仏教を楽しむ

仏教ライフを考える西原祐治のブログです

『AI時代の感性:デジタル消費社会の「人類学」』➁

2024年03月15日 | 現代の病理

『AI時代の感性:デジタル消費社会の「人類学」』(2023/9/2・ダニエル・コーン著),林昌弘翻訳)からの転載です。

 

「私があなたのことを思っているとあなたが考えているのを、私は知っています」という言い回しは、人問だけが理解できる。人類学者ロビンーダンバー(1947―)はこれを見事に説明している。

 いわゆる第一志向とは、推定する、考える、自問する、信じるなどの動詞の利用からわかるように、自分自身の心の中身を省察する能力のことだ。こうした能力は、おそらくほとんどの哺乳類や鳥類にも備わっているに違いない。

 より興味深いのは、「君がアプリコットを好きなのは知っているよ」という言い回しのように、他人の心理状態を代弁する言い回しだ。このより高次な能力は、第二志向と呼ばれている。人間は、六歳になって第二向志向が操れるようになると、認知科学者が「心の理論」と呼ぶ心の機能を獲得する。

すなわち、他者の考えは自分とは異なることを理解するようになるのだ。

 「私があなたのことを思っているとあなたが考えているのを、私は知っています」は、第三志向の言い回しだ。では、どのくらいまで可能なのだろうか。

 経済学者ジョージ・レーヴェンシュタイン(1955―)は、第四志向の明快な例を紹介している(段階とともに志向レベルも上がる)。

第一段階‥あなたは足首をくじいた。よって、あなたは同僚に車で迎えに来てはしいと願う

第二段階‥あなたは自分か痛がっていることを同僚が知っているだろうと思う。

第三段階‥ところが同僚は、自分があなたの怪我のことを知っているのを、あなたが知らないかもしれないと思う。

第四段階‥同僚は自分がこの件を知らない可能性があるのをいいことに、あなたを迎えにこない。だからこそ、あなたは同僚を非難する。すなわち、あなたが非難するのは、あなたを迎えに行きたくないのであなたの径我を知らないふりをする同僚の態度だ。

 

ダンパーによると、人間は第五志向まで操ることができるという.[私かあなたを脅すつもりだとあなたに思わせようとしている(脅すふりをしている)とあなたが思っていると、私は推測する」

 

 このような離れ業ができるのは人問だけだ。(つづく)

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『AI時代の感性:デジタル消費社会の「人類学」』①

2024年03月13日 | 現代の病理

『AI時代の感性:デジタル消費社会の「人類学」』(2023/9/2・ダニエル・コーン著),林昌弘翻訳)を借りてきました。

ますは本の紹介から。以下、本紹介からの転載です。

 

SNS依存社会で数値化される「個性」

「AIは絵を描いたり音楽をつくったりできるが、自分の生成したものが美しいかどうかは判断できない。判断できるのは、感情を持つ人間だけだ。」(本書より)
ハイパー資本主義における、SNS依存社会で数値化される「個性」とは? 本書は、DXとともに「自己同一性」の揺らぎが認められる時代、デジタルには生成しえない「感情」の重要性を説く──より創造的に、対話するために。
デジタルトランスフォーメーションにともなう経済社会は、人類史上においてまさに前例のない暮らしであり、水平的かつ世俗的であろうとする社会だ。しかし、「現実の世界」は変調をきたしている。SNSでは、「ネットの向こうに生身の人間がいる」ことを忘れさせるまでに分断や憎悪が煽られる。では、どうすればいいのか。
フランスを代表する経済学者が、デジタル消費社会における人類の生き方をめぐり、クリアな視座を提供。専門の経済学はもちろん、脳科学、哲学、文学、人類学など人文学の最新研究も適宜ダイジェスト紹介しつつ、来たるべき「文明」を展望するベストセラー・エッセイ。

[目次]
イントロダクション
第一部 デジタル幻想
第1章 身体と心
 ターミネーター/理性と感情/デカルトの「誤り」/人工知能(AI)
第2章 愚かさと懲罰
 野生の思考/監視型資本主義
 第3章 ロボットを待ちながら
 王の死/サービス産業/考えるロボット/今世紀の課題
第4章 政治的アノミー
 人々を貧しくする経済成長/労働者の自殺/政治革命/民衆の声
第二部 現実への回帰
第5章 社会的な想像力の産物
 友達一五〇人の法則/ボノボとチンパンジー/四つの社会/世俗の時代/族内婚の勝利/ポストモダンの精神性
第6章 冬来る
 二十一世紀の危機/気候時計/依存症社会
第7章 一〇〇年後
 豊穣の世界/SFの世界に戻る
結論にかえて
 訳者あとがき
 索引/注(つづく)

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共感という言葉が流行っている

2024年03月03日 | 現代の病理

『共感の共同体: 感情史の世界をひらく』(2023/10/20・伊東剛史・森田直子編集)、まえがきの転載です

 

 

国立国会図書館の検索サービスを利用すると、共感に関する刊行物が今世紀紀以降、急増したことがわかる。グーグルが提供するNブラム・ヴユーアで英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語の共感に相当する語の出現頻度を追ってみても、似たような傾向か見られる(序-2)。学術研究の領域に限定しても、日本の科学研究費補助金の助成をうけた研究課題には、共感をテーマとするものが分野の垣根を越えて増加した。中国の学術研究に関しても、回様である(序‐3)。私たちの世界は今、共感を標榜する声、それに懐疑する声、そして共感とはなにかを突き止めようとする営みであふれている。

 本書は、そのような営みからいったん距離をとって、なぜ、私たちがいまここまで共感するよう求められたり、逆にそこまで共感しないよう警告されたり、そもそも共感とはなにかに拘泥するようになったのかを、歴史的な視点から考え直そうとするものである。それがひいては共感とはなにかという、根底にある問いに向き合うことにつながると信じるからである。

(以上)

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「親ガチャの哲学」著者の戸谷洋志さんに聞く

2024年02月21日 | 現代の病理

今日(2024.2.21)の『産経新聞』に【「親ガチャの哲学」著者の戸谷洋志さんに聞くー「出生の偶然性」を共感の礎】

 

にとや・ひろし 昭和63年、東京都生まれ。関西外国語大准教授(哲学・倫理学)。『ハンス・ヨナスの哲学』『未来倫理』など著書多数」

 

 「いま、現実世界に対する悲観的な物の見方が蔓延している気がするんです。その象徴ともいえる『親ガチヤ』という概念をフックに、現代社会を覆う「ヒリズムについて考えたかった」。哲学者の戸谷洋志さん(35)は新刊『親ガチヤの哲学』 (新潮新書)を書いた理由をそう語る。人はいつ、どんな親のもとに生まれてくるのかを選べない。そんな出生の偶然性によって左右される人生をどう引き受け、生きていけばいいのか。粘り強い思索が刻まれた一冊だ。     (海老沢類)

 

 大学入試にも登場

 

 「親ガチヤ」は出生時の運や不運が後の人生に重大な影響を及ぼすことを、電子くじである 「ガチヤ」の偶然性になぞらえて皮肉交じりに表現した言葉。社会における成功を、家庭の経済格差と結び付けて語る場合によく使われる。令和3年には 「ユーキャン新語・流行語大賞」でトップ10入り。昨年の大学入学共通テストの「倫理」では「親ガチヤ」に言及した会話文も出題された。。

  「恵まれない出生に伴う苦しみ自体は古代ギリシヤ悲劇などにも出てくる。現代の『親ガチヤ』が問題なのは、生まれた環境で受けた影響をその後の人生で覆せないと悲観していること」と戸谷さん。こうした厭世観の背景には1990年代以降の社会の閉塞感がある、とみる。

  「高度成長期には個人の努力が成功や報酬につながっていて、環境に恵まれなくても頑張れば幸せな未来をつかむことができる、という物語も信じられた。だがバブル崩壊以降、経済は低迷し成長物語は信じられなくなっている」

 

■「自暴自棄」の犯罪

 生まれた環境に起因する苦しみや絶望は、近年注目される「生まれてこない方がよかった」とする思想、いわゆる「反出生主義」にもつながる。本書では『ONE PIECE』や『進撃の巨人』などの人気漫画にもそうした思いを抱く登場人物が出てくることが指摘される。さらに平成20年に東京・秋葉原で起きた通り魔事件をはじめとする「自暴自棄型の犯罪」の増加にも着目する。そうした犯罪には「自分の人生に対する無力感に基づく、特有の無責任さが伴っている」と記し、自由と責任についての考察が展開されていく。

  「確かに生まれた環境で人生のかなりの部分が決まる、という見方もできるかもしれない。ただ、自分の人生が全部誰かに決められたもので、本人が付け入る隙すらないという『決定論』に陥ったとき、人生は自分のものじゃないようになって自暴自棄になりかねない。自己肯定感の低下を招き、他者や自分自身を傷つける事態にもなる。人生を自分のものとして引き受け、尊重するためにはどうすればいいのかを考えないといけない。戸谷さんはその手がかりとして、米国の政治思想家ハンナ・アーレント(1906~75年)の思想を紹介し、他者との関係を見つめ直す必要性を指摘する。「人間が自分らしさを提示するのは、他者の前で何かを語るときである」と。「『私はこう思う』と言ったとき耳を傾けてくれる他者がいる。その信頼が持てるか否かが自分に向き合う前提条件。国家と家庭の間に位置していて、人と人とのつなりを築く地縁コミュニティーのような中間共同体は現代社会ではどんどん失われている。ゆるい対話ができる場を作っていくのも大切だと思う」

 

他者への想像力に

 もう少し裕福だったら。なぜ就職氷河期世代に生まれたのか…。程度の差はあれ誰もが偶然に翻弄され、苦しむ。ただ、苦しみの源である偶然性に立ち返れば、厭世観を克服するヒントも見えてくる。「人生は始まりから偶然に委ねられている。ということは『自分には別の人生があり得たかもしれない』わけです。だから今恵まれている人も劣悪な環境に置かれた人を前にしたときに、『あれは自分だったのかもしれない』と思えるはず。他者への想像力が生まれるんです」と話す。

  「『親ガチヤ』は挑発的な印象を与える言葉で、社会の分断を加速させる面もある。でもこの言葉の根本にある出生の偶然性は連帯や共感の基礎になり得る。そう見方を変えて、苦しみを少しでも和らげていく必要がある」(以上)

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30年間で、ひとりの時間を大切にする傾向が高まる

2024年01月26日 | 現代の病理

博報堂生活総合研究所 「ひとり意識・行動調査 1993/2023」 結果発表 |ニュースリリース|博報堂 HAKUHODO Inc.

 

上記より転載です。

2023年 「ひとりでいる方が好き」な人は56.3%。1993年からは+12.8pt増加して過半数に

 

「社会的孤独」「少子化」などの社会問題を背景に、最近ひとりに関する話題を耳にすることが増えています。そして、多くの生活者がコロナ禍をきっかけにひとりで過ごす経験をしたことで、ひとりに対する価値観が変わってきているようです。
博報堂生活総合研究所は、1993年に25~39歳男女に対して「ひとり意識・行動調査」を実施。それから30年経った2023年に前回と同様の調査を再度実施しました。その結果、ひとりを志向する生活者が大幅に増加し、その意識と行動に大きな変化が起きていることを発見しました。

「ひとり意識・行動調査1993/2023」調査結果のポイント

 
【意識編】30年間で、ひとりの時間を大切にする傾向が高まる
●「意識してひとりの時間をつくっている」が、30年間で大幅増
●特に、趣味や遊びについて、ひとりで楽しむ人が増加
 

【行動編】生活の様々な場面で、ひとりで行動したい人が増加
●「ひとりで行きたい場所」は、「喫茶店・カフェ」「ファストフード」「映画館」などが30年前と比べ2倍以上に。以前は誰かと一緒が多かった場所でも「ひとりで行きたい」が増加
●「ひとりでしたいこと」は、仕事や食関連を中心に多くの分野で増加
●「喫茶店・カフェにひとりでいてもつらくない時間(待ちあわせ以外)」は、「120分以上」が大幅増
(以上)

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