旅限無(りょげむ)

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森繁逝って市橋捕まる 其の壱

2009-11-11 21:15:19 | 社会問題・事件
■予想した通りに整形後の顔写真が公開されると間も無く数多くの目撃情報が湧き出し、大阪南港のフェリー乗り場で市橋容疑者の2年7箇月に及んだ整形・逃亡生活は終わりました。逮捕されたフェリー乗り場は、個人的な思い出ながら、「松山上陸作戦」の折にチベット人の生徒達と楽しい船出をした場所であります。正確なカタカナ表記で乗船名簿に「本名」を記入し、偽造ではない正真正銘の学生証を提示して、皆でわいわい言いながら彼らにとっては生まれて初めての船旅に出発したことを、逮捕現場の報道を見ながら思い出しました。

■それにしましても、芸能界の巨星・森繁久弥が死去した日に重なったのは残念至極であります。新聞社が配った1枚刷りの号外は、市橋確保と森繁逝去が裏表に掲載されていたそうですが、何ともやり切れない取り合わせですなあ。若い世代にとっては市橋容疑者の方が、断然、知名度が高そうですが、戦後の日本人が楽しみ泣いた映画やテレビ・ドラマ、そしてラジオ!歌や詩など、歴史そのものみたいな森繁久弥さんでありました。老衰による大往生とのことで、不慮の事故や悲劇的な犯罪などとは無縁の家族に看取られた静かな最期だったと聞き、じっくりと哀悼の意を表すると共に昭和後半から平成までの日本芸能史を振り返りながら学び直す機会としたいものであります。

■それに対する市橋容疑者は、現代の世相を一身に集めたような逃亡生活を続けていたようで、刹那的で短絡的な短い生涯になりそうな気配が漂っております。


……警察庁は10日、逮捕に結びついた有力情報の提供者に総額1000万円の懸賞金を貢献度に応じて支払う手続きを始めた。殺人など重要未解決事件に公費で懸賞金を支払う懸賞広告制度の適用は初めて。懸賞広告制度は07年5月にスタート。警察庁や関係警察本部のホームページ、ポスターに掲載し情報を受け付ける。期間は原則1年間。原則、容疑者が手配されている場合は100万円、それ以外は300万円が上限額で、特に必要がある時は1000万円まで引き上げることができる。リンゼイさん事件は、制度導入直後の07年5月に懸賞対象に指定された。

■当選者が何処に居るのやら皆目見当もつかない宝くじや、一攫千金の夢を売る各種公営ギャンブルなどより、逃亡者の潜伏先にもよりますが自分一人で発見・通報すれば本当に大金が手に入ることを知った日本人の中には、本気で「賞金稼ぎ」を目指そうかなあ?と考え始めた人もいるかも知れませんぞ。西部劇みたいに「生死を問わず!」という乱暴な流儀は取らない日本ですから、今回の市橋事件を参考にして繁華街やネット・カフェ、寮制の職場等を意識的に嗅ぎ回り始める定職に就けない若者などが増えるかも?それに広告費が激減して青息吐息のテレビ局も、朝夕の自称「情報提供番組」の中で「今日の指名手配」などの小さなコーナーを作って、押し売りもどきの便乗宣伝商売を多少でも公共性のある社会正義を回復する役に立つかも知れない内容に変わるかも知れませんなあ。でも、刷り込み情報が作り出す強引な「他人の空似」現象が世の中に蔓延してガセ情報ばかりが飛び交うようでも困るのですが……。


今年6月で2回目の延長となったが、毎月約150件の情報が寄せられ効果がみられるとして、17件の対象事件で唯一、最高額に引き上げていた。1000万円の支払先を巡っては、最終的に大阪市内のフェリー乗り場で「似た男がいる」と大阪府警に110番した人物のほか、▽1年2カ月間の潜伏先だったことを通報した大阪府茨木市の土木会社関係者▽整形手術をしたことを通報した名古屋市中村区のクリニック--などが対象となるとみられる。
11月11日 毎日新聞

■「有力な情報」などという曖昧な表現にするから話がややこしくなります。フェリー乗り場のような公共性の高い「職場」であれば、最初に気付いた人・通報しようと思った人・通報を決断した人・受話器を取った人……という具合に話がひどく入り組んでしまいそうです。最終的に電話をした人物なら、上からの指示で何が何だか分からないまま通報しただけの人でしょうし……。現場に居合わせた人達の中には「一足違いだった!」「逡巡したのがバカだった!」と人知れず大いに悔しがっている人も居そうですなあ。そうなれば、早とちりの通報がぐんと増える可能性もありますし、情報の扱いを間違えれば電車内の痴漢冤罪に匹敵する多大な迷惑を善良なる一般市民に掛ける恐れもありそうです。

■分かり易いのは、やっぱり西部劇のように本人をとっ捕まえて突き出した者が賞金を受け取るという方法でしょうが、素人が凶悪犯罪の容疑者に対して本人確認をするのは命懸けでありますから、荒事を嫌う日本の伝統に従って、「多くの協力者」が賞金を穏やかに分け合う方がよさそうです。でも、警察当局が「配分」を考えるというのはちょっと心配……。立憲したら9割9分は有罪になってしまうというエライ警察機構を持っている日本ですから、一般市民からの情報が無ければ凶悪犯罪も解決出来ない!という由々しき現実を認めない限り、賞金の配分も歪んでしまうのではないか?と聊(いささ)か心配にもなります。

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