■日本語は、基本概念のほとんどを漢字で表わして「てにをは」でつないで文章化する言語ですから、漢字を知らないのなら、文章や発言の材料が無い!という恐ろしいことを意味します。そして、日本人の歴史は、漢字から英語まで、外来文化を学び続ける歴史でしたから、どうしても外国から学ぼうとする気分が濃厚です。今でも、「英語が使える」という、本来は何の意味もない技術が、「賢さ」や「教養」と同義だと勘違いされています。同じ流れの中に、漢字を知らない=無知という構図が隠れています。『バカ』を含んだ本がベスト・セラーになったり、『脳力』ドリルが売れる世相には、社会と教育行政に任せていたら「バカ」になるのではないか?という潜在的な恐怖が隠れているのでしょうなあ。それなら個人的な防衛手段が必要となり、その努力の目安と動機となるのが「漢検」というわけです。
■学校が「英検」や「漢検」を利用するのは、文科省の天下り団体が実施している資格認定試験としては感心しませんが、やらないよりは良いと考えましょう。しかし、設定されている「級」に中高生の学年が対応しているかのような表記が見られるのは如何なものでしょう?それが本当なら、義務教育の小中学校の「卒業資格」試験にすべきでしょうし、それが無理だと最初から諦めているのなら、「漢検」ではなく国語の授業を倍増させて図書館の蔵書を10倍にする努力をした方が良いでしょうなあ。「英検」も「漢検」も決して安くない受験料を取るばかりか、学校の教科書とは別に「教本」「過去問題集」「予想問題集」などを買わねばならないのですぞ!これでは、学校での授業では間に合わない!と自分達が認めているようなものです。ですから、塾業界が動き出すのです。
漢検に熱心な塾も多い。個別指導を掲げる学習塾「東京個別指導学院」(東京)は「数学や英語に比べ、漢字は学力に関係なく、努力が結果につながる。漢検で自信をつけて学習面で伸びる子も多い」と説明する。同塾で最近目立つのは家族ぐるみの受験だ。同協会によると、家族3人以上で受験する「家族受験」は1039家族(05年度)で、5年前より6割以上も増えている。子ども以上に熱心になる大人も少なくないようだ。
■教育再生会議では、「塾を廃止しろ!」という勇ましい意見も出ているそうですが、こうした「漢検」の実情を見ますと、話が逆立ちしているのが分かります。既に学校が勉強する場所でなくなっていたからこそ、町中に塾が増えたのですし、更に「ゆとり教育」政策がそれを後押ししたのです。
埼玉県草加市の女性会社員(42)は小学生の娘と漢検に挑戦、準1級に合格した。娘は5年生の秋、3級(中卒程度)に合格。母親は「親子で並んで勉強する体験は新鮮だったようです。一緒に合格した時は喜びは2倍に。私だけ落ちた時は悔しかったけど、『大人だって努力せずに何でもできるわけではない』という貴重な体験を娘に伝えられました」と語る。
■「地域の力」だの「家族の絆」だのと、再生会議が作文していますが、こうした親子で「漢検」を受けるような動きは、商売熱心な塾から起こっているのです。役人の作文が大量に配布されても、こうした動きは始まらないのです。
すそ野をさらに広げそうなのがゲームだ。ニンテンドーDSlite用ソフトとして昨年11月発売された「200万人の漢検 とことん漢字脳」(2499円)は2カ月で約25万本が売れた。メーカーは「主な購入者は習い事好きの30代前後の女性。ゲーム感覚で漢字を覚えてみようという人が多く、やがては漢検受験へとなるかも」。
■本と辞書と紙と鉛筆、漢字を学ぶのに必要なのは昔から変わらないのですが、いろいろと新しい道具が商品化されているようです。それもこれも、学校から「習字」の時間が削られた末に消え去ったことと、戦後に大衆的な読み物から「振り仮名」が消え、奇怪な穴あき熟語の氾濫を経て熟語類の絶滅へと進んだからです。仮名文字さえ覚えたら、あとは辞書と帳面と鉛筆だけで幾らでも漢字の知識は増えて行ったのは、遠い昔の話なのですなあ。
漢検の始まりは、松下電工の営業マンで京都出身の大久保昇さん(71)が脱サラ後に貸しビルを建てた際、テナントの学習塾で子どもの国語力低下を耳にしたのがきっかけ。75年に協会を設立、漢検を開始した。初回受験者は672人だった。同協会は世相をあらわす「今年の漢字」を募集し、毎年末に清水寺で発表することでも有名だ。06年は「命」。こちらも漢検と同様「漢字文化の奥深さを継承することが目的」(同協会)。古都を本拠に漢字文化の復活が着々と実りつつある。▽漢検受験者の増加について国語学者の大野晋・学習院大名誉教授は「背景には学校での国語の授業数の不足と、不安があるのでしょう。学校での国語教育の充実こそ求めたい」と語っている。
2月3日 毎日新聞
■この記事には大切な事実が書かれていません。「漢字検定協会検」は立派な財団法人になっているのです。大久保さんは理事長さんだそうですが、組織内に何人の天下り役人が入っているのか?非営利団体のはずですが、これだけ話題になり受験専門の出版物が全国に溢れているのですから、これは巨大な利権となっているはずです。入り口は「漢字文化への憧れ」であっても、出口に文科省が管轄する入学試験が待ち構えているようになり、その間がすっぽり抜けているというのが無気味です。
■文科省が笛と太鼓と推薦入試の最大の武器に磨き上げた「英検」が、実際には何の価値も無い代物で、TOEICなど国際性の高い試験でないと役に立たない!と暴露された事も有ったのですが、文科省の縄張りは今でも強固です。これがチャイナの北京語や韓国のハングルとも無関係な「漢検」となれば、これこそ文科省の独占利権になるでしょうなあ。「漢検」を毎年受験するのは結構ですが、「傾向と対策」「頻出漢字」などと抜け道探しをするようなら、ちょっと手強(てごわ)い分厚い本に、辞書片手で挑戦した方が良いのではないでしょうか?でも、受験される皆様の「合格」はお祈り申し上げますぞ!
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漢検に熱心な塾も多い。個別指導を掲げる学習塾「東京個別指導学院」(東京)は「数学や英語に比べ、漢字は学力に関係なく、努力が結果につながる。漢検で自信をつけて学習面で伸びる子も多い」と説明する。同塾で最近目立つのは家族ぐるみの受験だ。同協会によると、家族3人以上で受験する「家族受験」は1039家族(05年度)で、5年前より6割以上も増えている。子ども以上に熱心になる大人も少なくないようだ。
■教育再生会議では、「塾を廃止しろ!」という勇ましい意見も出ているそうですが、こうした「漢検」の実情を見ますと、話が逆立ちしているのが分かります。既に学校が勉強する場所でなくなっていたからこそ、町中に塾が増えたのですし、更に「ゆとり教育」政策がそれを後押ししたのです。
埼玉県草加市の女性会社員(42)は小学生の娘と漢検に挑戦、準1級に合格した。娘は5年生の秋、3級(中卒程度)に合格。母親は「親子で並んで勉強する体験は新鮮だったようです。一緒に合格した時は喜びは2倍に。私だけ落ちた時は悔しかったけど、『大人だって努力せずに何でもできるわけではない』という貴重な体験を娘に伝えられました」と語る。
■「地域の力」だの「家族の絆」だのと、再生会議が作文していますが、こうした親子で「漢検」を受けるような動きは、商売熱心な塾から起こっているのです。役人の作文が大量に配布されても、こうした動きは始まらないのです。
すそ野をさらに広げそうなのがゲームだ。ニンテンドーDSlite用ソフトとして昨年11月発売された「200万人の漢検 とことん漢字脳」(2499円)は2カ月で約25万本が売れた。メーカーは「主な購入者は習い事好きの30代前後の女性。ゲーム感覚で漢字を覚えてみようという人が多く、やがては漢検受験へとなるかも」。
■本と辞書と紙と鉛筆、漢字を学ぶのに必要なのは昔から変わらないのですが、いろいろと新しい道具が商品化されているようです。それもこれも、学校から「習字」の時間が削られた末に消え去ったことと、戦後に大衆的な読み物から「振り仮名」が消え、奇怪な穴あき熟語の氾濫を経て熟語類の絶滅へと進んだからです。仮名文字さえ覚えたら、あとは辞書と帳面と鉛筆だけで幾らでも漢字の知識は増えて行ったのは、遠い昔の話なのですなあ。
漢検の始まりは、松下電工の営業マンで京都出身の大久保昇さん(71)が脱サラ後に貸しビルを建てた際、テナントの学習塾で子どもの国語力低下を耳にしたのがきっかけ。75年に協会を設立、漢検を開始した。初回受験者は672人だった。同協会は世相をあらわす「今年の漢字」を募集し、毎年末に清水寺で発表することでも有名だ。06年は「命」。こちらも漢検と同様「漢字文化の奥深さを継承することが目的」(同協会)。古都を本拠に漢字文化の復活が着々と実りつつある。▽漢検受験者の増加について国語学者の大野晋・学習院大名誉教授は「背景には学校での国語の授業数の不足と、不安があるのでしょう。学校での国語教育の充実こそ求めたい」と語っている。
2月3日 毎日新聞
■この記事には大切な事実が書かれていません。「漢字検定協会検」は立派な財団法人になっているのです。大久保さんは理事長さんだそうですが、組織内に何人の天下り役人が入っているのか?非営利団体のはずですが、これだけ話題になり受験専門の出版物が全国に溢れているのですから、これは巨大な利権となっているはずです。入り口は「漢字文化への憧れ」であっても、出口に文科省が管轄する入学試験が待ち構えているようになり、その間がすっぽり抜けているというのが無気味です。
■文科省が笛と太鼓と推薦入試の最大の武器に磨き上げた「英検」が、実際には何の価値も無い代物で、TOEICなど国際性の高い試験でないと役に立たない!と暴露された事も有ったのですが、文科省の縄張りは今でも強固です。これがチャイナの北京語や韓国のハングルとも無関係な「漢検」となれば、これこそ文科省の独占利権になるでしょうなあ。「漢検」を毎年受験するのは結構ですが、「傾向と対策」「頻出漢字」などと抜け道探しをするようなら、ちょっと手強(てごわ)い分厚い本に、辞書片手で挑戦した方が良いのではないでしょうか?でも、受験される皆様の「合格」はお祈り申し上げますぞ!
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