読書な日々

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『フランスの子どもは夜泣きをしない』

2014年12月29日 | 評論
パメラ・ドラッカーマン『フランスの子どもは夜泣きをしない』(集英社、2014年)

夜泣きしない赤ちゃんなんかいるかいなと少々眉唾な感じで図書館から借りてきたのだが、原題は「フランスの子どもは食べ物を投げない」というタイトルだと知って、なるほどと思った。

フランス人の子育ての基本的態度がアメリカ人の目を通して描かれているところが、この本のミソだろう。なんせアメリカ人といえば、何でも精神分析、何でもマニュアルのようなお国柄だし、フランスを時代遅れのヨーロッパの典型みたいに思っているところがあるからだ。

まずアメリカ人とフランス人の違いは、生後数週間(遅くても数ヶ月)で赤ちゃんが数時間ごとに夜泣きをして母親を縛り付けるのに対して、フランスでは朝までぐっすり眠るようになるという話。両者の違いは、ちょっと泣いても「しばらく様子を見て、待つ」ということをフランス人の母親たちがしていることからくるという。夜泣きの度に母親があやしたり、授乳したりすると、赤ちゃんはそれが習慣になってしまう。しかしフランス人のようにしばらく様子を見ていると、また寝入ってしまうことが多いから、その結果、朝まで寝るようになる。

たしかに私たちの子どもたちも一人目は、こちらも経験がないので、上さんも私も何度も起きていたが、二人目になると、仕事はしているし、眠いので、よしよしと言いながら、軽くトントンしてやっているうちに眠っていたようだ。

大事なのは、そういうやり方が、個人の資質の問題とされないで、フランス社会で共有されているということだ。「待つ、しばらく様子を見る」ということがどの育児書にも書いてあるし、ベビーシッターたちにも共有されているという。

この本によると、この「待つ」ということがいかに重要かが力説してある。子どもたちが三歳四歳になって、食事をする、おやつを食べるという時期になったら、フランスでは朝8時、昼12時、おやつ4時、夕食8時というパターンになる。もちろん子どもたちは途中でお腹が空いたりするのだが、あと30分でおやつだから待ってねと言って、子どもたちに待たせるのだという。この待つということが、子どもたちを我慢強くするし、落ち着いた子にするのだと、この本は力説している。さらにパニックにも強い子になるらしい。

待つことによって、空腹状態で決まった時間の食事を迎えることができ、お腹一杯食事をすることになる。間食がないから、肥満にならない。フランス人に大人も子どもも肥満が少ないのはこういうことからくるのだという。

食事のことについては、食事を軽視するアメリカ人と重視するフランス人の国民性の違いがはっきり出ている。フランスでは保育園の食事からして、大変な力の入れようで、ほとんどフルコースのような食事をシェフが作るというからすごい。

まぁ内の子どもたちが通っていた保育園も調理師さんがカツオ出汁や昆布出汁をとって作ってくれるいい保育園だった。

そして毎週末には子どもたちに小さい頃からケーキ作りをさせるなどして、親子で料理をする、会話をすることで、親子のコミュニケーションがはかれるし、子どもには料理をすることで、目的をもって、段取りを決め、計量をしながら、実行するという、いろんな面での力をつけることになる。

同じことをする必要はないし、できないが、子育ての基本的な態度をフランス人から学ぶことができそうだ。子育てを通して文化論的なことも学べる、素晴らしい本だと思う。

最後に、タイトルを何とかしてほしい。『フランス人の子育ての秘密』でいいんじゃないのかな。

もう一つは、巻末に「フランスの子育て用語集」というのがあるけど、フランス語の読み方が無茶苦茶。フランス語を知らない翻訳者のようで、おやつを「グーテ」とか、保育園を「クレイシュ」とか、さよならを「オ・ヴォワ」とか、ちょっとした悪さを「ベティーゼ」とか、ドイツ語みたいな変なカタカナにするのはやめてほしい。「グテ」、「クレーシュ」、「オルヴォワール」、「ベティーズ」でしょう。この訳者、フランス語のアクセントの位置が分かっていないようだ。フランス語を知っている人に尋ねるとかしたらどう、と思う。

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