読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「日蝕」

2006年10月12日 | 作家ハ行
平野啓一郎『日蝕』(新潮社、1998年)

京都大学在学中に、新人でありながら、この作品が「新潮」に一挙掲載されたことで、話題を呼んだので、一度は読んでみたいと思っていた。15世紀のフランスの魔女狩りの時代に錬金術に関心を持つ学僧が、リヨンの南のヴィエンヌという小村で遭遇した不思議な体験を綴ったもので、その文体も活字も古色蒼然たるもので、よくまぁ大学生にこんな古風なものが書けたな、しかもフランスの15世紀の学僧が主人公なので、ギリシャ哲学や中世のスコラ学についての知識もある程度必要であるのに、たいした知識だな、と関心しながら読んだが、とても感情移入できるようなものではないし、かといってその該博にして読者の知らざる世界を垣間見せてくれるというようなものでもないし、なんとも中途半端な印象を受けた。

それにしても、読者の心を掴むということにそれほど関心がないのか、そもそもたんに知識を披瀝したいだけなのか、やっと肝心の――というのは、おそらくこの場面がこの小説のクライマックスらしいから、肝心のと書いたまでのことだが、別にそうでもないのかもしれない――「魔女」焚刑にいたるのはもう終わり近くにいたってのことで、そこまで我慢して読めというほうが無理というものだろう。フランスにやスコラ学や魔女裁判やにも多少なりとも関心があればこそ、我慢して読んではみたが、はっきり言って苦痛で仕方がなかった。

新潮の編集長がよほど気に入ったのだろう。こんな作品を冒頭に一挙掲載するのだから。それだけでなにかの文学賞を獲得したものに匹敵するくらいのことだったのだろう。

この作品とは関係ないが、ヴィエンヌというところは今ではTGVが止まるくらいの町だ。私の知り合いの奥さんの実家があるところで、彼らの家族は夏にはバカンスをすごしに行くらしい。残念ながら、私はまだ訪れたことがないが、もし今度行く機会があったら、この小説のことを思い出すかもしれない。

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