哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

『ことばと思考』(岩波新書)

2010-12-20 01:58:58 | 科学
 話す言語によって思考の仕方が異なるかどうかを、認知心理学や脳科学の観点から実験した結果などによって分析した内容を紹介した本である。

 結論はやや折衷的な内容で、言語が異なっても認識内容に違いがない面もある程度あるものの、母国語の習得によって認知の仕方に違いが出る面もあることがわかったという。例えば、lとrの発音は日本語では区別を必要としないため、赤ん坊のときには違いを認識できていても、日本語の習得とともに区別をしなくなるという。

 よく、言語の習得によって脳の回路が異なってくるという話を聞くが、実際にそうなるようだ。人間は言語の習得によって、実際に認識する内容を自然と取捨選択し、それによって情報処理を迅速に行っているそうだ。但し、例えば色の名前の区別によって認識に影響が出る場合と、必ずしも認識に違いがない場合もあり、言語によってすべて認識に影響があるともいえないようである。

 しかし、基本の認知や思考の仕方は、母国語の影響下に一定程度あるということはいえるそうだ。これはバイリンガルでも同じで、違う言語の習得によって複数の知覚の仕方を習得できるが、基本的な言葉による認知の仕方はネイティブとは異なり、母国語の影響下にあるという。


 以前、塩野七生さんの「日本人へ」で、会社の公用語を英語にすることを笑える話としていた文章があったが、まさにそれが科学的に裏付けられているということにちょっと驚いた。日本語を母国語としている以上、認知や思考の仕方は、たとえバイリンガルでも日本語の影響下にあるわけだから、認知や思考の仕方まで英語で行うのは無理ということだ。もちろん企業はグローバルになっていっているのだから、英語を一定のコミュニケーションツールとして限定した使い方をすれば問題ないと思うが、考え方もすべて英語でするというのは日本の企業である以上困難ということだろう。