『疎外感の精神病理』(集英社新書・2023/9/15・和田秀樹著)からの転載です。
厚労省 国立精神・神経センター精神保健研究所社会復帰相談部(当時)は、2003年に「引きこもり」の概念として以下のものを掲げています。
- 「引きこもり」は、単一の疾患や障害の概念ではない
- 「引きこもり」の実態は多彩である
- 生物学的要因が強く関与している場合もある
- 明確な疾患や障害の存在が見えられない場合もある
- 「引きこもり」の長期化は1つの特徴である一長期化は、以下のようないくつかの側面から理解することができる
生物学的側而
心理的側面
社会的側面
- 「引きこもり」は精神保健福祉の対象である。
引きこもりには、さまざまな原因がありますが、大きく6つのものがあると私は考えています。
1つ目は親子関係です。
さまざまな調査で明らかになっていることですが、「高学歴の両親がいる家庭に多い」「経済的な余裕のある部長、課長クラス以上の親が多い」とされています。
引きこもりの専門家やその治療を行う臨床心理士などに聞くと、親の要求水準が高いとそれに子どもが応えられないときに、「自分はダメな人間」とどうしても自己評価が低くなっていくようです。
2つ目は人間関係のストレスです。
いじめや仲間はずれをきっかけにして引きこもりになるというのはイメージしやすいと思いますが、後述するように、働いていた人が人間関係のストレスから仕事に行かなくなり、そのまま引きこもるというケースが実は意外に多いのです。
3つ日は不登校の延長です。。
文科省の定義では、不登校は、「年度間に連続又は断続して30日以上欠席した児童生徒」のうち「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的、要因・背景により、児歌生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にある者(ただし、「病気」や「経済的理由」による者を除く)」ということになっています。
病気や経済的理由がないのに30日以上欠席した場合が不登校ということになるわけですが、不登校を続けていて、それが6ヵ月以上になり、自宅にこもるようになれば引きこもりという結果に陥ってしまうのです。
4つ目は、受験や就活の失敗、大人の場合は失業を契機とするものです。
本人が受験に失敗して、希望の学校に入れなかった、あるいは就活に失敗して、希望の会社に入れなかった、あるいはつとめていた会社から解雇されたなどという場合、もう1年受験勉強をしようとか、受かった学校に通ってみようとか、別の会社でもいいじゃないかなどと思えればいいのですが、それで「ダメ人間」になったという烙印を自分に押すことで、外に出ることを怖く感じたり、恥ずかしく感じたりした場合は引きこもるということにつながります。
5つ目はゲームやネットへの依存です。
こういうものに依存することで外に出なくなってしまうというのは多くの人がイメージするようですが、引きこもりの専門家には異論があるようです。
たとえば「社会的引きこもり」という言葉を世に広めた精神科医の斎藤環氏は、引きこもりはゲームに依存するためになるのでなく、引きこもってすることがないからゲームばかりするのだと指摘しています。斎藤氏によると、引きこもりの人はゲーム依存の人たちと違って、とてもつまらなそうにゲームをやるというのです。
ただ、スマホやインターネット依存が人を引きこもり傾向にするのも確かなようです。
2014年の総務省情報通信政策研究所の調査によると「ネットのしすぎが原因でひきこもり気味になっている」と回答した高校生が男子生徒の14・2%、女子生徒の10・8%で、計12・4%もいたのですから、スマホが当時より普及した現在のほうがさらに増えているかもしれません。
6つ目はそのほかということですが、その多くは発達障害(現在は神経発達症が正式な診断名です)や精神疾患によるものです。
引きこもりというのは状態ですから、たとえば自閉症スペクトラム障害の人が対人関係が苦手で、学校や職場に行くのが苦痛で引きこもった場合も引きこもりにカウントされます。
あるいは、統合失調症においても自閉、つまり引きこもり状態というのは重要な症状です。
統合失調症というと、幻覚や妄想が出ておかしな言動をするというイメージが強いかもしれませんが、現在では、この1の症状には薬がよく効くので、むしろ自閉症状が重要な症状と考えられています。自閉症状に多少は効く薬もいくつか開発されてきていますが、やはり引きこもり生活を送る統合失調症の患者さんは少なくありません。(つづく)