『蟹工船』(山村聡監督、1953年)
金融危機から非正規雇用の大量首切りが横行し、それが小林多喜二のプロレタリア文学作品『蟹工船』への関心を高めているらしい。なんでも累計で160万部も売れているとか(って、本当?)。おまけに俳優松田龍平の主演で映画化されることになったという。監督は「疾走」などで知られるSABUという人だとか。こうなると本当だろう、この人気は。
それで50年以上も前にあの俳優の山村聡が監督をして撮影された映画の『蟹工船』の上映会があちこちで開かれており、中百舌鳥であったので、上さんと観てきた。監督の山村聡といえば、「華麗なる一族」の会社の重役とか「日本沈没」の総理大臣とか「トラ・トラ・トラ」の山本五十六なんかをやらせたらその重厚な演技で定評があった人だ。どちらかといえば、いつも支配者の側の役ばかりで、まさかこんな正真正銘のプロレタリア文学を映画化するような人には思えなかったので、びっくり。映画の中では、意外にダメ青年で海に飛び込んで自殺してしまう役なのだが。
とにかく古いので、音は悪いし、映像も荒いしで、たぶんきれいな映像で見たら、あちこちぼろが目に付いたのだろうけど、あまり目立たなかった。
そのほかあれこれけちを付け出したらきりがない。最後の海軍が乗船して労働者を鎮圧する場面でもみ合って海軍側が発砲してしまう場面などはなんだかリアリティーに欠けるし、どうみても嵐の場面なのに、海は凪いでいる感じで、雨を前面に降らせ、嵐のような音響効果で、嵐の場面と思わせている。
ただ、劣悪な船内生活の描写は圧巻だ。あれで半年間も生活するという設定だから、空恐ろしい。蟹工船が死の工船だとうすうす感ずいているような者たちもいて、それでも嵐のなかを蟹のかかった網を引き上げに小船に乗せるだとか、病気になっても暴力的に働かせるなどの描写は一番重視されたところだろう。
どことは指摘できないが、やはり『戦艦ポチョムキン』なんかの影響もあるのだろうか?原作では自覚的な労働者の数人が説得工作をして労働者を立ち上がらせるというようにきめ細かく描いてあるらしいが、映画ではたまりにたまった彼らの怒りに火がついて暴動に決起するようになっている。それはたぶん映画では正解だったと思う。映画で、あまり細かい工作の様子を描いてもリアリティーに欠けることになるだけだっただろう。
53年といえば戦争が終わってまだ8年目だ。もちろん独立系で撮影したのだろうから、資金だってたいして集まらなかっただろうに、よくあそこまで撮影できたなと感心する。
金融危機から非正規雇用の大量首切りが横行し、それが小林多喜二のプロレタリア文学作品『蟹工船』への関心を高めているらしい。なんでも累計で160万部も売れているとか(って、本当?)。おまけに俳優松田龍平の主演で映画化されることになったという。監督は「疾走」などで知られるSABUという人だとか。こうなると本当だろう、この人気は。
それで50年以上も前にあの俳優の山村聡が監督をして撮影された映画の『蟹工船』の上映会があちこちで開かれており、中百舌鳥であったので、上さんと観てきた。監督の山村聡といえば、「華麗なる一族」の会社の重役とか「日本沈没」の総理大臣とか「トラ・トラ・トラ」の山本五十六なんかをやらせたらその重厚な演技で定評があった人だ。どちらかといえば、いつも支配者の側の役ばかりで、まさかこんな正真正銘のプロレタリア文学を映画化するような人には思えなかったので、びっくり。映画の中では、意外にダメ青年で海に飛び込んで自殺してしまう役なのだが。
とにかく古いので、音は悪いし、映像も荒いしで、たぶんきれいな映像で見たら、あちこちぼろが目に付いたのだろうけど、あまり目立たなかった。
そのほかあれこれけちを付け出したらきりがない。最後の海軍が乗船して労働者を鎮圧する場面でもみ合って海軍側が発砲してしまう場面などはなんだかリアリティーに欠けるし、どうみても嵐の場面なのに、海は凪いでいる感じで、雨を前面に降らせ、嵐のような音響効果で、嵐の場面と思わせている。
ただ、劣悪な船内生活の描写は圧巻だ。あれで半年間も生活するという設定だから、空恐ろしい。蟹工船が死の工船だとうすうす感ずいているような者たちもいて、それでも嵐のなかを蟹のかかった網を引き上げに小船に乗せるだとか、病気になっても暴力的に働かせるなどの描写は一番重視されたところだろう。
どことは指摘できないが、やはり『戦艦ポチョムキン』なんかの影響もあるのだろうか?原作では自覚的な労働者の数人が説得工作をして労働者を立ち上がらせるというようにきめ細かく描いてあるらしいが、映画ではたまりにたまった彼らの怒りに火がついて暴動に決起するようになっている。それはたぶん映画では正解だったと思う。映画で、あまり細かい工作の様子を描いてもリアリティーに欠けることになるだけだっただろう。
53年といえば戦争が終わってまだ8年目だ。もちろん独立系で撮影したのだろうから、資金だってたいして集まらなかっただろうに、よくあそこまで撮影できたなと感心する。