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【362~363ページ】
男はポケットから、まりを十ばかり出してブドリに渡すと、すたすた向こうへ行ってしまいました。ブドリはまた三つばかりそれを投げましたが、どうしても息がはあはあしてからだがだるくてたまらなくなりました。もう家へ帰ろうと思って、そっちへ行って見ますと愕いたことには、家にはいつか赤い土管の煙突がついて、戸口には「イーハトーブてぐす工場」という看板がかかっているのでした。そして中からたばこをふかしながら、さっきの男が出てきました。
「さあこども、たべものもってきてやったぞ。これを食べて暗くならないうちにもう少し稼ぐんだ。」
「ぼくはもういやだよ。うちへ帰るよ。」
「うちっていうのはあすこか。あすこはおまえのうちじゃない。おれのてぐす工場だよ。あの家もこの辺りの森もみんなおれが買ってあるんだからな。」
【406ページ】
「私のようなものは、これからたくさんできます。私よりもっともっとなんでもできる人が、私よりもっと立派にもっと美しく、仕事をしたり笑ったりして行くのですから。」
[ken] 本篇でも管理・監督者がたばこをふかしており、裕福な階層や管理・監督者が吸うものとして登場しています。てぐす工場の成り立ちは「てぐす」を「羊毛」と読み替えれば、イギリスで起きた「囲い込み」と似ていますね。そこで働いていたブドリは、転職し優秀な技術者となって、鉄腕アトムのように皆の期待を背に、街を守るための犠牲になるのでした。(つづく)