のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『愉快なクリム』展

2008-05-18 | 展覧会
更新が甚だ滞っておりまして、まことに申し訳ございません。
メモ帳を紛失したり何だりしておりましたもので。
このごろよくものをなくしたり落としたりするなあ。
そのうちうっかり自分をどこかに置き忘れるんじゃないかしらん。
もちろんその方がいいんですが。

さておき
高麗美術館: 開館20周年記念特別展「愉快なクリム-朝鮮民画」へ行ってまいりました。

いや、これは愉快でございましたねえ。
小さい美術館でございますので、展示品も30点ほどと少なめではございましたが。

作者不詳の民画を集めた展示でございます。
民画でございますから、熟達した職業画家が描いたものではございませんで、素朴で稚拙、ぶっちゃけて申せばへたっぴいなんでございますが、見る者をうまさで説得してやろうという意図が全然ない、その感じが大変いいんでございますよ。
「漫画日本昔話」に出てきそうなとぼけた表情の龍や、色あざやかで幾何学的なかたちの岩山などなど、あるものには愚直なまでの丁寧さが、またあるものにはおおらかな遊び心が宿っております。

特に3枚展示されていた『鵲虎図』のうちの↓この1枚が、大変よろしうございました。



虎の「そんな無茶な」と言いたくなるような造形が何とも言えません。
顔なんかもう最高でございますね。そして座っているというよりは宙に浮いている。
アランジアロンゾが描いたみたいなカササギもいい。
こんなにも豪快な造形でありながらも虎の毛の表現は丁寧でございまして、子供の絵のような実直な魅力がございます。
生涯かけて子供の絵に近づこうとしつつ、その”うまさ”をぬぐい去るということはやっぱりできなかったピカソがこれを見たら、舌打ちのひとつもしたかもしれませんね。アッサリ描きやがってよう、と。

また漢字と絵を組み合わせた「文字図」も面白いものでございました。
ひとつの漢字の中に、その字義にまつわる物語を描き込む、なんてのは表意文字ならではの複合的表現でございますね。

美術館を出ると文官も剣を履いた武人もふっくりと微笑んでおりまして、何やら柔らかい気持ちになった5月の午後でございました。