旅限無(りょげむ)

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ちょっと北朝鮮 其の七

2006-04-11 12:26:43 | 書想(国際政治)
■中朝関係を見誤らないために、もう少し古田先生の発言を引用しておきます。

それから文化大革命。金日成が本格的な独裁体制に入るのは1967年ごろですが、これは言うなれば文化大革命に対する思想防衛戦でもあったのです。紅衛兵が金日成に批判を浴びせるなか、金日成は国内の中国と結託する親中勢力を壊滅させた。その過程で編み出されたのが「唯一思想体系」、すなわち金日成の言ったとおりに考え、行動しろ、というレベルアップした主体思想なのです。

■この頃の裏話は、黄長(ファン・ファンヨプ)さんの『金正日への宣戦布告』(文藝春秋)に詳しく書かれています。「主体思想」は世界中に同調者を生んで、日本でもファンが活動していまして、この本は東京の「主体思想国際研究所」の初代理事長は法政大学教授の安井郁(やすい・かおる)さんだったと平然と書いてあったり、主体思想の理論を完成させた大学者を自負する人らしく、内外の有名人が実名で出て来ます。「マルクス・レーニン主義」「右傾修正主義」「左傾冒険主義」「主体の唯物論」「主体の弁証法」などの古色蒼然たる専門用語が山盛りですが、ソ連・東欧や中国との交流経験の記録や北朝鮮中枢部の権力闘争を学者の目で見た証言など、価値の高い資料ですぞ。勿論、恨み骨髄の不肖の弟子である金正日が劣等生だった!という話が何度も出て来ます。


また北朝鮮の経済が崩壊したのも、中国によるダメージが非常に大きい。決定的だったのは、1990年にソ連がそれまでのバーター方式、一種の物々交換をやめて、(米ドルなどの)ハードカレンシー方式に貿易のやり方を変えたことで、支払能力のない北朝鮮の貿易量が激減しました。そのとき、中国は冷酷にも北朝鮮に対する石油の供給量を大幅に減らしたのです。中国からすれば、北朝鮮は生かさぬよう殺さぬようにしておきたい相手でしょう。

…中国と接して「大人」になるんだったら、北朝鮮はとうに「大人」になっているはずですよ(哀)。

…あれほど距離が近いにもかかわらず、北朝鮮の芸術にはほとんど中国の影響が見られません。おそらくは美意識が違うのでしょう。……歌などはむしろロシアの影響の方が強い。

…日本が忘れてはならないのは、東アジアは文化的にも歴史的にもバラバラのモザイクである、ということです。……中国、韓国、北朝鮮はそれぞれの「中華思想」を主張して、自分こそが主役だと譲らないし、日本は日本でまったく異質の社会、文化を築き上げてきた。『東アジア「反日」トライアングル』(文春新書)でも詳しく述べましたが、中国、韓国、北朝鮮が結び付くのは「反日」という一点に過ぎないのですから、その絆を断ち切りさえすればいい。そこの認識を誤ると、歴史の悲劇を繰り返すことにもなりかねない。

■唐の長安や元の大都など、東アジアの中心と思われる場所が出現したことも有りましたが、それは欧州の永遠の都ローマとは違いますし、イスラム教のメッカとも違う短期的な政治と文化の市場のようなものでした。つまり、東アジアは共有文化などは存在していないのです。文化的にズタズタに切り離されている事を忘れて、漢字や箸を使うだの、肌の色が同じだのと簡単に思って、目に見えない壁を乗り越えてヨン様ブームだの嫁不足の解消だのと安易な行動をすると、大きなしっぺ返しが来ますなあ。異文化間の深い交流や理解というのは、大変な努力と望外の幸運によって起こる「奇跡」なのですから、我も我もと押し寄せるバーゲン・セールの掘り出し物とは違うのですなあ。友情どころか、最悪の場合は不必要な誤解と憎悪や増すだけで、「やらなきゃ良かった」と後悔するのが関の山でしょうなあ。


(東アジア共同体は)歴史的にも、政治的にも虚構でしかないでしょうね。はじめから。経済的に言っても、丸の内のオフィス街の住人たちと、中国内陸部のヤオトンと呼ばれる穴ぐらに住む人々が、どうやって同じ金利で生活できるのでしょうか?……アジアにおける日本、そしてアメリカの影響を出来る限り削ぎ落とすための戦略でしょうね。

…現実問題として、日本という国なしには韓国は生きてはいけません。彼らの技術では、液晶用の平らなガラス一枚作れないのですから。だから、日本は焦ることは何もないのです。地道に、彼らの反日的反動を論理的に反駁していけばいい。

■古田教授は専門の研究者なので、朝鮮半島の言葉を使いこなしていますが、日本の国民全員が英語だのハングルだの北京語を習得する必要など無いのです。必要なのは、「歴史」に関する知識と教養です。それを学ぶための有益な本は、日本語で出版されて図書館や本屋にずらりと並んでいるのです。テレビで韓国製のメロ・ドラマを二つ三つ観て、大きな勘違いをするよりは、じっくりとアジアと日本の歴史を読み直さねばなりません。特に、マルクス主義やら主体思想の濃厚な臭いを中途半端に嗅いでしまった団塊の世代の皆さんは、これから立派な日本のオジイチャンやオバアチャンになるのですから、早めに学び直しをしておくべきでしょうなあ。勿論、教育の現場に立とうとしている若者や海外雄飛の夢を持っている青少年達も、日本とアジアの2000年の歴史を急いで学ばねばなりませんなあ。
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