息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

シャトゥーン ヒグマの森

2013-04-03 10:10:37 | 著者名 ま行
増田俊也 著

第5回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞。
アニマルパニック作品だ。

基本的に一番怖いものは人間に決まっていると思う私であるが、やはり
自然の絶対的な力は、怖いなどという感情を超越して、有無を言わさないものがある。
本書はもっとも強いと言われる動物・ヒグマであるだけでなく、規格外のサイズであり、
冬眠に失敗した穴もたず=シャトゥーンで、しかも仔連れの雌という、
いわば最悪の条件がそろった。

登場人物に研究者が多いことから、自然保護の現状、冷静な視点、状況分析など、
単なるパニックに終わらない描写が多く、読み応えがある。
とくに希少動物の保護の難しさ、動物のためにはヒグマによる死者が出ることさえも
侵入者を阻むという意味でありがたいという現実は衝撃的だ。
また、ある害獣を駆除しようと森の一部で薬剤を使うことがもたらす影響の大きさや、
そんな儚さがありながらも、あまりにも壮大な北海道の自然への畏怖。

最近ヒグマに関しては、シートンの『灰色熊の伝記』、吉村昭『羆嵐』を立て続けに読んでいた。
それに関連してヒグマによる人的被害の資料にも目を通した。
だからこそ、本書は本当に恐怖だった。

絶対的な強さを誇る身体能力だけでも対策しようがないと思えるのに、彼らは賢い。
人間の行動の先を読み、自らの足跡を踏みつつ後退して一旦隠れ襲いかかるという罠まで仕掛ける。
おまけに非常に執念深く、一度自分のものと認識したものには執着する。

かつて死者3人を出した「福岡大ワンゲル部ヒグマ襲撃事件」では、ヒグマに中身を
取られたリュックを回収したことが、自らの獲物を横取りされたという認識となり、
さらに被害を大きくしたと考えられている。
『羆嵐』の三毛別事件では、通夜の柩に収められた食べかけの遺体を取り戻そうと
している。

ただ、このどうしようもない、という恐ろしさはある意味諦めがつくものでもある。
むしろ密猟者や動物バイヤー、それを黙認せざるを得ない研究者のむなしさのほうが
心になんとも言えない毒を残した。

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