篠田節子 著
あの地震で復刊されたといういわくつきの一冊……らしい。
原発後の日本を舞台にした表題作は素晴らしい。
経済力とともに発言力も政治力も失った近未来の日本では、
すでに生鮮食品というものは庶民の口には入らない。
力をつけた中国から来る酸性雨によって植物は壊滅し、
見て楽しむ緑すら既にない。
品種改良や育成法で解決しようとした時期は束の間で、
すぐに合成繊維製の植物が、季節に合わせて色や姿を変えるほうが
安価であるとして取り入れられる。
あのオリンピックのとき、芝生に緑の塗料をまいていた光景が
よみがえり、ぞっとしたのは私だけではないはずだ。
世界の方向性がそうなったとき、清潔や細やかさや高い技術で
生き延びようとした日本の価値観では太刀打ちできない。
ただ老いてなんの価値もない、過去の国・日本。
寂れた古い都営住宅に住む老夫婦のもとにわずか500万円で入れるという、
終身介護施設リゾートピア・ムルへの誘いが来る。
そこに入れば長くても3年しか生き伸びないという。
それは強制的な延命が行われないから、というのだが。
ユートピアのような森の中、本物の木でできた家に住み、
新鮮な野菜や魚を口にする日々。
しかし、そこには奇形の魚が泳ぐ湯の川が流れ、巨大なきのこがはえ、
双頭の鹿が遊ぶ。
そして住む人々は次々と死へと向かっていくのだ。
なぜそんな森が残っているのか。
それは核の中間保管施設だったから。
目に見えない毒に犯された美しい世界。
こんなに恐ろしい話なのに、長く生きた終わりにこんな暮らしも
悪くない、と思った自分が怖い。
あの地震で復刊されたといういわくつきの一冊……らしい。
原発後の日本を舞台にした表題作は素晴らしい。
経済力とともに発言力も政治力も失った近未来の日本では、
すでに生鮮食品というものは庶民の口には入らない。
力をつけた中国から来る酸性雨によって植物は壊滅し、
見て楽しむ緑すら既にない。
品種改良や育成法で解決しようとした時期は束の間で、
すぐに合成繊維製の植物が、季節に合わせて色や姿を変えるほうが
安価であるとして取り入れられる。
あのオリンピックのとき、芝生に緑の塗料をまいていた光景が
よみがえり、ぞっとしたのは私だけではないはずだ。
世界の方向性がそうなったとき、清潔や細やかさや高い技術で
生き延びようとした日本の価値観では太刀打ちできない。
ただ老いてなんの価値もない、過去の国・日本。
寂れた古い都営住宅に住む老夫婦のもとにわずか500万円で入れるという、
終身介護施設リゾートピア・ムルへの誘いが来る。
そこに入れば長くても3年しか生き伸びないという。
それは強制的な延命が行われないから、というのだが。
ユートピアのような森の中、本物の木でできた家に住み、
新鮮な野菜や魚を口にする日々。
しかし、そこには奇形の魚が泳ぐ湯の川が流れ、巨大なきのこがはえ、
双頭の鹿が遊ぶ。
そして住む人々は次々と死へと向かっていくのだ。
なぜそんな森が残っているのか。
それは核の中間保管施設だったから。
目に見えない毒に犯された美しい世界。
こんなに恐ろしい話なのに、長く生きた終わりにこんな暮らしも
悪くない、と思った自分が怖い。
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