読書な日々

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『新・所得倍増論』

2019年10月29日 | 評論
デービッド・アトキンソン『新・所得倍増論』(東洋経済新報社、2016年)

以前、日本の観光問題を論じたこの人の本を読んだ感想を書いている。こちら

ただ見せるだけの箱物的観光ではなくて、体験型の観光に変えることによって、観光客の満足度を高めるようにしないと、いずれは飽きられてしまうし、日本の観光資源が持っている潜在的な能力を活かすことにならないという提言に、いたく感心した。

同じ視点から(もちろん証券アナリストとしてのデータ分析に基づいて)、日本人労働者の、とくに女性の労働生産性はもっと高めることができるはずで、フランスやドイツやイギリスなみの労働生産性に高めるだけで、所得を倍増することも、GDPを大きくすることも、輸出額を3倍にすることもできるという提言をしたのが、この本である。上の観光問題についての本と同じ年に出版されている。

著者はとくに女性の労働生産性が低いことを問題視している。それは日本女性の能力が低いという意味ではない。いわゆるお茶くみやコピーみたいなことばかりさせられているという意味である(もちろんあくまでも私の感想なので、著者の主張をうまく反映していないかもしれない)。つまり女性も男性と同じような責任ある仕事をしてもらうようにすべきで、そうすることで給与格差も減らしていくべきだという主張である。

これには私も賛成する。日本には有能な女性がたくさんいる。とくに外国語能力は優れた女性が多い。なのに海外出張や外国支社に派遣されるのは英語のできない男性社員ばかり。なぜ外国語のできる女性を活用しないのかと私も思っていた。たぶん対抗会社の社員もどうして日本企業は英語の(またその現地の言語の)できない社員ばかり派遣してくるのかと思っているのではないだろうか。

これなどはわかりやすい例で、氷山の一角に過ぎない。著者が労働生産性の低さとして象徴的に挙げているのが、銀行の窓口が3時で閉まることである。もともとヨーロッパから由来したことらしいが、コンピュータの導入によってヨーロッパではやらなくなったことなのに、ヨーロッパと同じくらいに技術革新が行われている日本ではいまだに、3時に窓口を閉めて、帳簿とお金の照合が行われていることに、意味のない伝統に固執している日本企業の労働生産性の低さの象徴を見ている。

ただこの著者はイギリスにおける労働生産性改善の話としてサッチャーによる改革を挙げているので、この人の言う労働生産性改善の改革を断行したら、日本で実際の経済が労働現場がどうなるのか、ちょっと不気味な感じがしないでもないが、労働人口減少が大問題になっている昨今、真剣に考えてみるべき提言だろうと思う。


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