佐藤優の教育論「行かせるなら公立?私立?」

2013年02月01日 12時31分07秒 | Weblog

『子どもの教養の育て方』特別編(その2)
2013年02月01日

私立や国立の進学校に入れるメリット

井戸:「受験勉強を通して身に付いた知識は社会人になっても役に立つ」と佐藤さんは常々おっしゃっています。最近は、中学受験で私立や国立を目指す家庭が増えていますが、公立ではなく、私立や国立に入れることについてはどうお考えですか?

佐藤:子どもを私立や国立の附属中学に入れるというのは、今の状況では合理性があるんです。というのも、公立の中学・高校においては、教員養成メカニズムがなかなか大変な状態になっていますから。
教育に関して1つ確実にいえるのは、自分が理解していないことは教えられないということ。公立には、科目が理解できていない先生が少なからずいるのです。それで、そういう先生はどういう指導をするかというと、「ここは強制的に覚えなさい」というやり方になる。説明できないから、つべこべ言わず覚えろという話になります。

井戸:そこで先生の能力を見ることができるんですね。

佐藤:はい。その点、教師の理解力が一般的にいって高いのが、国公立の附属小中高や私立なんです。教師本人が理解しているから、教材研究もきちんとできます。そうすると生徒の理解力も高まる。理解力が高まるから、教室の秩序も維持できる。

教室の秩序が維持できなくなるというのは、子どもが先生の言っていることがわからないからなんですね。だから子どもたちが暴れる。それを威圧で押さえ付けたら、子どもはおとなしくなるかもしれませんが、結果として萎縮するだけです。

井戸:先生のレベルが、普通の公立と、私立や国公立の附属小中高で違うということですね。



佐藤:ただし、教員の教え方のうまさというのは、学力や頭のよい悪いと比例するわけでは決してありません。

たとえば、東大や京大の教育学部は、教育学、教育についての研究をしているところで、どういうふうに教えるかという研究はあまりしていない。

これに対して、教え方の研究をしている大学、たとえば東京学芸大学を出ている先生は優秀なんです。それから、埼玉大学の教育学部といった、教員養成課程のある教育学部ですね。これらの大学では、教科教育法のところを本気でやっています。

たとえば英語でも、TOEFLで110点以上(満点は120点)というようなものすごく英語ができる人よりは、英語力では実は英検の準1級くらいの力しかなくて、外交官試験を受けたらたぶん受からないだろうというような人でも、すごく熱心な人が中学校や高校の先生をやってくれたほうがいいわけなんです。

しかし、そういうところが今の公立の学校ではなかなか手が行き届かない。

もう1つ問題なのは、少子化の影響で教員になるのがものすごく難しいことです。社会科だったら、正規採用が数人から十数人という県も多い。そういう狭き門になっています。

そうすると、正規の採用はされないで、1年更新の講師になる先生が出てきます。そういう先生は、ずっと講師のままでいいという人を除けば、来年の自分の採用試験の準備と、生徒の教育の両方をやらなければいけません。つまり、試験勉強に忙しい状況で、どこまで教育ができるかという問題があります。

また、自分の持っている免許と違う科目を相当程度、教えているという問題もあります。そうすると、中学校くらいでも本当にきちんと教えられるのかということです。これは深刻な問題で、高校になれば、確実に大学で専攻して教科教育法の単位を取っていないかぎり教えられません。

そういう構造的な問題があって、だいたい中堅レベルより以下の学校だと、そういう人たちが先生として来ることがあるわけです。

一方で、偏差値の高い学校とか、公立でも昔からあるような名門高校では、教師は10年とか15年とか長くいるんです。あるいは、数年出ていったらまたそこに戻ってきます。そういう学校との教育環境の差が、実は大きいのです。


ただし無理はせず家庭の経済力に見合った教育を

井戸:私立がいいのはわかるのですが、不況で給与カットなどもあり、住宅ローンもあったりすると、子どもの学費を払い続けていけるか不安だという人も多いのではないでしょうか。

佐藤:そういう場合には、専門家に相談するのがいいでしょう。ライフプランナーです。

ライフプランナーは非常に正確なアドバイスができます。たとえば、「都心に住んでいるために家賃負担が高く、なおかつ周りを見れば私立に入れなければいけないという状況になっているが、千葉か埼玉に行けば家賃負担が4割減って、さらに公立が充実しているから、住宅と教育の問題を両立して実現できる。だから千葉か埼玉に引っ越しましょう」などといった現実的な提案をしてもらえます。

ライフプランナーは、保険外交員に相談して探すといいですね。保険の勧誘とかで知り合った人ではなくて、学校時代の友達などで損保関係の仕事に就いている人が一人くらいいるでしょう。そういう人に、家計について専門で見られる人はいないか、その人には謝礼はいくらくらい払えばいいかを教えてもらえばいいのです。

実際、子どもを私立にやって家を買ってローンを払ってというスタイルの場合、頭で計算すると、年収が手取りで1500万円くらいないといけないようなモデルなんですね。共働きなら、夫婦がそれぞれ年収1000万円くらいないとできない。かなり難しいと思います。

だから、自分たちが見ている夢が達成可能かどうか、現実をきちんと見ることが大切ですね。

井戸:何が何でも私立や国立とは考えなくてもいいということですね。

佐藤:はい。公立でも、県によって非常に優れた学校もありますから。

※ 続きは2月4日(月)に掲載します

(構成:橋扶美/鈴木充、撮影:今井康一)
http://toyokeizai.net/articles/-/12742