『人生の価値それとも無価値』(ひろさちや)に、興味深いジャータカの話が出ていました。
古代インドの話です。『ジャータカ』という仏典に収録されています(四五八話)。
この貞女は王妃でした。夫である国王が死んだあと、彼女は寝室の扉を番兵に見張らせて、宮殿で固く身を守っていました。
ところが、帝釈天がこの貞女を誘惑しようと思いました。それで帝釈天は、ある夜、金製の鉢に金貨を山盛りにして、王妃の寝室に入って来ます。王妃に、「一晩、わかしと一緒に楽しみませんか。そうすれば、この金貨を金の鉢とともに差し上げます」
帝釈天はそう言って誘惑しました。
だが、王妃はその誘感をきっぱりと拒絶しました。
次の夜も、彼は王妃の寝室にやって来ました。その夜の贈り物は、銀の鉢に山盛りになった銀貨です。「王妃よ、一夜だけでいいですから、わたしと楽しみましょう。そうすれば、この銀の鉢ともども、この銀貨をプレゼントしましょう」。
王妃はきっぱりと拒絶します。帝釈天は退出します。
その次の夜も、帝釈天は王妃の寝室にやって来ました。このときのプレゼントは、銅製の鉢に銅貨を山盛りに盛ったものです。
「お妃よ、一夜ぐらいはいいではないですか。一緒に楽しみましょう。そうすれば、この銅製の鉢の銅貨を全部差し上げます」
そう帝釈天はそう誘惑しました。
その夜も王妃は誘惑を拒絶しましたが、帝釈天に一つだけ質問しました。
「普通であれば、殿方は、拒絶されると贈り物の質を高くします。それなのにそなたは、逆です。最初の夜は金の鉢に山盛りの金貨、次の夜は銀の鉢に山盛りの銀貨、そして今夜は銅の鉢に山盛りの銅貨。だんだんに贈り物の質が低下しています。どうしてなんてすか?」
帝釈天はその質問を待っていたかのように答えます。
「若さと美貌は日ごとに衰えるものです。王妃よ、あなたは、一昨日よりは昨日、昨日よりは今日、老い衰えています」
(以上)