旅限無(りょげむ)

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日本飢餓列島 其の参

2006-06-26 11:31:12 | 健康
■動機がさっぱり分からない変な凶悪事件が連続する世の中の裏側に、食事の問題が隠れているのかも知れませんなあ。これからは事件が起こったら「何を食っていたんだ?」と調べる必要が有るでしょう。人間の心を失う前に、人間の食事を奪われているとしたら、何とも救いの無い話になってしまうのですが……

病態栄養学に詳しく『その食事ではキレる子になる』(河出書房新社)などの著書もある、福山平成大学客員教授・鈴木雅子氏は……「栄養失調という言葉は、ほとんど死語になっていると思われているかもしれませんが、じつは子供たちの間に『現代型栄養失調』が増えているのです。栄養失調といっても、終戦直後のようなカロリー不足からくるものではなく、ビタミンやミネラル、食物繊維などが不足し、その結果、脳の発達が妨げられている状態のことです。バランスの取れた食事をしていないと、ビタミン、ミネラル、食物繊維はすぐに不足してしまいます。……日常的に体のだるさを訴え、ボーッとしてやる気がない反面、イライラして落ち着きがなくなります」

■この後には岡山県三咲町の例を引いて朝の給食サービスの話になっています。米国のメリーランド州では1998年から無料朝食を提供し始めて生徒の成績と行動が改善されたのだそうですが、何でも他人任せにしてしまう親の問題の方が重大でしょうなあ。ペットか玩具のように子供を育てる親は人間を育てることに失敗します。しかし、「親の因果が子に報い」るのですから、「バカ親」と罵(ののし)る前に、親の親はどんな子育てをしたのか、これも検証しなければ悪しき循環は断ち切れないでしょう。こうした記事で扱っている母親の多くが30代とすると、1970年代生まれで成人する前後がバブルの真っ最中に当たりますなあ。外食だの「ファミレス」だのが大流行してすっかり日本に定着している訳ですが、あの時代の前と後には大きな文化的精神的な断絶が有ることを再確認した方が良いでしょう。


「温かい味噌汁さえありゃ充分よ。あとはお新香、海苔、たらこ一腹。ね、辛子のきいた納豆、これにはね、生葱細かく刻んでたっぷりいれてくれよ。あとは塩昆布に生卵でも添えてくれりゃ、もうおばちゃん何もいらねえな、うん」

■これは『サライ』2006年13号の「寅さん特集」に再録された『男はつらいよ 望郷篇』で車寅次郎さんが言う台詞です。最後の「何もいらねえな」を横で聞いていたオイチャンがお約束の激怒!という脚本です。「葛飾柴又寅さん記念館」には、この通りの品揃えでサンプル品が再現されているのだそうですが、車寅次郎さんの大好物は「里芋の煮っ転がし」なんだそうです。室町時代から江戸時代に掛けて朝食と昼食の「定番」が決ったという話を聞いたことも有ります。東西の味覚の差は有っても、日本全国の宿泊施設で出す朝食と街道筋の飯屋で出す定食の基本形が定まったのだそうです。それが音を立てて崩れ去ったのがあのバブル時代だったとしたら、それを跨いだ親子関係は歴史的な断絶の谷を渡らねばならないことになりそうです。「外食」「コンビニ弁当」だけでなく、「孤食」「テレビ食」などの問題も有ります。

■海面が真っ黒になるほど日本近海に群れていたマグロにしても、今では空を飛んで来る時代です。そう言えば、江戸時代には赤身しか食べなかったそうで、獣臭いトロの部分は廃棄されていたという話も有りますから、どんどん日本人の食事は獣臭くなっているのかも知れません。明治時代に列強に負けないように動物性蛋白質を大量に摂取して強い兵士を養成しようとした日本ですが、もう戦争をやらないと決めたそうなので、あっさりした食事で充分でしょう。その明治時代にドイツの医学博士が日本人の食生活が「貧弱だ」と思って実験をしたという話も有りましたなあ。沢庵と小魚をおかずにして丼飯を掻き込んでいる車屋さんを2人雇って、1人はいつも通りの食事を摂ってもう1人には牛乳や肉料理を食べさせてスタミナを付けたそうです。その2人が江戸から日光まで客を乗せた車を引いて疾走した結果はどうだったか?と言いますと、高蛋白のスタミナ食を摂った車屋さんが途中でリタイア!沢庵ぽりぽりの車屋さんは楽々と完走したのだそうです。

■明治から敗戦までの間、日本の兵は体が小さいとは言われたものの、決して体力的に劣っているとは言われなかったというのも事実でした。グルメと称して遠い異国の食い物を珍重するのも結構でしょうが、肉体の基礎を作る食事を勝手気ままに変更すると、その後に起こる心身の変化にも責任を負わねばならなくなるのでしょうなあ。「空腹感は最良の調味料」と言います。ガキンチョは何を食っても旨い旨いとがつがつ食べる生き物なのです。それなのに、飢餓線上に追い詰められた子供と、空腹を感じる暇も無くもぐもぐしゃりしゃり口を動かしている肥満児とに二極分化してしまったら、30年後の医療費は天文学的な額に達するでしょうなあ。子供と大人は、心も体も違う存在なのだと、義務教育でも教えないまま核家族時代が長く続いた後のバブル時代、その変化の荒波の後に起こっているのが今の飢餓児童ならば心配なことです。


その食事ではキレる子になる―心と脳はこんなに食べ物に影響される

河出書房新社

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男はつらいよ 望郷篇〈第5作〉(1970年公開)

松竹

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