仏教を楽しむ

仏教ライフを考える西原祐治のブログです

対称性バイアス

2024年04月28日 | 日記

『読売新聞』夕刊(2024年4月27日)に掲載されていたコラムです。編集委員 三井誠。

 

 自然豊かな山奥の地面に細長くニョロニョロとしたくぼみを見つけたら、背筋が寒くなるかもしれない。「近くに蛇がいるのでは……」。実は、こうした想像は人類特有で、言葉を覚える能力にも関係しているらしい。今年の新書大賞を獲得した中公新書「言語の本質」の共著者、今井むつみ慶応大教授か教えてくれた。

 ちょっと複雑だが、次のような仕組みになる。

 蛇がはうとニョロニョロとしたくぼみができるが、逆に、ニョロニョロとしたくぼみは蛇だけが作るわけではなく、何かが転がったために出来だのかもしれない。くぼみと蛇を結びつけるのは論理的には正しくないが、人類は想像を巡らせ、蛇を警戒する知恵がある。

 特別な能力とは思えないが、ほとんどの動物はこうした想像力を持たないらし。子供が言葉を覚える時、似たような、論理的には正しくない思考が生かされるという。例えば、赤い果物を見せて「リンゴ」と教える。すると、逆に「リンゴ」は赤い果物だと思い込むことで言葉を習得していく。

これは厳密に言うと間違っている。リンゴといっても、青リンゴもあるし、皮をむいたリンゴもある。

 「AならばB」であっても、「BならばA」とは論理的にならない。「イワシならば魚」だが、「魚ならばイワシ」ではない。「逆も真なり」と思ってしまうのは、「対称性バイアス」と呼ばれている。

 バイアスというと、あまり良い印象がない。例えば、「確証バイアス」は自分の考えに固執し、それを支持してくれる情報ばかりを集めてしまう傾向だ。「正常性バイアス」では、災害など危険な状況に遭遇しても、いつも通り大丈夫だろうと安心してしまう。

 一方、対称性バイアス。今井さんは「人類の生存に欠かせない、ありがたいバイアスです」と話す。 森林にすむチンパンジーなど生息環境が限られる動物なら、目の前の対象を誤解なく認識するのが大事だろう。ところが、危険あふれる未知の環境に踏み出した人類は、そうはいかない。

十分な情報がない中、まずは直感や想像力でその場をしのぐ能力を獲得した。間違うかもしれないけど、そこそこうまくいく。そして、言語の獲得にも結びついた。逆にいえば、必ずしも論理的ではなく、人類が時にリスク対応を誤るのは、こうした柔軟さの代償なのかもしれない。(以上)

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