仏教を楽しむ

仏教ライフを考える西原祐治のブログです

ホモ・サピエンスの宗教史①

2024年04月06日 | 新宗教に思う

『ホモ・サピエンスの宗教史-宗教は人類になにをもたらしたのか』 (中公選書・2023/10/10・竹沢尚一郞著)からの転載です。

 

 ネオテニーによるヒトの進化

 ホモ・エレクトスが脳を巨大化させたことは、さまざまな能力を彼らに与えた一方で、新たな困難を課すことになった。二足歩行をすることで骨盤が狭くなり産道が広がらなくなったために、出産がいちじるしく困難になったことだ。そこで、ホモ・エレクトスは胎児の脳が十分に成長する前に出産し、胎外で成長を継続させることが必要になったと考えられている。研究者はこれを「外的妊娠」と呼び、「ヒトでは生後八~一〇ヵ月が」それに相当するという。動物学の知見によれば、ニホンザルは生まれるときに成体の七〇%の脳を完成させており、しかも残りは生後六か月のあいだに完成する。チンパンジーの場合には脳が完成するのは生まれて12か月あとである。

一方、人間の場合には、出生時の・脳の大きさは成体のそれの二三パーセントにすぎず、脳は六年のあいだ急速な成長をつづけ、成長が止まるのはようやく二三歳になったときである。これは現生人のケースだが、頭蓋骨の容量が1000ccと私たちのそれの四分の三まで拡大していたホモ・エレクトスにおいても、事態は大きく変わらなかっただろう。

 ヒトの新生児が十分に成員する前に出産されるようにたったために、ヒトの乳幼児期が引き延ばされ、母親や周囲の大人に対する依存度が増したこと、それによってヒトに固有の身体的および精神的特徴が出現したことは、一般にネオテニー(幼形をたもちながら成熟すること)と呼ばれている。著名な生物学者であるスティーヴン・ダールドによれば、ヒトは遺伝子の変異によって成体になっても幼児期の特徴の多くを保持するようになったのであり、彼はこれを「遅延」と呼んでいる。図11が示すように、ヒト以外の霊長類は成体になるにつれて環境適応のために大きく変えるのに対し、ヒトだけは成人しても新生児の頭蓋骨とほぼおなじかたちをたもちつづけている。それだけでなく、顔の・門凸が少なく平たなこと、肌がつるつるしていること、顎が小さいこと、歯が小さいこと、休毛が少な卜こと、頭蓋骨の縫合が二〇歳代まで延ばされること、頭が丸いこと、頭骨が薄いこと、女性の腟が前方にあることなどが、ネオテニー=遅延によるヒトの身体的特徴とされている。

 こうした身体的次元でのネオテニーに対し、人類進化においてより大きな影響をもたらしたのが、精神面における遅延であったとグールドはいう。

 

十分に成熟して自立可能になる以前に出産されるヒトは、母親や周囲の人間による保護を必要とし、その結果、大人になっても幼児期に特有な精神的特性をたもちつづけるというのだ。母親をはじめとする近しい人への依存感情、遊び好きであること、他に対する警戒心や攻撃性が少ないこと、身体的接触を好むこと、未知のものに対する好奇心が強いこと、新しい物好きであることなどの特性であり、それらの特性をもつことによってヒトは長期にわたって学習をつづけ、新しい知識をたえず吸収し発展させることが可能になったというのだ。

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