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仏教ライフを考える西原祐治のブログです

残酷すぎる 幸せとお金の経済学

2024年04月04日 | 現代の病理

『残酷すぎる 幸せとお金の経済学』(2023/11/15・佐藤一磨著)、雑学として興味深い本でした。一つだけ転載します。

 

経済成長すると子どもの幸福度は低下する

 経済成長が子どもの幸せに及ぼす影響を検証すると、愚外なことに「経済成長によって子どもの幸福度が低下する」ことがわかったのです。

 この分析を行なったのは韓国の面麗大学校のロバートーランドフル教授らで、2018年のOECD(経済協力開発機構)の学習到達度調査(PISA)を用い、15歳の子どもの生活全般の満足度と経済成長の関係を分析しました。

 

 分析の結果、一人当たりGDPの高い子どもほど、生活全般の満足度が柢くなることがわかりました。彼らの計算によれば、もし一人当りGDPが2倍になった揚合、48%ほど生活全般の満足度が低くなっていました。また、一人当りりGDPの高い国の子どもほど喜びや安堵などのポジティブ感情が低く、悲しみや怒りなどのネガティブ感情が高くなっていたのです。

 これらの結果は、「経済成長が必ずしも子どもの幸せにつながっていない」ことを示しています。

 この結果はなかなかショッキングですが、なぜこのような事態が生じてしまうのでしょうか。じつはこの背景には、経済成長が子どもにもたらすプラスの影響とマイナスの影響のうち、マイナスの影響のほうが強くなっているというメカニズムがあります。

 経済成長のプラスの影響について。いえば、生活水準の向上があります。

 経済成長によって親の所得が上昇すれば、それにともなって子どもの衣食往の質も改善していきます。これは子どもの健原状態の向上にもつながるでしょう。また、経済的に余裕ができれば、習い事やより高い教育を受ける機会も増えていきます。さらに、経済成長によって国全体が豊かになれば、貧困を原囚とした犯罪に巻き込まれる割合も低下すると考えられます。このように経済成長は子どもに多くの思恵をもたらします。

 これに対して経済成長のマイナスの影響は、幼年期からの勉学にさく時間の増大です。

経済成長にともない、より高度な技能を持った人材への需要が社会的に増加します。経済成長によって第1次・第2次産業から金融やITといったサービス業を中心とした第3次産業の比率が高まるため、高度な知識や思考力が求められるようになってきます。近年、「数理・データサイエンス・AI」の重要性が高まっているように、明らかに以前よりも求められる技能が高くなっています。これらの技能は簡単に身につくわけではなく、早い時期からさまざまな知識を積み上げていく必要があります。

 この結果、幼少期からの継続的な学習が重要となり、勉学にさかかる時間が増大していくわけです。もし、この勉学にさかれる時間が多すぎる揚合、子どものメンタルヘルスの悪化や幸福度の低下につながる恐れがあります。もちろん、中には勉学に適正があり、さまざまな習い事や長時問の勉強に耐える子どももいますが、全体で見ると疲弊してしまい、幸福度の低下傾向が観察されるわけです。

 この点に関連して、ランドフル教授らが子どもたちの直面する学習状況と生活全般の満足度の関係について分析した結果、PISAで実施したテストの点数が高かったり、学校で生徒が互いに競争しているという意識が強いほど、生活全般の満足度が低下することがわかりました。また、子どもたちの直面する学習状況の影響を統計的手法によってコントロールした場合、経済成長の負の影響は半分程度にまで落ち込みました。

 この結果は、経済成長による教育状況の違いが子どもの生活満足度低下の大きな原因になっていることを示すと考えられます。

これまでの議論が示すとおり、経済成長は子どもの幸せに必ずしもつながっていません。

経済成長が子どもに多くの恩恵をもたらすことは間違いないのですが、その社会で豊かな生活を維持していくためには勉学にさく時問を増大させる必要があり、それが子どもたちの幸福度を低下させてしまうと考えられます。

 これは、国が豊かになったがゆえに出てくる新たな課題だと言えるでしょう。

 そして、この課題に今まさに直面しているのが韓国です。韓国は2000年以降、年平均の経済成長率が約3・8%と高く、国全体が豊かになっています。しかし、受験に向けた競争は厳しく、子どもたちは多くの時問を勉学にさく必要あります。

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