を漂う赤と緑の粒子に三方を取り巻かれるのははまさに、作品の中に溶け込んで行くような体験でございました。この作品とは何度か出会っているにもかかわらず、初めて出会ったもののように新鮮な印象を受けたのでございます。

本展のタイトルにある「インシデンタル」とは、偶発的な、ありがちな、瑣末な、といった意味を持つ言葉でございます。
水に放たれた粒子の流れやにじみという、全く偶発的で些細な動きに目を向け、そのうつろう姿の美をとらえたティルマンスの作品は、本展の冒頭を飾るにはうってつけと申せましょう。

この他に印象深かった作品については、次回に述べさせていただきたく。