旅限無(りょげむ)

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仏も泣くチャイナの公害 其の壱

2007-01-08 16:18:41 | 健康
■12月15日の朝日新聞に「楽山大仏」の写真が掲載されました。チャイナの有名な大仏様です。世界遺産にも登録されているので、多くの人がその四角い御尊顔を拝していることでしょう。今回の写真は決して観光名所の紹介を目的とするものではありません。記事のタイトルは「酸性雨のしわざ?楽山大仏黒い涙」というのですから、何ともやり切れない悲しい話が記事になっていました。

■カトリック信仰を持つラテン系の国々には、涙を流すマリア像やら血を流すイエス像などがあちこちに有るのは有名な話ですが、いよいよ仏様も涙を流す「末法の世」なのかなあ、と考えたくなるお話です。この大仏様は四川省の楽山市に有りまして、大雪山脈から流れ下る長江の源流に近く、成都から重慶に向って南に大きく湾曲して流れる川岸の崖から掘り出されている坐像であります。四川省は霧の名所で、偶に快晴になると犬も驚くそうで、「蜀犬、日に吠えゆ」と言われているほどです。これは「白髪三千丈」と同じで一寸(ちょっと)大袈裟な表現で、愚か者が賢者の言う事をぜんぜん理解しないという喩えとして使われる慣用句となって、人口に膾炙(かいしゃ)しております。

■この名物の霧が経済成長の時代には恐るべき破壊力を持つ凶器になっているのですなあ。米国映画にも『フォッグ』などという気味の悪いオカルト映画が有りましたが、あれは恨みを残して死んだ人々の怨霊が霧となって小さな港町を襲うという荒唐無稽のお話でしたが、現実に四川省を苦しめている霧は怨霊ではなく、豊かになりたいという巨大な「欲望」の塊と言うべきもののようです。日本でも、明治時代の足尾鉱毒事件に始まって1960年代の海洋と大気の大規模な公害汚染を経験しているのですから、決して他人事ではないのですが、歴史と風土と人心がまったく日本とは異なるチャイナで発生している公害は、我々の想像を超えているようです。

■本来なら、支店ブログの『五劫の切れ端』に書くべき事なのですが、「大仏」と呼ばれる巨大な仏像は一種類ではありません。この楽山の高さ71メートルもある仏様は、弥勒菩薩だそうです。日本では広隆寺さんのたおやかなお姿でお坐りの弥勒坐像が有名ですが、断崖絶壁を浮き彫りにした楽山大仏は、ちょっといかついお姿になっております。釈尊が入滅してから56億7000万年後にこの世に生まれて衆生を救って下さるという有り難い仏様です。どうせその頃には仏教の内容はめちゃくちゃになって、人間もろくな者は残っていないだろうと、2000年余り前の仏教徒が心配した結果でしょうが、弥勒菩薩が御降臨になるまでは、まだまだ随分と時間が掛かるようです。お経によりますと、兜率天(とそつてん)でその時をお待ちになっているのだそうです。

■まだ56億6999万7500年ほども待機して居なければならないので、きっと、あれこれと深くお考えなのでありましょう。大体は右足を左足の上に乗せる楽な姿勢で、上品に頬杖をついてお坐りになった姿で表現されている仏様です。でも、楽山の大仏様は砂岩質の崖に彫られているので、そんな微妙なバランスでお姿を表現したら畏れ多いことにぼろぼろと崩れてしまいますから、背筋を伸ばして両足もきちんと揃えて、どっしりとお坐りになっております。それに、少女の姿を写したかのような手足や首が細い、多くの弥勒思惟坐像とも違いまして、柔道か相撲でもやっているような太い頸をお持ちの仏様でありあます。

■記録に依りますと、この大仏は西暦713年に着工されたのだそうです。唐の時代が一時中断して「周」という国名を用いた則天武后の時代が終りまして、楊貴妃で有名な玄宗皇帝が「開元の治」を始めたのが712年ですから、その翌年にこの大事業が始まったことになります。海通禅師という大変な行動力を持った1人の僧侶がこの大工事を思い立ち、延べ1億人とも言われる人員を集めて見事に完成させたのだそうです。とは言っても、13層の楼閣を背負う構造になっているこの大工事が完了したのは90年後だったそうですから、海通禅師は未完性の大仏しか見てないことになります。

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