『AI時代の感性:デジタル消費社会の「人類学」』(2023/9/2・ダニエル・コーン著),林昌弘翻訳)からの転載です。
「私があなたのことを思っているとあなたが考えているのを、私は知っています」という言い回しは、人問だけが理解できる。人類学者ロビンーダンバー(1947―)はこれを見事に説明している。
いわゆる第一志向とは、推定する、考える、自問する、信じるなどの動詞の利用からわかるように、自分自身の心の中身を省察する能力のことだ。こうした能力は、おそらくほとんどの哺乳類や鳥類にも備わっているに違いない。
より興味深いのは、「君がアプリコットを好きなのは知っているよ」という言い回しのように、他人の心理状態を代弁する言い回しだ。このより高次な能力は、第二志向と呼ばれている。人間は、六歳になって第二向志向が操れるようになると、認知科学者が「心の理論」と呼ぶ心の機能を獲得する。
すなわち、他者の考えは自分とは異なることを理解するようになるのだ。
「私があなたのことを思っているとあなたが考えているのを、私は知っています」は、第三志向の言い回しだ。では、どのくらいまで可能なのだろうか。
経済学者ジョージ・レーヴェンシュタイン(1955―)は、第四志向の明快な例を紹介している(段階とともに志向レベルも上がる)。
第一段階‥あなたは足首をくじいた。よって、あなたは同僚に車で迎えに来てはしいと願う
第二段階‥あなたは自分か痛がっていることを同僚が知っているだろうと思う。
第三段階‥ところが同僚は、自分があなたの怪我のことを知っているのを、あなたが知らないかもしれないと思う。
第四段階‥同僚は自分がこの件を知らない可能性があるのをいいことに、あなたを迎えにこない。だからこそ、あなたは同僚を非難する。すなわち、あなたが非難するのは、あなたを迎えに行きたくないのであなたの径我を知らないふりをする同僚の態度だ。
ダンパーによると、人間は第五志向まで操ることができるという.[私かあなたを脅すつもりだとあなたに思わせようとしている(脅すふりをしている)とあなたが思っていると、私は推測する」
このような離れ業ができるのは人問だけだ。(つづく)