読書な日々

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『ギリシャ神話入門』

2011年09月01日 | 人文科学系
吉田敦彦『ギリシャ神話入門』(角川選書393、2006年)

ギリシア神話入門―プロメテウスとオイディプスの謎を解く (角川選書)
吉田 敦彦
角川学芸出版
副題に「プロメテウスとオイディプスの謎を解く」とあるとおり、プロメテウス神話とオイディプス神話やそれを題材にしたアイスキュロスやソフォクレスの悲劇作品の詳細な解説と、それらの神話を当時のギリシャの現実におきた出来事と関連させて解説がなされている。入門というタイトルどおり、読みやすくわかりやすい本である。

ギリシャ神話というのはとにかく複雑すぎてわかりにくい。とくに縦軸にそって解説されることが多く、横軸は縦軸から離れるとちょっと名前が出てくるくらいで、あれこの英雄とこの英雄は同じ時代の人たちだったのかと、びっくりすることがある。たとえば今回のオイディプスの最後にはテセウスが出てくるといった具合だ。ただこれは英雄の場合で、神々は不死なのでどこに出てきてもおかしくはないのだが。

ゼウスから火を盗んで人間に与えたことで罰を受けることになったプロメテウスの話は有名だが、パンドラがその罰の一つとしてプロメテウス(というか直接には弟のエピメテウス)に与えられ、人間が女をもつことになったという神話と結びついているというのは初めて知った。それも土と水からアフロディーテそっくりに作られたというのは、なんだか聖書の話にも通じるようなところがある。パンドラの話は有名なパンドラの箱のことしか知らなかったので、それがプロメテウスと関係しているとか、パンドラが人間の女の最初の先祖にあたるということも知らなかった。

しかしプロメテウスとゼウスの騙し合いの戦いを見ていると、生き馬の目を抜くような現代社会の有り様を見ているようで、人間の本質というものはすでに古代ギリシャ時代からこのようであったのだろうかと暗澹たる気持ちになる。ヘシオドスがこうした神話の一方で『仕事と日々』のようなものを書いたり、あるいは時代は変わるがローマ時代になるとウェルギリウスがアエネアースのような冒険活劇のようなものの一方で牧歌を書いているのは、すでに彼らの時代から、激しい権力闘争のような現実生活があり、それから逃避願望として牧歌に描かれるような田園生活を夢見ていたのだろう。

私のようなものが、日々の仕事の合間に、不可能なことながら、引退したら、どこか山の中の庵にでも住みたいなと夢見るのも当たり前なのだなと思う。


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